2011年4月4日(月)「しんぶん赤旗」

主張

取り調べ全過程可視化

密室ブラックボックスを開け


 大阪地検特捜部による証拠改ざんや隠ぺいが行われた郵便料金不正事件を契機に設置された、法相の私的諮問機関「検察の在り方検討会議」が、失墜した検察への信頼をどう回復するか、提言をまとめ江田五月法相に提出しました。

 最大の焦点は、取り調べを録音・録画して事後の検証を可能にする「可視化」の実現でした。委員の多数が取り調べの全過程の可視化でなければ違法・不当な取り調べは一掃できないと主張し、法務・検察当局は捜査への支障を理由に頑強に抵抗しました。冤罪(えんざい)を生まぬ刑事司法の実現へ、全過程可視化の先送りは許されません。

人権よりも供述調書

 元検事総長や元日弁連会長など法曹三者、ジャーナリストら15人の委員が15回にわたって開いた「会議」では、改めて日本の検察の深い病巣がえぐり出されました。とくに冤罪被害者からのヒアリングでの生々しい証言は、検察はここまで腐っているのかという怒りを禁じえないものでした。

 2007年に大阪地検特捜部が談合容疑で逮捕し、その後無罪が確定した大阪府枚方市の元副市長の場合、まったく身に覚えの無い金銭の授受について検事のストーリー通りの供述を迫られ、「くずやろう、ごみやろう」とどなりつけられ、暴力的脅迫を受けました。

 同氏は、重い持病があるのに、投薬も受けられず、「死をも意識せざるをえない状況」にまで病状が悪化しました。「密室ブラックボックスであるがゆえに人権侵害、拷問といえる取り調べがまかりとおる」といい、これを改めるには全面可視化しかないと訴えています。

 「会議」が、現職の検事を対象に行った意識調査も衝撃的です。虚偽の自白強要で「問題が生じかねない取り調べの事例を周囲で見たり聞いたりした」検事は全体の約3割、「供述人の実際の供述とは異なる特定の方向での供述調書の作成を指示されたことがある」のは25%、4人に1人です。

 客観的な証拠よりも自白に頼る捜査手法がまかり通るもとで、被疑者の人権など顧みず、検察の筋書きに合わせた供述調書の作成、そのための脅迫、強要、利益誘導など違法・不当な取り調べは、一部検事の暴走ではなく、当たり前の事として横行しているのです。

 可視化を求める世論に抗しきれず、最高検察庁は、作成済みの供述調書を読み聞かせ、確認する場面だけ録画する「一部可視化」の試行を始めています。しかし、調書が作成されるまでの長期間の取り調べの過程で、すでに検事が被疑者を完全に「支配下」に置いている場合が多いのです。

 取り調べの最後の場面だけ、検事に抗弁することなどほとんどできない状態での録画テープが裁判に提出されても、それは供述が自分の意思でなされたものなのだろうと、裁判官や裁判員の心証を誤らせる結果にしかなりません。取り調べの適正化、誤判防止のためには全面可視化しかありません。

冤罪防止のために

 提言は「被疑者の人権を保障し、虚偽の自白によるえん罪を防止する観点から、取り調べの可視化を積極的に拡大するべきである」としています。供述調書を中心にしてきたこれまでの裁判のあり方を含め、本格的な検討を求める提言をまっすぐに受け止めるなら、まず全面可視化を決断すべきです。





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