2011年2月7日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

貧困や無保険で患者になれない病人の受診を保障する

無料・低額診療知ってますか


 お金がなくても医療を受けられる「無料・低額診療」というのがあるのをご存じですか。社会福祉法が定める事業です。貧困や格差が広がり、生活困難者が増えるなかで、全日本民主医療機関連合会(民医連)はこの取り組みを重視しています。高知県と、昨年8月から取り組みを始めた山梨県からのリポートです。


一家4人無保険「助けて」

高知市潮江(うしおえ)診療所

地図:高知

 当診療所は2009年10月1日から無料・低額診療事業をはじめました。昨年12月末までの15カ月で91件の相談がありました。94人の方が認定。入院、治療などを受けました。

 相談者には三つの特徴があります。一つは、国保の資格を持てず「完全無保険」の方で24件。二つ目は国保の資格はあるが保険料を払えず無保険になった方17件など、保険証を持たず患者になれなかった方が54件ありました。

 もう一つは保険証があっても3割負担が困難で治療ができずに病気を重症化させてしまうケースです。

 会社を辞めて社会保険がなくなり、かといって国民健康保険料が高くて入れず、無保険になってしまったケースも少なくありません。ある男性は、糖尿病が悪化して右目が見えにくくなり、眼科で至急病院に行くよう指示されたものの、保険証がないため放置し悪化して、飛び込んできました。

 退職後国保に入れず一家4人が無保険状態になり、1歳の子どもが39・9度の発熱で「助けて」と来院したケースもありました。

 1人暮らしの年金生活の男性は、3割の医療費を負担することができず、肝硬変、肝不全、慢性肝炎、腹水の症状を重症化させ、来院しました。

 貧困と健康破壊がすすむ「社会的災害」とも言える事態がすすむなかで、非常に深刻な例が目立ちます。

 無料・低額診療制度がマスメディアでも取り上げられ、幅広い県民への発信となりました。昨年の10月から12月には高知県地域自殺対策緊急強化事業で予算がつき、弁護士、司法書士などの協力で「くらしといのち110番」と題した無料相談会の開催(17回)と、ラジオコマーシャル(50回)の利用などの取り組みで、相談の3、4割が「新聞やテレビで見た」という人でした。潮江診療所の存在を地域社会に広く印象づけてきたのではないかと思います。

 事業のスタートに当たって「持ち出しが大変な金額にならないか」など医療生協の組合員と職員で大いに議論しました。病気になっても患者になれない人たちをどう助けるか、住民の健康と命が貧困に脅かされている現実に立ち向かってこそ「無差別・平等の医療」の民医連医療の実践であることを確認し、事業への不安を乗り越えてすすめてきました。

 「新自由主義」が生み出した自己責任社会の姿は、病気になっても患者になれないという「受療権」を奪った人権侵害の姿です。

 「いのちは平等」の思いでこの間の取り組みで広がったネットワークのパイプを太くし、共同の力で今後も頑張っていきます。(高知県民医連潮江診療所事務長・岡村啓佐)


医療費不安な人「相談を」

山梨勤医協

地図:山梨

 山梨勤労者医療協会(上所洋理事長)は、昨年8月から10カ所の病院・診療所で無料・低額診療事業を開始しました。山梨県内では初めての事業ということもあり、地元テレビ・新聞で大きく報道されました。

 集計された昨年11月までの4カ月で、この診療への相談件数は100件を超えました。そのうち無料・低額診療の利用者は70人を超え、診療のべ日数は400日以上になります。これら利用者の状況から、現代日本で「生きていくことの困難さ」を垣間見ることができます。無料・低額診療を利用した方のなかには別項のような例がありました。

 無料・低額診療事業は医療費が払えないために「患者になれない病人」の受診を保障し、生活保護などの社会資源の活用に結びつけるものです。しかし、職を失い、住居を失い、保険証をなくした人々にとって、住居が保障され働く場が確保されないと無料・低額診療だけでは生活の再建に結びつきません。こういう方々にこそ温かい手を差し伸べてくれる政治であってほしいと思います。

 私たちは、多くの人にこの制度を知ってもらい、「医療費が不安で医者にかかることを躊躇(ちゅうちょ)している人は、ためらわずにまずは相談を」と願っています。(山梨勤労者医療協会副専務・合田和彦)


●Aさんの場合

糖尿病 失職し無保険

 仕事がなくなり、保険証もなくなったAさん(男性・65歳)は糖尿病で、以前にもらった飲み薬とインスリンを間引いて使ってきましたが、それもなくなり低血糖で2回倒れたものの「医療費が心配で」と救急車を呼べなかったといいます。


●Bさんの場合

借金と高血圧症で…

 家族のいない高血圧症のBさん(男性・62歳)は、100メートル歩くのも困難な状態でサラ金からの借金があり家賃も1年以上滞納。友達からもらった降圧剤を飲んで具合が悪くなったこともありました。


●Cさんの場合

半信半疑で病院訪ね

 Cさん(男性・66歳)は自らの経験を地元新聞に投稿しました。「今の時代に本当に無料や低額で医療が受けられるのかと半信半疑で病院を訪ねたが、親切な説明で対応してくれ、緊急手術で命拾いをした。政治は、税金の使い道や国の社会保障制度をどうするのか、しっかり審議して」


●無料・低額診療とは

 生計困難者が経済的な理由で必要な医療を受ける機会を制限されることのないよう無料または低額な料金で病院にかかれる制度。社会福祉法第2条第3項の9に「生計困難者のために、無料又は低額な料金で診療を行う」とあり、これが第2種福祉事業で、無料・定額診療事業にあたります。生活に困り、医療費の支払いができない人や、保険証を持っていない人、外国籍の人も対象になります。都道府県などの認可を受けた医療機関が実施できます。





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