2005年4月25日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

山を楽しく

山岳団体が一役


 新緑の季節を迎え、山に出かける人も増えています。「安全に、しかも楽しみたい」というのが愛好者の気持ちです。それに応えるため、山岳団体が活動しています。千葉県房総の山での道標づくりについて、う沢喜久雄さん、近畿の山での環境測定について池田茂さんのリポートを紹介します。


ハイキング盛んな千葉・房総 道標つけて登山安心

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完成した道標


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第1回道標たての作業をする県職員、東京大学千葉演習林職員、労山会員=昨年3月

 千葉の最高峰は四〇八メートルの嶺岡愛宕山。山が低いのに加え黒潮の流れる海の影響を受けて“真冬にも菜種の花が咲く”と民謡に歌われるほどの温暖な地。冬に野水仙や菜の花を求めて四季通年のハイキングが盛んです。

低山の房総でなぜ遭難が?

 こんな房総の山で、三十年ぶりに道標造りが始まりました。そのきっかけになったのが一昨年十一月末の清澄山系で起きたハイカーの大量行方不明の遭難事件でした。このニュースで“房総にも遭難するような山があるのか”と、房総の山が脚光をあびました。低山である房総の山での事故は珍しい事でもあるのでマスコミも登山専門誌もスポットをあびせました。房総の山と滝についてガイドブックを出版したことのある私は、マスコミの求めに応じて「低山である房総の山を甘く見て、ガイドが下見もせずに三十名もの大勢を案内したこと。千葉国体以後三十年もの道標整備がされてなくての“道まよい”が原因だ」と指摘しました。

 事件以後の十二月県議会で“安全登山のため道標整備をします”と言明がありました。

 二〇〇四年二月に、県の担当課から“道標整備検討委員会”への参加が県内二つの山岳団体へ要請され、房総を代表する五コースについて道標を整備することが決定しました。この年の三月には遭難の舞台となった七里川温泉―石尊山―まめん原―清澄山までの整備が終わりました。〇五年の二月から四月には三石山―三逢―元清澄山―保台ダムコースを整備しようと、今、山に入っています。

2つの団体の協働がすすむ

 房総の山や渓には硫黄を含んだ乳白色の温泉やヨード分の濃い黒い温泉がわき出ています。豊かな湧水(ゆうすい)にちば米を使った地酒の酒蔵が五十軒ほど散在しています。これに加え海の幸・山の幸を組み合わせて、照葉樹の森を訪ねるハイカーに、安全な道と満足できるフィールドを提供しようと二つの山岳団体(千葉県山岳連盟と千葉県勤労者山岳連盟)の協働が進んでいます。

 (千葉県勤労者山岳連盟所属、日本共産党千葉県大原町議・う沢喜久雄)


酸性霧・雨で森林立ち枯れ 近畿全域でNO2測定

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樹木が枯れた森林=昨年7月25日調査、奈良県・弥山の山小屋近く


 都会で大量発生する酸性霧・雨の原因物質であるNO2(二酸化窒素)の風による山域地帯での移動を測定する運動は一九九八年、大阪府の豊中勤労者山岳会(豊中労山)有志二十七人によって始まりました。二〇〇〇年から、大阪府勤労者山岳連盟(大阪府労山)加盟の山の会で取り組むことになり、二〇〇三年から近畿全域の労山会員が参加するまでに広がりました。

例を見ない大規模な運動

 昨年までの七年間の測定で、延べ約千五百人がNO2簡易測定用アマヤ式カプセル約二千五百個を使って登山家たちの居住地および近畿全域の山域地のNO2測定をしました。登山家による山岳自然保護での調査測定運動としては、国内でも例のない大規模な運動に発展しつつあります。

 調査測定運動を始めた動機は、大阪で発生するNO2=年間約五万トン=やSO2(二酸化硫黄)が原因物質となって酸性霧・雨が発生し、奈良県の大峰山脈・台高山脈の広範な森林に立ち枯れ被害を与えているという情報によるものでした。

 調査測定運動の初期段階では労山会員のなかから、この運動に対して「山岳自然保護の運動とは思えない」「NO2発生の抑制に役立つか、その道筋を示せ」「政府や自治体を動かすことができるか」「いつまで続けるか」等々の意見が続出しました。運動を進めるうえでの難しさをいやというほど知らされました。

無残な大木にがくぜんと…

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2003年度の汚染物質測定=大阪府能勢町剣尾山

 そこで、酸性霧・雨の専門家四氏を講師として、勉強会を始めました。また、大峰山脈で長年、森林の立ち枯れについて調査を続けている奈良県勤労者山岳連盟の案内で弥山、八経ケ岳(一部の地図では「八剣山」と記入)などの現地調査を行いました。針葉樹のシラビソやトウヒの多くが立ち枯れ、さらに進んだところでは、がい骨のようになった大木が見るも無残に累々と横たわっているのを見て愕然(がくぜん)としました。案内人は「これらは、一番に酸性霧・雨、次にシカの食害。最近ある専門家は温暖化による影響も加わるという。これらが重なって被害を大きくしている」とつけ加えました。

 調査測定運動を七年間続けてきた成果として、(1)測定当日、西系統の風向の場合、大阪で発生した極めて多くのNO2は大阪と奈良、和歌山との府県境を南北に連なる山々を乗り越える(2)西系統でも西南西の風向の場合、大阪府西部と阪神間で発生した大変多くのNO2が大阪、京都、兵庫の府県境にある山々を乗り越える―ことが明らかになりました。

 これ以上のことを解明するには、さらに調査測定運動を続けることが必要です。

 “NO2・SO2↓酸性霧・雨という巨大な化け物”を退治するには、世論を動かし、自治体や政府を動かさなければなりません。そのためには、長期にわたる取り組みと運動の広がりが不可欠です。目に見えない巨大なものへの挑戦ではありますが、スタッフ一同一丸となってがんばります。

 (大阪府勤労者山岳連盟自然保護委員会副委員長・池田茂)


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