2005年4月8日(金)「しんぶん赤旗」

取引先から「やったね」

勝訴した住友金属男女差別裁判

次世代へ希望つなぐ


 「差別はおかしいといい続けてよかった」「次世代に希望をバトンタッチできる判決でうれしい」。住友金属工業(大阪市)の男女差別を大阪地裁に訴え勝訴=判決は三月二十八日=した四人の女性たち(大阪本社勤務、一人定年退職)はいいます。提訴から十年。判決を力に「早期解決を」と決意を新たにしています。

 (中村 万里)



写真
勝訴を喜ぶ原告と支援の人々=3月28日、大阪市

 「『おめでとう』『私たちも勇気づけられます』と職場の人が廊下で声をかけてくれます。取引先の人も『やったね』と、わざわざ電話してくれました。本当に勝ったんだと実感しています」と笠岡由美子さん(50)。黒瀬香さん(48)も「『長い間ご苦労されてたんですね』『よかったなー』とお客さんが電話してくれました。差別が法廷で明らかになってうれしい」と誇らしげに語ります。井上千香子さん(54)は「勝てて本当に良かった。早期解決に向けがんばらんと」と意気込みます。

写真
「判決を力に早期解決を」と話す(左から)井上千香子さん、北川清子さん、黒瀬香さん、笠岡由美子さん

闇の人事制度最低の処遇に

 北川清子さん(65)=一九九九年に定年退職=は「重い扉をこじ開けてくださって本当にありがとう」などと書かれた何通もの手紙やファクスを示していいます。「花束や電話、手紙、メールなどが続々届いて、連日深夜まで返事を書いています。私たち女性は長い間、無念な思いをしてきました。それは会社が『闇の人事制度』で女性差別をしていたからだと、判決ははっきり断罪しました。この制度はすぐ廃止し、ごめんなさいと謝ってほしい」

 住友金属では、原告の女性たちと同時期に高卒で事務職に採用された男性は勤続二十三年目までに約九割が管理職の一歩手前の「管理補佐職」まで年功序列的に昇進。その多くが管理職になっています。一方女性は、勤続三十年以上でも「管理補佐職」より三ランク以上も下の「専門執務職」に留め置かれたままです。年収は男性より平均して二百五十万円も低額。北川さんの場合、年収は約五百万円、退職金は約一千三百万円も差がありました。

 会社側は、男女の格差は性別による差別ではなく「採用時のコースの違い(本社採用、事業所採用という採用区分)による」と主張しました。しかし判決は、それを退け、男女格差の原因は、事務職の社員を「イロハニホ」の五段階に分け、女性だけは学歴や仕事ぶりにかかわらず最低処遇の「ホ」に位置づけた「闇の人事制度」にあるとし、その違法性を認定しました。

部長・役員賞三回受賞でも

 「住友金属本社に入社(一九五九年)したときは一生働けるとうれしかった。父に絶対服従の母を見て育ったので、経済的自立なしに精神的自立はないと思っていましたから」と北川さん。ところが住友金属は、女性を「安上がりで短期の労働者」と位置づけ、結婚後・出産後も働き続ける女性には徹底的な嫌がらせをして退職に追い込んでいました。

 北川さんは結婚直後から一年半にわたり仕事をとりあげられ、来る日も来る日もただじっと座っていなければならない苦しい日々を強いられました。産休があけて出勤したときは、部長から「犬猫でも母親の手で子どもを育てているのに、君は保育所に子どもを預けて、犬畜生にも劣る」と罵倒(ばとう)されました。はしかの子どもを看病するための休暇願は部長に拒否されました。忘年会などにも声はかかりませんでした。

 このつらい日々、北川さんは「どんな嫌がらせを受けてもがんばろう。私ががんばっている限り、後に続く女性たちはこんな仕打ちは受けないだろう」と自分にいい聞かせて耐えました。住友セメントの女性労働者が訴えた裁判で「結婚退職制は違法」という判決がでた(六六年)ことも心の大きな支えになりました。

 やがて仕事と子育てを両立する北川さんの姿勢を認める上司も現れ、自主管理活動の事務局に抜てきされ主担当を務めました。能力向上のため自費で大阪外大の社会人講座に学ぶなど打ち込みました。仕事ぶりが評価され役員賞を一回、部長賞を二回受賞しました。

 ところがいずれの年も能力評価は普通以下の「C」または「C+」。人事室長に尋ねると「女性はどんな仕事をしようとC評価だよ。北川さんだけ差別しているわけではないよ」と。北川さんより八年後に入社し、北川さんのアシスタントをしている男性が、年収では二百三十万円も多いこともわかりました。

苦しむ女性の代弁者として

 「こんな差別は絶対許せない」。九四年、労働省大阪婦人少年室(当時)に調停を申請。しかし調停案は会社のいい分を認めた内容だったため、九五年に大阪地裁に提訴しました。

 法廷では住友金属の元女性社員が「多くの女性の怒り、悲しみ、悔しさの代弁者として、この裁判はたたかわれている」と証言。会社側の証人が女性社員を繰り返し「お嬢さん」と呼んで失笑を買い、弁護士にたしなめられる一幕もありました。

 踏まれても踏まれても春には芽を出す希望の色・もえぎ色のビラを二十数種類も配布。「闇の人事制度」や、これを隠すために会社が裁判所の文書提出命令に反して資料を隠したことなどを知らせ、怒りと共感、支援の輪を広げました。

 昨年春には「勝たせる会」が発足。ビラ配布や集会、パレード、裁判傍聴などを精力的に繰り広げました。「会」の会長らが株主総会に出席して質問し、女性管理職は0・3%しかいないことを明らかにしてきました。

 この二月には日本共産党の石井郁子衆院議員(副委員長)が国会でとりあげ、南野法相が出産後の女性にたいする住友金属の嫌がらせについて「耳を疑った。もっと女性を応援しなければ」と答えています。

 ところが住友金属は「女性であることを理由とした差別の実態はない」として控訴しました。

 「女性を差別している企業は真の意味で発展しないし、世界からも評価されないと思います。早期解決が企業にとってもプラスになるはず」。北川さんは力を込めます。


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp