2005年4月21日(木)「しんぶん赤旗」
シリーズ 9条改憲 ここが問題
9条2項改変なんのため?
「海外で戦争する国」に
衆院憲法調査会が最終報告書を議決し、自民党新憲法起草委員会が小委員会要綱を発表するなど、憲法改悪にむけた動きが激しさをましています。日本共産党の第三回中央委員会総会は、この動きが反戦平和を願う国民との矛盾を広げることを指摘し、「憲法改悪反対の国民多数派の結集」を呼びかけました。そのためには何が大切か、「九条改憲ここが問題」を順次紹介します。
政府の解釈
「改憲策動の真の目的が、日本をアメリカいいなりに『海外で戦争をする国』につくりかえることにあることを、広く明らかにしていくことです」(志位和夫委員長の報告)
資料1で示したように、いま改憲派が焦点にしているのは、九条改定です。なかでも、「戦力の不保持」「交戦権の否認」を定めた九条二項を改変し、自衛軍あるいは自衛隊の存在を明記することが共通した主張です。このことは単に自衛隊の現状追認にとどまらない重大な意味をもちます。
資料2は、九条二項が果たしてきた役割を、政府の解釈からみたものです。政府は自衛隊を「軍隊ではない」とごまかすため、解釈改憲を積み重ねて「自衛のための必要最小限度の実力組織」などとしてきました。
そこから「派生する当然の問題」として、「海外での武力行使はできない」としてきたのです。
この「歯止め」を取り払うことは、日本を「海外で戦争をする国」に変質させることを意味します。その結果、九条二項だけでなく九条全体を廃棄することになるのです。
国民世論は
アメリカは、自らの世界戦略に日本を従わせるため、九条を改憲せよと圧力をかけてきました。アーミテージ前国務副長官は「憲法九条は日米同盟の邪魔物」と発言し、「連合軍が共同作戦をとる段階で、ひっかからざるを得ない」からだとのべています(『文藝春秋』〇四年三月号)。
しかし、国民は「自衛隊の現状は認めていい」と思っている人でも、「海外で武力行使していい」と考える人は少数です(グラフ参照)。ですから、改憲の真の狙い―アメリカいいなりに日本を「海外で戦争をする国」につくりかえることを明らかにしていけば、国民の多数を結集することは可能なのです。
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1項 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。 |
| 各党の改憲試案 焦点は9条 (資料1) |
衆院憲法調査会の最終報告(〇五年四月)
「自衛権及び自衛隊について何らかの憲法上の措置をとることを否定しない意見が多く述べられた」「非軍事の分野に限らず国連の集団安全保障活動に参加すべきであるとする意見が多く述べられた」
自民党新憲法起草委員会の要綱(〇五年四月)
「自衛のために自衛軍を保持する。自衛軍は、国際の平和と安定に寄与することができる」
民主党憲法調査会の「憲法提言・中間報告」(〇四年六月)
「憲法の中に、国連の集団安全保障活動を明確に位置づける」「国連憲章上の『制約された自衛権』について明記する」「『武力の行使』については最大限抑制的であることを宣言し、書き入れる」
民主党・鳩山由紀夫元代表の私案(〇五年二月)
「日本国は、自らの独立と安全を確保するため、陸海空その他の組織からなる自衛軍を保持する」
公明党・運動方針(〇四年十月)
「今後の9条論議に当たっては…自衛隊の存在の明記や、わが国の国際貢献のあり方について、『加憲』の論議の対象として、より議論を深め、慎重に検討していく」
| 政府の9条2項解釈 (資料2) |
憲法制定時 「戦争放棄に関する本案の規定は、直接には自衛権を否定しておりませぬが、第九条二項において一切の軍備と国の交戦権を認めない結果、自衛権の発動としての戦争も、また交戦権も放棄したものであります」(一九四六年六月二十六日衆院憲法改正案第一読会、吉田茂首相)
警察予備隊創設時 「九条に申しまする戦力とは、陸海空軍、これに匹敵するような戦争遂行手段としての力を意味する。その判定は、結局それが国際社会の通念に照らして現代戦における有効な戦争遂行手段たる力を持つかどうかによってきめられるべきであります」(五一年十月十七日参院本会議、大橋武夫国務大臣)
自衛隊創設後 「政府は、昭和二十九年十二月以来は、憲法第九条第二項の戦力の定義といたしまして、自衛のため必要な最小限度を越えるものという先ほどの趣旨の答弁を申し上げて、近代戦争遂行能力という言い方をやめております」(七二年十一月十三日参院予算委、吉国一郎内閣法制局長官)
9条2項からくる制約 「自衛隊は、わが国の自衛のための必要最小限度の実力組織であるということで憲法九条に違反するものではないことが根本です。そういった自衛隊の存在理由から派生する当然の問題として三つあると思います。一つは、いわゆる海外派兵、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣することは…許されない。次に、集団的自衛権は、わが国を防衛するため必要最小限度の範囲を超えるもので許されない。第三番目として、…国連軍の目的・任務が武力行使を伴うものであれば、これに参加することは許されない」(九〇年十月二十四日衆院国連平和協力特別委員会、工藤敦夫内閣法制局長官)
| 政府の言い訳 |
9条2項が海外での武力行使の「歯止め」になってきたため、1990年代からの自衛隊派兵法のなかで、政府はさまざまな言い訳をせざるをえませんでした。
PKO(国連平和維持活動)協力法(92年)では、「PKO5原則」(紛争当事国の停戦合意、活動の受け入れ同意、中立性、以上の原則が崩れた場合の独自撤退、武器使用は生命防護に限る)なるものを提示。宮沢喜一首相は「わが国が海外において武力の行使をした、あるいは(武力行使を)するような状況に面したということになると憲法との問題がでるから、そこをあらかじめ5原則によって安全にしておきたいということだ」(92年6月1日参院国際平和協力特別委)と説明しました。
しかし、当時から「ガラス細工」をいわれた5原則は、その後なし崩しにされ、武器使用は上官の命令によるものと変更。「凍結」されていたPKF(国連平和維持軍)本体への参加も解除されました。
周辺事態法(99年)のときには、「後方地域支援」という世界中どこにもない用語を発明。小渕恵三首相(当時)は、「後方地域でおこなわれる行為であり、米軍の武力行使と一体化の問題が生ずることも想定されない」(99年3月12日、衆院本会議)とのべました。
しかし、審議では後方支援でも戦闘行為と一体とみなされること、前線と後方地域などの線引きは不可能なことが浮き彫りになりました。
アフガン戦争をはじめ米国の「対テロ戦争」支援を可能にしたテロ特措法(2001年)では、政府は「戦闘地域と一線を画した地域での活動だ」と合理化。戦後初めて戦地への自衛隊派兵の根拠となったイラク特措法(03年)でも、小泉純一郎首相は「他国の武力行使と一体とならないよう『非戦闘地域』に限っているので、憲法違反にあたらない」(03年7月7日、参院本会議)と言い逃れようとしました。しかし、戦闘地域と非戦闘地域とが区別できないことは、イラクの実態で明らかになりました。



