2005年4月17日(日)「しんぶん赤旗」

ここが知りたい特集 世界の軍事同盟

いま世界の軍事同盟は

進む空洞化 広がる平和の共同体


 「軍事同盟から平和の共同体へ」。世界各地に武力でなく対話による平和秩序の構築の動きが広がっています。これまで世界を覆っていた軍事同盟は今、どうなっているのかをみてみました。


自力で平和の枠組み

アジア

 「私たちは欧米の力に頼らないで、自分自身の力で対処することを決意しました。日本はなぜ米軍の力に頼るのですか」

 東南アジア諸国連合(ASEAN)設立に中心的役割を果たしたタイのタナット・コーマン元外相は本紙にこう語ったことがあります。

 インドネシア、シンガポール、マレーシア、フィリピン、タイの五カ国が一九六七年に設立したASEANは、いま加盟十カ国に拡大し、五億人を超える人口を擁しています。

 米国のベトナム侵略戦争が本格化した六〇年代。東南アジア諸国のなかには米主導の軍事同盟、東南アジア条約機構(SEATO)に組みこまれ、戦争に参加した諸国もありました。しかし、七五年のベトナムでの米国の敗北後、地域の情勢は大きく変わりました。SEATOは七七年に解消。各国は戦争から教訓を引きだし、自身の力による平和の枠組みづくりに着手したのです。

写真
東南アジア友好協力条約への日本の加入式=04年7月2日(北原俊文撮影)

米軍基地なくす

 七六年二月、インドネシアのバリ島で、ASEANが初めて開催した首脳会議。ここでASEANの「平和憲法」ともいえる東南アジア友好協力条約(TAC)が締結されました。条約は「一九五五年にバンドンのアジア・アフリカ会議で採択された十原則の精神と原則に従う」とし、国連憲章と主権・領土保全の尊重、すべての国の対等・平等などのバンドン十原則とほぼ共通する六原則を規定しました。

 現在TACには、ASEAN十カ国に加え、日本、中国、インド、韓国、ロシアなど七カ国が加入。世界人口の半分以上を占める三十三億七千万人をカバーしています。

 一九九四年には、ASEAN地域フォーラム(ARF)が発足しました。ASEANを軸にアジア全域を対象とする安全保障対話の場です。ARFには日本、米国、北朝鮮を含む二十五カ国・機構が参加しています。さらに九七年、東南アジア非核兵器地帯条約が発効。ASEAN加盟十カ国が調印しています。

 こうした流れのなかでタイ、フィリピンから米軍基地がなくなりました。ASEAN加盟の全十カ国は非同盟諸国会議の参加国です。

新たにインドも

 ASEANを中心とした平和の枠組みづくりは、今年末のクアラルンプールでの東アジア首脳会議の開催で東アジア全域にまで広がろうとしています。この首脳会議にはASEAN十カ国と日本、中国、韓国のほか、新たにTACに加入したインドが参加することになりました。

 フィリピンのロムロ外相は首脳会議に関連して「歴史は障壁でなく、橋をかけることの意義を教えている。強固な橋が求められている」(十一日付フィリピン外務省の報道発表)と強調しました。平和の枠組みをさらに強めるアジアの英知に期待がかけられています。

 (ハノイ=鈴木勝比古)


米戦略に明白な一線

欧 州

 米国主導の最大の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)=加盟国は米国など二十六カ国=でも大きな変化が起きています。

 NATOは一九四九年、ソ連とその同盟諸国を包囲する軍事同盟として発足しました。一九九一年のソ連崩壊後も存続し、九九年四月には共同防衛的な組織から世界中に軍を派遣する軍事同盟への変更を打ち出しました。米国の首都ワシントンでの首脳会議で採択した「新戦略概念」がそれを示しています。その背景には米軍戦略にNATOを活用しようとする米国の意図がありました。

 二〇〇一年の9・11対米同時テロ後、アフガニスタンに対する軍事作戦を展開した米国に協力するためNATOは「共同防衛」をうたった第五条を発動しました。しかし、NATOの行動は軍事攻撃ではなく治安維持活動にとどまりました。

戦争動員を拒否

 NATOの変化が明りょうになったのはイラク戦争をめぐってです。米国はNATOを米国の戦争のために動員することはできませんでした。

 〇三年三月の開戦前、戦争反対の独、仏、ベルギーなどの欧州の主要同盟諸国はNATO加盟国トルコの防衛をめぐる議論で戦争推進の米英両国と対立。トルコも基地提供を拒否しました。これをきっかけにNATOは分裂状態に陥りました。

 ブッシュ大統領がイラクでの大規模戦闘終結を宣言した同年五月一日以降も、米国が意図したNATO軍のイラク派遣は欧州同盟国の反対で頓挫しました。それならばと米国が提起したイラクの治安部隊の訓練もNATOあげての実施とはなっていません。

 米国はイラク戦争と占領では、NATOではなく加盟国内で戦争に賛成する諸国を中心に結集した「有志連合」の協力に依拠せざるをえなくなっています。

 欧州同盟国には、「NATOは米国の戦略を進める道具の一つにすぎない」との批判も広がっています。

新協議機関へ

 一方でNATO加盟国がかなりの比重を占めていた欧州連合(EU)は二〇〇三年十二月(当時のEU加盟国十五カ国中、NATO加盟国は十一カ国)、英国も含め初めて採択した共通安保戦略で、国連中心の多国間主義を安全保障の要と位置づけました。これは米国の先制攻撃戦略とは明白に一線を画したものです。

 「NATOは大西洋両岸のパートナーが戦略を協議、調整するための主要な場所ではなくなっている」

 シュレーダー首相は今年二月半ば、ドイツのミュンヘンで開かれた安全保障政策会議でこう断言しました。この発言は、国連中心の多国間主義を掲げる欧州同盟国が、米国の意のままになる「軍事同盟」ではなく大西洋間の新たな協議機関の必要を指摘したものと受け取られています。

 フランスのシラク大統領もシュレーダー発言を支持。同大統領はブッシュ米大統領の訪欧に合わせた二月後半のNATO首脳会議で「欧州大陸で起こっている変化の実態を測りつづけなければならない」とのべました。

 (ロンドン=西尾正哉)


メキシコ脱退の衝撃

中南米

 米国での同時テロ事件が発生する直前の二〇〇一年九月、米欧のマスコミは注目しませんでしたが、米州大陸の一角で歴史的事件が起きていました。中南米主要国の一つであるメキシコのフォックス大統領が米州相互援助条約(リオ条約)からの脱退の意向を表明したのです。

 メキシコは最近、脱退の手続きが完了したことを明らかにしました。

軍事対応そっぽ

 一九四八年に発効した米州相互援助条約は、「米州の一国にたいするいかなる国による武力攻撃も、米州のすべての国にたいする攻撃とみなし」、加盟各国は攻撃にたいして共同して対処する条項(第三条)をもつ軍事同盟。かつては中南米やカリブ海地域に米国が軍事介入する際の根拠ともされてきました。

 メキシコの条約脱退過程に直接かかわったイルエガス元外務次官は、「軍事同盟を解消して、戦争参画の義務から自由になること」がメキシコ側の意図だったと述べています。メキシコの脱退によってリオ条約史上はじめて加盟国数が減少する事態となりました。

 その後も軍事同盟「空洞化」の動きが続いています。

 米国での同時テロ事件後、リオ条約にもとづく共同対処を検討する加盟国外相会議が開かれました。しかし同会議で決まったのは、加盟国にたいしてテロ攻撃の実行者を拘束、処罰するうえで「法にもとづいて可能なすべての手段をとる」よう求めることでした。米州各国から戦闘部隊を送るといった軍事的対応はありませんでした。

 メキシコ紙ホルナダの報道によると、会議では、メキシコ代表が(テロのような)新たな危険にたいして軍事条約で対処する仕組みそのものが「時代遅れ」だと主張。軍事的対応を不適切だと指摘する意見も相次ぎました。

手結ぶ革新政権

 二〇〇三年以降、南米では親米政権が次々と選挙で敗退し、左翼的な政権に交代。米国言いなりを拒否して革新的な政権同士の共同の動きを強めています。南米ではリオ条約が軍事同盟として機能する条件はますます狭まっているという見方が強くなっています。


強化に熱中 日本の異常さ

 世界中が軍事同盟から平和の共同体への流れを強めているなかで、唯一逆方向へ動いているのが日本です。

 「世界中への自由の拡大」と称して、単独行動主義と先制攻撃の戦略、世界への軍事干渉戦略を強める米ブッシュ政権。小泉政権はこの米戦略と一体で日米同盟を世界化しようとしています。

 「防衛計画の大綱」や「日米安全保障協議委員会(2プラス2)」など最近の一連の動きがそれを浮き彫りにしています。日米同盟を世界中に軍事介入するための道具にするこの策動と憲法九条の改定にむけた動きとは一体です。

 それは世界の流れに逆らい、日本をアジアからも世界からも孤立させる道です。


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