2005年4月8日(金)「しんぶん赤旗」

元官僚「一部無罪」確定へ

薬害エイズ

検察、上告を断念

核心部分の責任不問


 薬害エイズ事件で、二件の業務上過失致死罪に問われ、一、二審で一部無罪とされた元厚生省生物製剤課長、松村明仁被告(63)について、検察当局は七日、「適切な上告理由が見当たらない」として最高裁への上告を断念する方針を固めました。刑事訴訟法上、八日の上告期限が過ぎれば無罪が確定することになります。血友病患者の被害者からは「薬害エイズ事件の肝心かなめの部分の無罪は納得できず無念だ」と怒りの声があがっています。


写真
血友病患者の被害は追及できないことに…。写真は東京高裁判決後、会見するHIV訴訟原告団・同弁護団=3月25日、東京・霞が関

 三月二十五日の東京高裁の控訴審判決は、一九八五年五―六月にHIV(エイズウイルス)に汚染された危険な非加熱製剤を投与され、エイズで亡くなった血友病患者の死亡事件(帝京大学病院)については無罪としました。この時点で被告は、危険性を予見できず、安全なクリオ製剤に転換して、患者を死亡させる結果を回避することは不可能だったという理由でした。

 他方、八六年四月に大阪の病院で同製剤を投与された肝臓病の患者がHIVに感染し、エイズで死亡した事件について同被告は有罪(禁固一年、執行猶予二年)となっています。同被告は、この有罪部分について最高裁に上告しており、今後、この部分だけ争われることになります。

 薬害エイズ事件で、ほかに刑事責任が問われたのは、旧ミドリ十字(現三菱ウェルファーマ)の歴代社長(最高裁で係争中)と、元帝京大副学長の安部英被告(88)=一審無罪、東京高裁で心神喪失と判断されて公判停止=。松村被告と安部被告は同じ八五年の事件で起訴されましたが、核心部分の血友病患者については、刑事責任が問われないまま終結することになります。

 刑事訴訟法 刑事訴訟法での上告は、無罪部分の変更を求めるには検察側の上告が不可欠です。最高裁に上告できるのは、(1)憲法違反であるか憲法の解釈に誤りがある(2)これまでの最高裁判例に違反した判断をした場合(3)著しく事実認定や量刑に誤りがあった場合―にかぎられます。



血友病被害者 やり切れない

 東京高裁での公判を欠かさずに傍聴してきた札幌市在住の血友病患者で被害者の井上昌和さん(41)の話

 上告を求めて北海道だけでも二百人、全国から千二百九十八人の要請書が集まり、東京高等検察庁に提出していました。しかし、その願いが届きませんでした。ぜひ上告してほしかった。

 血友病患者にたいする厚生省(当時)の刑事責任については、切り捨てられました。八五年の早い時機から予見できたし、クリオ製剤での治療は可能でした。被害者の思いは検察を通してしか反映できないという刑事裁判。殺されていった仲間の怒りがストレートに通じず、このまま終わるのは無念です。

 千四百三十四人もがHIVに感染し、すでに五百六十四人もの血友病の仲間の命が奪われている薬害エイズ事件です。その肝心かなめの部分が無罪となることは、やり切れません。


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