2005年4月6日(水)「しんぶん赤旗」

地域で採択させない

「憲法の理念敵視」16団体が会見で批判

「つくる会」教科書検定合格


写真
扶桑社版教科書の検定合格を受け
共同記者会見する各団体

 「新しい歴史教科書をつくる会」の歴史教科書(扶桑社版)が文部科学省の検定を合格したことを受けて五日、子どもと教科書全国ネット21など十六団体が記者会見し、「国際社会での孤立化の道に踏み出す『あぶない教科書』」とする共同アピールを発表しました。教科書ネット21の俵義文事務局長は「一地域たりとも採択させない草の根の運動を起こす」と語りました。


 会場には各団体の代表が一列に並び、韓国、中国メディアや欧米の通信社からも記者が詰めかけました。アピールはA4判四枚分。「侵略戦争への反省から生まれた日本国憲法の理念を敵視する教科書」「検定で合格させた政府の責任は重大」などとしています。

 「『戦争と女性への暴力』日本ネットワーク」の西野瑠美子共同代表は「元従軍慰安婦に対し反省とおわびを表明した政府の立場にも反する」と教科書を批判。「歴史を知らない国民になってはアジアと共生できない」と語りました。

 歴史教育者協議会の石山久男委員長は「今回の検定で、扶桑社版だけでなく、他社の教科書からも『慰安婦』の用語が完全になくなった。ここにも批判が必要だ」と指摘しました。

 俵事務局長は、自民党が扶桑社版教科書の採択率を上げるため、地方議員をあげて運動する姿勢だと紹介。「前回以上に全力を挙げてくることが予想される」と語りました。

 一方、憲法と教育基本法改定反対の運動が全国に広まっていることが「前回採択時との大きな違いだ」と指摘。「全国五百八十あるすべての地区で採択ゼロの運動を起こす。在日外国人とも力を合わせ、十年来の歴史わい曲運動に終止符を打たせたい」と強調しました。


在日韓国青年会中央本部
〓 壽隆(チョウ スユン) 会長(〓は、曹の縦棒一本)

戦争の痛みになぜふれない

 教科書全体から、歴史の事実を消そうという動きが見受けられます。日本が過去に侵略戦争を起こした真相がわからなくなるよう表現が簡略化され、記述内容が減っているとの印象を受けます。

 そもそも、検定基準自体も、文科省へ影響力を強めようとしている特定の勢力の主義主張によるところがあります。文科相は、侵略の事実や、かつての戦争の反省に向き合わない発言を繰り返しています。これは、日本国民の考えとは明らかに違ったものです。

 「つくる会」の教科書は、神話などに基づいた一つの特異なストーリーを強調し、過去の歴史の事実、日本と周辺諸国の状況をまったくかえりみていません。アジアの被害がなぜ起きたのかをぼやかし、日本が侵略戦争をやったことを「仕方ない」もののようにしようとしています。

 また気になったのは、「つくる会」教科書が沖縄戦のこと、ヒロシマのこともあまり書いていないことです。戦争の歴史のなかで人びとが受けた痛みの部分に触れないのです。これは何国人という問題ではありません。

 人びとの痛みを知ることは、悲劇を「繰り返さない」という反省につながるものです。それに背を向けているように思えます。かつてのことに向き合わなければ、アジアの支持をえられないばかりか、結局世界で孤立するしかありません。戦争を推し進めたり、身勝手な歴史観、社会観を広めるために、教科書が利用されることはあってはならないと思います。

 いま韓国と日本の間では、庶民レベルで人と人同士が尊敬しあえる状況になってきています。それを一部の人が、あえて外交・政治で問題を持ち出して、おとしめようとしています。対立を誰もが望んでいないことは明白ですし、友好のための声を高めていきたいものです。

「慰安婦」「強制連行」 自民議員が圧力

 「つくる会」教科書が再び合格した一方で、来年度から使われる中学校歴史教科書からは「慰安婦」の記述が消えることになりました。

 前々回(一九九六年)は、当時発行されていた七社の歴史教科書すべてが従軍慰安婦について記述しました。しかし、前回(二〇〇一年)は三社に激減。そのうち「慰安婦」という言葉を使ったのは一社だけで、二社は注やコラムのなかで「戦地の非人道的な慰安施設には…朝鮮や台湾などの女性もいた」「戦時中、慰安施設に送られた女性…などの補償問題が裁判の場にもちこまれるようになりました」と記述していました。

 今回は一社が「戦時中、慰安施設に送られた女性…」との注を残しただけです。前回「慰安婦」の言葉を使っていた教科書はせめてもの抵抗のように、「従軍慰安婦」という見出しのついた新聞記事を戦後補償問題の資料として掲載しました。

 「強制連行」も歴史教科書では二社だけになりました。南京大虐殺(南京事件)はすべての教科書が書いていますが、一社をのぞいて具体的な犠牲者の数を示さなくなりました。

 「つくる会」は一九九七年の結成当初から「従軍慰安婦」や「強制連行」「南京大虐殺」を書いた他社の歴史教科書を「自虐的だ」と攻撃してきました。

 呼応する形で安倍晋三・現自民幹事長代理、中川昭一・現経済産業相らが中心となって「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」を結成。教科書協会会長らを呼びつけ、なぜ「従軍慰安婦」を教科書に載せるのかと詰問しました。中山成彬・現文科相も同会の副代表や座長を務めていました。昨年十一月には「従軍慰安婦や強制連行などの言葉が教科書から減ってよかった」と発言しています。


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