2011年5月24日(火)「しんぶん赤旗」

年金支給年齢 引き上げ検討

厚労省 給付削減も打ち出す


 23日に開かれた政府の「社会保障改革に関する集中検討会議」(議長・菅直人首相)で、厚生労働省が年金「改革」案を示しました。支給開始年齢のさらなる引き上げを中長期的に検討するとしました。また、高齢化の進展にあわせて年金額を自動的に削減する仕組み(マクロ経済スライド)を物価下落のもとでも発動させることなどの給付削減策を検討課題にあげました。民主党が公約していた最低保障年金は「(完全移行まで)40年以上の期間が必要」と先送りしました。

 当面の対応として、▽一定の所得以上の人の基礎年金額削減▽厚生年金の保険料の上限引き上げ▽第3号被保険者(サラリーマンの妻)制度の廃止―を打ち出しました。

 低年金・無年金などへの対応として▽年金受給資格の取得に必要な加入期間(現在25年)を短縮する▽厚生年金の加入要件を緩和し、短時間労働の非正規労働者の加入を促す▽低所得の高齢者の基礎年金に定額か定率で加算する―ことも検討課題としました。

 厚生年金と共済年金を一元化する方向も打ち出しました。

 菅首相は、(1)子ども・子育て新システム(2)非正規労働者への社会保険適用拡大(3)医療・介護・保育・障害者制度の自己負担に制度横断的な上限を設ける「合算上限制度」―を「安心3本柱」として最優先で取り組むよう指示しました。次回の会議では効率化の最優先事項を示す意向を示しました。

解説

給付抑制から抜け出せず

 23日の社会保障改革に関する集中検討会議に提出された厚労省の年金「改革」案は、今後の施策の方向として「高齢者の防貧・救貧機能の強化」を掲げながら、年金支給開始年齢引き上げや高齢者の受け取る年金額の切り下げなど、給付抑制策を出すという矛盾したものになっています。

“逃げ水”といわれ

 年金の支給開始年齢は、自民党政権下でたびたび改悪され“逃げ水”といわれてきました。会社員が加入する厚生年金は、2000年の改悪で現在、段階的に60歳から65歳に支給開始年齢が引き上げられています。さらなる引き上げは国民の生存権を否定するに等しいものです。厚労省案は「中長期的」な検討課題としていますが、同会議の委員が口をそろえて「やるべきだ」と主張しています。

 物価下落時の「マクロ経済スライド」による年金減額は、自公政権でさえやれなかったものです。04年の改悪で、少子化や高齢化の進展にあわせて年金水準を引き下げるマクロ経済スライドが導入されました。マクロ経済スライドの分だけ年金額の伸びを抑え、年金額を実質的に目減りさせる仕組みです。

 しかし、自公政権は国民の批判を恐れ、マクロ経済スライドの実施を物価・賃金の上昇時に限るなど、手取りの額面は減らないルールを設けました。

 マクロ経済スライド導入後、物価や賃金は一貫して下落し続けたため、厚労省はマクロ経済スライドを発動することができず、年金を物価の下落水準以上には引き下げられないできました。

財界要求に応える

 日本経団連は、支給開始年齢の引き上げとともに、物価下落時にもこの仕組みを発動し、物価水準の下落以上に年金給付額を削減できる仕組みをつくるよう求めていました。厚労省案はこうした財界の要求に応えたものです。

 厚労省案は一方で、所得の低い年金受給者に対し基礎年金を加算することを検討するとしています。25年間保険料を払わなければ1円も年金を受け取れない、欧米と比べても異常に長い受給資格期間についても短縮を「検討する」としました。

 しかし、こうした低所得者対策は一定所得以上の人の基礎年金減額とセットです。年金制度が抱える最大の問題である無年金・低年金の広がりや年金制度の空洞化を認めながら、これまでの給付抑制路線から抜け出せないため、当面のつじつま合わせと将来の給付削減を同時並行で進めようとしています。


 マクロ経済スライド 労働力人口の減少による保険料の減収と、寿命の伸びによる給付総額の上昇を見込んで、年金額を自動的に引き下げる仕組み。賃金と物価の伸びに応じて増えていく年金額を抑制するため、自公政権が2004年の法改悪で導入しました。ただし年金の名目額は下げない範囲にとどめるルールになっており、賃金や物価の下落時には適用されません。





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