2011年2月15日(火)「しんぶん赤旗」

カンボジアとの国境紛争

タイ権力争いが背景


 4日から7日まで、タイとカンボジアが領有権を主張するヒンズー寺院「プレアビヒア」周辺で、両国軍が4日間の戦闘を展開しました。タイ政治の専門家やメディアは、早ければ6月までに実施される総選挙を前にして、タイ国内の権力争いが武力衝突の背景にあると指摘しています。(ハノイ=面川誠)


 タイの政治学者パビン氏はジャカルタ・グローブ紙への寄稿で、「表向きはタイとカンボジアの紛争だが、その根底にはタイ国内の民主党政府と民主市民連合(PAD)による権力争いがある」といいます。

 民主党とPADは、いずれも都市中産階層が支持基盤。都市中産階層は王室、国軍、法曹界とともに、伝統的なタイ支配勢力とされています。

 ところがPADは、先月からバンコクの首相府近くで、アピシット民主党政権打倒を目指す集会を続けています。

 2001年、タクシン政権が発足し、首相本人は新興大企業家ながら、政治から疎外されてきた農民や低所得層向けの手厚い施策で政権基盤を強化すると、伝統的支配勢力は強い危機感を抱きました。06年、PADの反政府街頭行動と民主党の総選挙ボイコットで政局が混乱し、続いて国軍によるクーデターでタクシン政権が崩壊。07年の総選挙で勝利したタクシン派後継政党は、憲法裁判所から選挙違反を理由に解党処分とされ、同年末にアピシット民主党政権が発足しました。

低所得者政策

 タクシン派政権打倒で共闘したPADと民主党ですが、PADはアピシット政権を「裏切り者」とみなすようになっています。タイのメディアは次のような理由を挙げます。

 ―PADの指導者は、民主党政権で何も役割を与えられないことに強い不満がある。

 ―民主党がタクシン政権のような低所得者や農民向けの政策を打ち出し始めた。

 ―タクシン派団体「反独裁民主統一戦線(UDD)」との交渉で総選挙前倒しを決めた。

 伝統的支配層の守護者を自負するPADにとって、アピシット政権打倒のために国民的支持を集める最も効果的な手段が、領土問題でカンボジアへの敵意をあおることです。

「不必要な死」

 PADの掲げる要求は▽カンボジアとの国境問題覚書の破棄▽係争地域からのカンボジア住民追放―など。実行すれば「戦争につながる」(アピシット首相)危険な内容です。

 PADがたき付けたナショナリズムの高揚が、現場のタイ軍の行動にどう影響したのか。これについては、「軍内部のPAD支持勢力が動いた」など、さまざまな可能性が報じられています。パビン氏は「明らかにアピシット首相は軍を統制できていない」と指摘します。

 タイ英字紙ネーションは、衝突の犠牲者を「不必要な死」だと嘆き、「死んだのはバンコクやプノンペンにいる軍や政治の指導者ではない。超民族主義で好戦的なPADでもない。両国の貧しい村民と下級兵士ではないか」と問いかけています。





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