2011年6月9日(木)「しんぶん赤旗」

「古典教室」不破社研所長の第5回講義

第2課『経済学批判・序言』(つづき)

歴史観 ロマン


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(写真)講義する不破哲三・社会科学研究所所長=7日、党本部

 第5回「古典教室」が7日に開かれ、不破哲三社会科学研究所所長が、前回につづき第2課『経済学批判・序言』の講義をしました。

 不破さんは本論に入る前に、マルクスの歴史観が入ってきたことによって、日本の歴史観に大きな変革が2度にわたって起こったことから話を始めました。

 戦前の日本で支配的だった「とてつもない不合理な歴史観」の源流は、天皇に対して忠実な軍隊をつくるために書かれた「軍人勅諭」(1882年)にあると不破さん。そのいきさつに触れた作家の松本清張の『象徴の設計』を紹介し、この歴史観が国民に「たたき込まれた」様子と歴史を、自分が小学校で使っていた「国史」の教科書を開きながら実感を込め語りました。

 そういう時代に、史的唯物論の立場から自分たちの国の歴史を描き出し、最初の変革を起こしたのが、戦前の党幹部で経済・歴史学者の野呂栄太郎(1900〜34年)でした。野呂が指導的役割を果たした全7巻の『日本資本主義発達史講座』(1932〜33年、岩波書店)を紙袋から取り出すと、会場中の視線が集中しました。

 1945年の敗戦後に、マルクスの本でもレーニンの本でも読める時代がきて、マルクスの歴史の見方で日本の歴史を考える流れが、ものすごい勢いで広がり、「これが第二の変革でした」とのべました。

 宮崎県の男性(37)は「不破さんが、明治からのつくられた歴史観を述べていたところでは、当時がいかに強権的な国家体制で、侵略戦争が拡大したのはその結果だということがよくわかりました。野呂栄太郎を中心として日本の資本主義を集団で分析したことは、とても価値のあることだと思います」と感想を寄せました。

土台の変革、そして上部構造で「決着」へ

 「序言」の本論にすすんだ不破さんは、「ここはすらっとは読めないが、これらのテーゼ(定式)には、大事な史的唯物論の基礎概念がもりこまれ、読み解くと頭が整理できます」と読む心構えについてのべました。

 配布したテキストでは、もともと段落がなくつながっている文章を一文ごとに改行して読みやすくしました。(1)生産力と生産関係(2)経済的土台と上部構造(3)社会革命の時代とは?(4)土台と上部構造の両面から革命の時代を考える(5)経済的社会構成体。その交代の法則性(6)人類社会の歴史。「前史」から「本史」へ―を内容とする六つに分け、一つひとつ解説しました。

 「桎梏」(しっこく)を「足かせ・手かせ」という語源にもさかのぼるなど、むずかしいマルクスの言い回しを、イメージのわく具体例や現代政治への批判をまじえ、解きほぐすように説明していきました。

 このなかで、当時のマルクスはこの著作が広く読まれることをねらって、大事な「階級」という言葉が出てこないが、生産関係の中で経済的な立場が共通な集団が階級であり、現代の日本ではマルクスの時代と比べはるかに階級の姿が分かりやすくなる一方で労働者階級の意識を押さえ込む手段も発達していると補足。社会の革命は、土台の変革を基礎に、最終的には上部構造で「決着」がつけられるというポイントを丁寧に解説しました。

 不破さんは、生産力の「桎梏」と言っても、今日では、金融危機や格差と貧困、地球温暖化、原発災害などあらわれ方は多様だとして、日本共産党の綱領との関連にも言及しました。戦前から論争となってきた「アジア的生産様式」や「社会構成体」の概念について、自ら論文を書いたことを振り返って、論争の到達点も紹介しました。

 福井の男性(61)は「定式の(1)から(6)まで講義によって理解を深めることができました。とくに、『人間がこの衝突を意識するようになり、これをたたかって決着をつける場』の理解が深まりました。上部構造での衝突を勝利的に解決する、上部構造に決着をつけることによってこそ革命を起こし、勝利することができるということであると分かり、そうかそういう意味だったのか、とその発見に感動した」と感想文に書きました。

 「この定式を頭において日本の歴史を見るとおもしろいことがある」と語った不破さん。マルクスが「大づかみに」と言った原始共産制、奴隷制、封建制、資本主義的という四つの生産様式について、ギリシャ・ローマの奴隷制と違って日本の奴隷制は共同体が全部支配者に服属する「丸ごと奴隷制」というべきもので、その後の研究では同じ体制が世界各地で見られると話しました。

 マルクスが『資本論』で日本の封建制(江戸時代)についてヨーロッパの中世の生きた見本と呼んだことも紹介しながら、日本ほどこの四つが順序だって典型的に進んだ国は世界でもまれだとした上で、人類史の「前史」につづく「本史」(社会主義社会)も、日本が先頭に立って経験しようではないかと語ると、会場に共感の笑いが広がりました。

「21世紀は本史開く時代」世界的視野で

 「21世紀は、本史を開く時代です」と話をすすめ、いまの世界を見たらどうなるかと提起した不破さん。社会主義をめざす中国は、上部構造は社会主義をめざしているが、国民1人あたりのGDPで見ると、物質的基礎は途上国の段階にあると指摘。「日本のように発達した資本主義国では、物質的基礎は十二分にあり、矛盾の桎梏化もいたるところに見られます。しかし、上部構造での衝突を勝利的に解決する条件をまだ持っていない」とのべ、「科学的社会主義の党の役割がたいへん大きい」と強調しました。

 ソ連崩壊後のイタリアやフランスの共産党の推移と対比して、「日本共産党は科学的社会主義を自主的に発展させ、鍛え上げてきた綱領路線を持っている。そういう点で日本共産党は資本主義国のなかできわだった位置を占めている」と語り、「わが国の党の運動はそういう位置にあるという世界的な視野からも、広い目でみてほしい」とのべて講義を結びました。

 茨城で聞いた女性(29)は「楽しみに待っていたかいがありました。『経済的土台』と『上部構造』は別々でなく互いに影響しあっていると感じました。両方を同時に鋭くつかむ目を養っていきたいと思いました。古典と綱領を並行し学習していることが大事なんだと思いました。大きな目長い目で、科学的社会主義を、この世界を、歴史を、未来をつかんでいきたい」と感想を述べています。


「上部構造で決着」に反響

 「いざ社会を本格的に変革するときは、土台の変革を基礎として、上部構造で決着がつけられる」――。この不破さんの解説に、「上部構造で決着できるように力をつけなければとあらためて思った」(福岡、女性)、「印象に残った。何のためにやっているか、大きな目で活動していきたい」(東京、男性)などの感想が受講者から多く寄せられました。

 『経済学批判・序言』の該当の箇所は、マルクスの第四の定式〈土台と上部構造〉の中です。「このような諸変革を考察するにあたっては…物質的な変革と、人間がこの衝突を意識するようになり、これとたたかって決着をつける場となる、法律、政治、宗教、芸術、または哲学の諸形態、簡単に言えばイデオロギー諸形態とを、つねに区別しなければならない」となっています。


 『日本資本主義発達史講座』 野呂栄太郎の指導のもとに、平野義太郎、大内兵衛、山田盛太郎ら30人を超える党内外のマルクス主義理論家を結集し、幕末から近代までの日本資本主義の歴史を、史的唯物論の観点から集団で分析した労作。日本の情勢と革命の方針を示した「32年テーゼ」が重視した問題をあとづける内容を持ち、当時の知識人や学生に大きな影響を与えました。





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