2011年6月27日(月)「しんぶん赤旗」

原発事故

作業員 なぜ被ばく

限度の2倍超す


 東京電力の福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)では、東電社員2人が、同原発の事故対応に限り特別に定められた線量限度250ミリシーベルトの2倍を超える被ばくをするなど大量被ばくが次々明らかになっています。作業員へのずさんな被ばく管理が問題になっています。


除去できぬマスク着用

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  作業員は、どんな状況で被ばくしたの?

  600ミリシーベルトを超える被ばくをした2人の社員の主な原因は、鼻や口からの吸入などを通して放射性物質を体内に取り込んだ内部被ばくです。2人は30代と40代の男性社員。それぞれ内部被ばくは、590ミリシーベルトと540ミリシーベルト。外部被ばくと合わせた総被ばく量は、それぞれ678・08ミリシーベルトと643・07ミリシーベルトとなります。

 2人は3、4号機の運転員として地震発生の3月11日から同15日まで、中央制御室での作業に当たっていました。その後も5月下旬まで同原発で作業にあたっていました。

 事故発生後、3月12日に当直長の指示でマスクをつけましたが、放射性ヨウ素を除去できるマスクが少なかったことから、中央制御室では放射性ヨウ素を除去できないマスクを着用していたといいます。また、マスクを外して中央制御室で食事をしていたことも分かりました。

 放射性ヨウ素の甲状腺へのとりこみを防ぐヨウ素剤は、1号機でベントや水素爆発のあった12日ではなく、40代社員は14日になってから服用した記録があり、30代社員は13日に記憶があるとしています。ヨウ素剤が中央制御室に配備されていなかったために、2人とも配備されていた免震重要棟に移動した後に服用したとみられています。

 さらに50代の当直長が内部外部合わせた被ばく線量が352・08ミリシーベルトと確定しています。これとは別に社員6人が、250ミリシーベルトを超えた被ばくの可能性があるとされています。この6人は3月中の作業に従事していました。

事故3カ月たって確定

  最近になって分かったのはなぜ?

  作業員の被ばく管理は、外部被ばくに関しては、一人ひとりが毎日放射線量計を着用して線量管理をします。内部被ばくは、通常は3カ月に1回ホールボディーカウンターで検査することになっていました。ホールボディーカウンターは、体内に入った放射性物質が出す放射線を体の外からはかります。事故後、福島第1原発付近の環境中の放射線量が高くなり、同原発では測定ができなくなりました。

 現在は同原発外にある装置に作業員が出向いて測定していますが、まだ、多くの作業員の内部被ばくが分かっていません。20日の東電の発表では、測定の急がれる事故発生から3月末に同原発で働いていた作業員は3639人。18日までにホールボディーカウンター検査を受けたのは3514人。残る125人の検査が実施されていません。その内32人とは連絡が取れず、37人は実在するかすら確認できていない状態といいます。

 600ミリシーベルトを超えた被ばくをした2人は、おのおの4月16日と17日になって、事故後初めて内部被ばくを調べるホールボディーカウンター検査をうけました。そこで汚染が確認され、5月3日と4日にそれぞれ再検査し、再評価。その結果、線量限度を超える可能性が出たため、放射線医学総合研究所で精密な検査を行い6月10日内部被ばくが確定しました。

 調査に時間がかかる理由について東電は、測定結果を評価するのに1週間程度、さらに正確な内部被ばくの評価には放射性物質をいつ取り込んだかなどの聞き取りが必要と説明しています。3カ月近くたった現在、正確な内部被ばくを知るには慎重な調査が必要になっています。

白血球の減少など心配

  作業員の体への影響は?

  放射線防護学が専門の野口邦和・日本大学専任講師は、「500ミリシーベルトという線量は、一度に短時間にあびれば白血球の減少など急性障害が心配される量です。今回は内部被ばくが主でもっとゆっくりと放射線をあびており、急性の影響は緩和されます。ただ、内部被ばくはデータも少なく、がんのリスクなど長期の影響に注意が必要」といいます。

 国際放射線防護委員会(ICRP)勧告では、放射線被ばくによる発がんの危険性を、100ミリシーベルトにつき0・5%増大するとしています。

 原発などで働く放射線業務従事者の通常の放射線被ばく限度は、1年で50ミリシーベルト、5年で100ミリシーベルト。女性についてはさらに3カ月間につき5ミリシーベルトと定められています。事故などの緊急作業では、100ミリシーベルトを超えないようにとされていましたが、厚生労働省は、同原発の事故対応に限り250ミリシーベルトに引き上げました。

 100ミリシーベルトという値について野口専任講師は「いっぺんにあびた場合でも急性の影響を心配しなくていいぎりぎりの値。250ミリシーベルトでは、短時間にあびた場合、人によっては男性で一時的な不妊の恐れなどがでてきます」と説明します。さらに「こういった数値を変えるなら、しっかりとした検討をすべきです。あいまいな議論のまま変えてしまったことがそもそも問題」と指摘します。日本共産党は上限の引き上げを批判し、見直しを求めています。

過酷な作業 人員確保を

  被ばく管理でどんな問題があるの?

  収束への工程を進めていくには、人が原子炉建屋内に入っての作業がさらに必要になります。しかし、1号機原子炉建屋では最高で毎時4000ミリシーベルトの線量が計測されています。東電は、高線量の場所には遮蔽(しゃへい)板などを置いて低減を図るとしていますが、被ばく管理上難しい状況が予想されます。

 現場に詳しい、熟練した作業員の線量が高くなる傾向があり、人員の確保が切実な問題です。

 同原発では高い放射線量に加えて、熱中症が多発するなど過酷な状況での作業が続いています。作業員の線量管理、安全対策が、収束に向けていっそう重要になってきます。

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福島第1原発の作業員をめぐるできごと

 3月15日 厚生労働省、仕事であびる放射線量の限度を、緊急時の100ミリシーベルトから、福島第1原発の事故対策に限り特例で250ミリシーベルトに引き上げると発表。

   24日 関連会社の作業員3人が、3号機タービン建屋で足を汚染水に漬けて作業し大量被ばく、搬送される。

   31日 事故発生後、作業員全員が放射線量計を持たなくてはいけないとする内規を変更して、一部の作業員が線量計を持たずに作業していたことを、東電が明らかに。

 4月27日 東電、50代の女性職員が、女性の被ばく限度(3カ月で5ミリシーベルト)の3・5倍以上の被ばくをしていたと発表。内部と外部合わせて17・55ミリシーベルト被ばく。

 5月 1日 東電、40代女性職員が法定限度を超える被ばくをしていたと発表。被ばく線量7・49ミリシーベルト。

   25日 原子力安全・保安院、女性職員の被ばく問題で、東電に厳重注意。

   30日 東電、2人の男性社員が250ミリシーベルトを超える内部被ばくをした可能性があると発表。

 6月 7日 厚労省、前記の作業員の問題で、福島第1原発に立ち入り調査。

   10日 東電、250ミリシーベルトを超えた可能性のある運転員が新たに1人と発表。

   13日 東電、新たに5人が250ミリシーベルトを超えた被ばくの可能性と発表。

   20日 東電、250ミリシーベルトを超えた被ばくの可能性のある社員が新たに1人と発表。被ばく線量が確定した3人と合わせ9人に。





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