2005年4月8日(金)「しんぶん赤旗」
土佐くろしお鉄道
列車激突から1カ月
ATS作動は赤信号だけ
運転士が死亡した第三セクター「土佐くろしお鉄道」中村・宿毛線の宿毛駅特急列車事故(高知県宿毛市)から一カ月。時速百キロメートル超で行き止まり駅に進入し、車止めを乗り越え駅舎に激突した惨事は、ATS(列車自動停止装置)が列車を止め切れなかった問題点を浮上させました。
(前田泰孝)
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事故列車「南風17号」に手動ブレーキをかけた形跡はありません。宿毛駅停止地点から百九十四メートル手前にあったATSが作動した可能性がありますが、止め切れませんでした。
事故列車と同型車の場合、時速百キロメートル超で急ブレーキをかけると、止まるまで五百―六百メートル必要です。
列車を救えたと思われるATSは駅停止点から六百三十六メートル手前にありました。しかし作動しませんでした(図参照)。
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8年前に予見
ATSは赤信号の時に作動するのと、規定速度や停止位置を超えた場合に単独作動する、の二つに大別されます。同ATSは場内信号が赤の時だけ作動するものでしたが、事故時は赤でなかったため作動しませんでした。
「赤は異常を予告するとき。例えば列車が入ろうとしたホームにまだ別の列車が残っていた場合です。正常運行ならほとんど赤になりません」(JR四国広報)
今回の事件のようなケースは、八年前の宿毛駅開業時から社内で予見されてきました(「高知新聞」三月十三日付)。運転士の一部は、信号に関係なく単独作動するATSを宿毛駅のもっと手前に設置するよう求めていましたが、会社は「運転のプロだからムダな機器をつける必要はない」と拒否しました。
国土交通省は先月三十日に緊急通達を出し、行き止まり駅に信号に関係なく規定速度を超えるとブレーキがかかる「速度照査ATS」の新設を求めました。
設置義務なし
土佐くろしお鉄道の松井和久総務課長は本紙に「暴走なんて想定外。事故は不幸が重なって起きた、やむを得ないもの」とし、国交省通達については「難しいことではない」と答えています。
JR四国によると、高松駅が速度照査ATS二機を新設したのにかかった費用は百万円。しかし同社ではこの種のATSは今までついていません。なぜか?
「国の法的ルールがないから」(前出の松井課長)というものです。
国交省令はATS設置のルールを定めていますが、この種のATSについて基準がありません。「速度照査ATSはあくまで予備的設備。緊急通達を出した後も設置義務付けは考えていない」といいます。
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同鉄道は七日、部分再開しました。事故以来三十六日ぶり。これまで代替バスで対応してきましたが、宿毛駅一つ手前の東宿毛―中村間を、普通列車上下各十三本走らせます。女性(60)は「地域の生活路線をあずかっているという自覚を持って出直してほしい」と願います。東宿毛―宿毛間の代替バスは続きます。
「土佐くろしお鉄道」 県と沿線自治体で株式九割以上を保有する第三セクター鉄道。一九八六年の国鉄分割民営化で切り離された路線を引き継ぎ設立されました。 |