2005年4月5日(火)「しんぶん赤旗」

口座 買います

多重債務者に「1万円で」

違法業者は振り込め詐欺団?


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新井さんの自宅に届いたはがき

 「通帳、カード、登録印を各セット一万円で引き取ります」と書かれたはがきを同封した封書が社会部に届けられました。口座を売買するとは、いったい何が狙いなのか――。

届いたはがき

 はがきは、東京都内在住の新井明さん(23)=仮名=の自宅に送りつけられたもの。「突然のお便り失礼致します。私共は、銀行口座を買い取らせて戴いており、(中略)詳細はお電話でお気軽に…」という文面です。会社名は「よろずや本舗」。担当者の名前と電話番号が記載されていますが、住所はありません。

 どういう会社なのか、確認のため電話してみましたが、つながりませんでした。

 取材を進めるなかで、口座売買に詳しいという男性(52)に話を聞くことができました。その男性は、「買い取られた口座は振り込め詐欺で使われるケースが多い」といいます。

 振り込め詐欺は、被害者をだまして多額の現金を銀行口座などに入金させるのが手口。犯行グループとつながりのない、他人名義の口座を使うことによって摘発を逃れようとしているのです。

 「売買される口座はATM(現金自動預払機)が多く、入出金しやすい都市銀行の方が値段が高い。時期によって違うが、一万円から三万円で取引されている」といいます。

 男性は、振り込め詐欺には、詐欺を実行するグループと、口座を作ったりするグループがあると指摘します。さらに、背後には暴力団がいる場合が多いともいいます。

売買で犯罪者

 最近、口座の売買、勧誘で逮捕されるケースが相次いでいます。一月に逮捕された男性容疑者(24)が買い取った口座には、振り込め詐欺被害者からの一千万円以上が入金されていました。

 昨年十二月改正・施行された金融機関本人確認法で、口座売買は禁止になりました。振り込め詐欺などに悪用されるのを防ぐためです。

 口座の有償による受け渡し、勧誘などは犯罪とされます。通帳などを売買した場合、最高で二年以下の懲役などを科します。広告での勧誘も五十万円以下の罰金です。

 新井さんは、なぜこのようなはがきが届いたのか思い当たるふしがあります。サラ金などに多額の借金を抱えていた新井さんは、毎月の借金返済額を十万円に抑える調停を二〇〇三年に行いました。怪しげなダイレクトメールなどが届き始めたのはその直後からでした。新井さんは、調停情報が流出したのではないかと疑っています。

 あげくのはてに届いた口座売買のはがき。「借金に苦しんでいた時期なら売っていたかも」という新井さん。「一万円でも売れば、こっちも犯罪者になります。困っている人につけ込むのは本当に腹が立つ」

情報提供して

 「ヤミ金融・振り込め詐欺一一〇番」に取り組む東京市民法律事務所の木村裕二弁護士は「口座を売ると、それで終わりにならないことがある」と警告します。「口座売買が犯罪であることを悪用して、『ばらされたくなかったら』といって暴力団などが脅してくる危険性もある」というのです。

 振り込め詐欺の被害者から損害賠償を求められる可能性もあります。

 木村弁護士は強調します。

 「売ってはいけないのはもちろんですが、消費者生活センターに情報を提供するなどして、悪徳業者を追い詰めていかなければ解決しません」


 「こちら社会部」は、生活のうえで困っていること、社会に訴えたいことなど、読者からの意見、情報をもとに記者が取材する企画です。

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