2005年4月18日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPress

フリーター応援? 企業が新ビジネス

「天の岩戸」のノリで


 いま、日本の若年フリーターは四百万人超とも言われています。この膨大な数のフリーターに着目した求人誌が新しいビジネスチャンスを模索する動きも出ています。リクルート社の求人誌『フロム・エー』企画の「フリーター応援」と銘打つイベントにいってみました。(矢野昌弘)

 「入場無料」、「入退場自由」、飲み物・食べ物付き、抽選で当たる豪華賞品、そのうえお笑い芸人のステージも。東京・有楽町でのイベントが千八百人の青年を集めました。

■まるで学園祭

 電車の中づり広告でも宣伝されたこの企画の名前は「フリーターズ スクエア」。昨年五月と十一月に開催し、あわせて約四千五百人が集まりました。今回が三回目(二月)です。

 出展企業の社員が会社説明をするブース(展示会場)、パソコンでの適職診断コーナー、居酒屋チェーンのブースではマグロを実際にさばき、メークアップの専門学校は実際に実演してみせる…。まるで学園祭です。

 派遣や請負業務といった登録型の仕事について説明するブースは象徴的。インストラクターの若い女性が話す「業務請負で働くメリット」はこうです。

 「“あすのコンパ代がない”。こんなとき、短期で働け、しっかり稼げ、日払いでの仕事が多い、業務請負が便利」「“とくにやりたいことがない”。いろんな現場に行くから、短期でいろんな業界をのぞき見できるよ」

 業務請負の仕事をお気楽に描きます。そして、ロレックスの高級時計を買いたくて、倉庫作業の仕事をした男性の体験談が続きます。非人間的ともいえる業務請負や派遣労働の実態とは、大きな落差を感じます。

 同誌編集部の調査では、過去二回を平均して足を運んだ人の七割ほどがフリーターで三割が学生。参加者の四割が正社員を希望しています。

 楽しいノリと、その中で資料を集め、会場すみで食い入るように会社説明を読む青年の姿がなんとも印象的でした。

 どんな人が来ているのか。

■先見えなくて

 「フリーターをやって三年。今は飲食店で週五日のアルバイトをしている。掛け持ちできる融通がきく仕事がないか、探しにきた。フリーターの働き方がいいなと思っている。『いずれは正社員に』とも思わない」=東京都内の女性(21)=

 「ここにくることで何かチャンスやヒントが見つかればいいと思ってきた。二十四歳まで大学生で、それから派遣、アルバイトを転々。そろそろ三十歳になるのでまとまった期間働くことができる職場につきたくて、なにか見つかればと思ってきました。これまで勤務地や労働条件、期間もバラバラで厳しかったから安定した職につきたいです」=埼玉県の男性(29)=

 「実はきのう『DODA』(学生援護会東日本の求人誌)の転職フェアにも行ったんですけど、ほかにも正社員前提で採用してくれる会社はないかと思ってきました。これまで派遣の契約をつなぎ、つなぎながらやってきたんですけど、年も年ですし、これって先が見えなくて不安じゃないですか」=東京・三鷹市の男性(31)=

 「去年大学出て、IT関係の派遣会社に入ったんですけど、新人に即戦力を求められるのはつらいなと思ったし、業界自体が合わないと考えてやめました。正社員になりたい。四月までには決めたい。早く決めないと親から家を追い出すと言われているので…」=東京・板橋区の男性(23)=


手ごたえあり

『フロム・エー』関東版編集長 渡辺一正さん(36)

 企業がすべて正社員に組みかえていく方向感をもっているわけではない。フリーターをいかす形でこれからの社会を考えていこうではないか、「フリーター応援」ということでやった。

 天照大神(あまてらすおおみかみ)が閉じこもった「天の岩戸」という話がある。お祭やっていたら出て行きたくなったという、まさにあのノリ。もうけ度外視でやった事業で、実験だった。てごたえはあり。これをビジネスとして永続的にできる仕組みを考えている。

 私たちは「ままフリ(フリーターのまま)OK」「脱フリ(脱フリーター)OK」と言っている。どっちもあっていいのではないか。カウンセリングが必要ならジョブカフェ、ハローワークだし、脱サラして独立するなら『アントレ』、正社員なら『ビーイング』と、役割分担がある。

 「楽しくやろう」「どこでもいいから働いてみたらいい」というのがわれわれのスタンス。


若者に責任ない

日本大学経済学部教授 牧野富夫さん

 フリーターの現状に着目したこうした動きは、自らのビジネスチャンスにしようということでしょうが、結果的には財界や政府の雇用政策を擁護する役割を果たすことになるのではないでしょうか。

 ここ十年、財界は「厳選採用」を徹底し、一九九二年と二〇〇二年の比較でも高卒の採用は七分の一、短大卒が四分の一しか採用していません。大卒も三割減らされました。口実は「競争力強化」ですが、日本は人件費の高コスト構造だとして雇用を抑え、人件費の極度の抑制をはかるというものです。

 財界は、これまでの雇用慣行をくずし、労働力を入れ替え自由にできるようにしようとしています。そのため、公的なものだけでなく民間の職業紹介をつくり、雇用の形態問わず労働力を安いところへ押しこめていく役割を、民間ができるようにしようとしています。

 今の若者について、「甘えている」などという声があります。しかし、若者が仕事にあぶれる仕組みがつくられていることに問題があります。責任は国・財界にあるわけですから、若者たちの責任ではないことを知らせていく必要があります。また、主体的に状況を変えていく努力とともに自分をみがく努力も必要ではないかと思います。

 正社員の減少で、技術の継承がうまくいかない問題や企業スキャンダルが起き、またニート問題など国の将来を危うくするような大きな問題もあります。若者たちだけの問題とせず、切迫した問題としてとりくむ必要があると思います。


お悩みHunter

「心の病気」になった 正社員で働きたいが

  もう三十歳にもなり、正社員として働きたいと思っています。社会経験を積んでから教師になろうと上京して八年。派遣社員のまま終わってしまうことへの不安などで体調をくずし、心の病気になりました。薬を飲んでいれば仕事に支障をきたすことはありませんが、正社員になったら続けられるでしょうか。(30歳、女性。東京都)

自分が安定する職種選んで

  薬が必要な病気にかかっている場合、薬を飲み自分の調子をみながら、仕事をされますね。残業を減らしたり、お酒を減らしたり、病気との共存というのでしょうか。体の病気も心の病気も同じです。

 ただ病気が悪くなる場合、良い場合はどんなときか、分かるようになることは大切。わかることは、病気がよくなる証拠です。質問から、あなたは自分の病気について正確な知識をもっているように見受けられます。

 仕事については、心の病気だから仕事ができない、というのではなく、問題は病気へのとりくみかたです。自分にとって、どんな生活スタイルがいいのかをよく知ることです。たとえば残業はしないとか、土曜、日曜は休むというように。

 今の社会状況では、正社員がハードだったり、ストレスがたまることはよくあることです。正社員を続けられるかどうかは、仕事の中身いかんだと思います。自分が安定する職種を選べば、正社員は続けられるでしょう。

 病気を理解している人とよく相談することも大切。体調がよくならなかったら、地元へ帰って別な道を探すのも一つの方法だと思います。選択肢を広くもってはどうでしょう。

 三十歳でもあわてず、健康で長く続けられる仕事を見つけてください。病気が悪くならなければ、自信もついていくのではないでしょうか。


 精神科医 上村順子さん 山口大学医学部卒。代々木病院、松沢病院などで勤務。99年からめだかメンタルクリニック院長。


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