2011年2月21日(月)「しんぶん赤旗」

社会保障と税 共通番号制度

利便性強調するが…

「負担にみあう給付」狙う


 民主党政権は国民一人ひとりに番号を付けて国が情報を一括管理する「社会保障と税の共通番号制度」を2015年1月からスタートさせる方針で検討を進めています。「国民の利便性」を強調しますが、重大な危険をはらんでいます。

 現在は年金、医療、介護などの制度ごとに別々の番号が個人に付けられています。共通番号制度では、各制度を通して一つの固有の番号を付けます。複数の機関に分かれて存在する個人の情報を結び付けて利用します。会社など法人にも番号を付けます。

 政府・与党の社会保障「改革」検討本部(本部長・菅直人首相)は共通番号制度の創設に向けた「基本方針」を1月31日に決定。共通番号で一括管理するのは当面、社会保障(年金・医療・福祉・介護・労働保険)と税(国税・地方税)に関する情報とし、将来的に幅広い行政分野などへの利用拡大をめざしています。

 政府は共通番号制度によって「国民一人ひとりの情報を的確に把握」し、「社会保障がきめ細やかかつ的確に行われる社会」を実現すると説明します。

 しかし、本当の狙いは別のところにあります。民主党は2009年の政策集で「不要あるいは過度な社会保障の給付を回避することが求められます。このために不可欠となる、納税と社会保障給付に共通の番号を導入します」と給付削減を効率的に行う狙いを端的に示しています。

発信源は財界

 もともと、この主張の発信源は財界です。

 日本経団連や経済同友会は共通番号を使って、国民一人ひとりが過去にどれだけ負担し、どれだけ給付を受けたかを把握する「社会保障個人会計」「個人勘定」を創設するよう提言してきました。

 「重複給付をチェックし、効率的な給付を行おうとするもの」(04年9月、日本経団連「社会保障制度等の一体的改革に向けて」)と強調。個人の給付と負担を比べ、「医療、介護の給付が負担を上回る場合には、死亡時に相続税の基礎控除額を削減すること等も考えられる」(10年6月、経済同友会「社会保障改革委員会提言」)と主張しています。

 “社会保障の給付はその人自身が負担した税金や保険料の対価”という考え方を広げ、給付削減と国民負担増につなげる狙いがあらわです。

 日本弁護士連合会は「負担に比して給付の多い障がい者などを、社会的に排除することにつながりかねず、社会保障の理念を根底から崩す」(10年8月19日)と批判しています。

情報漏えいも

 共通番号によって国は、▽各種の所得▽納税や社会保険料の支払い▽年金や医療の受給―など、国民の私生活に関わる多くの情報を一括して握ることになります。

 アメリカでは社会保障番号を使って民間企業が個人情報を収集しています。社会保障カードの偽造、他人の社会保障番号を盗用した「なりすまし」犯罪も多発。日本政府の実務検討会では「トラブルが発生することを想定した上でシステムをつくるべきである」と議論されています。

 費用も巨額です。政府の試算では、導入だけで3千億円前後、別に運用経費がかかります。(杉本恒如)


利便性実現 現行で可能

 全国保険医団体連合会の寺尾正之事務局次長の話 医療や介護の受給状況はプライバシーに関わる個人情報です。政府が宣伝する「利便性」は、共通番号なしでも実現できるものばかり。プライバシー侵害のリスクと巨額のコストに見合うものではありません。真の狙いは「負担しない人には給付しない」という民間保険の原理を社会保障に持ち込むことです。

 共通番号を導入すれば、国民のあらゆる情報を結びつけて行政や民間が利用する「国民ID制度」の基盤になるとも政府は言っています。これは国民総背番号制にほかならず、国家による国民の監視、管理につながりかねません。





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