2011年2月7日(月)「しんぶん赤旗」

国保料“非道”差し押さえ

自公が号令 民主が拍車

共産党「国庫負担引き上げを」


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(写真)差し押さえを受けた住民(手前)に事情を聴く日本共産党の横田有史県議(左)と工藤淳子市議(右)=2010年10月10日、宮城県登米市

 全国で横行する国民健康保険(国保)の保険料(税)滞納世帯への非道な差し押さえ。背景に何があるのか―。

 「収納率向上」の掛け声で自治体を駆り立ててきたのは、政府です。

 厚生労働省は2005年、全国に通達を出しました。表題は「収納対策緊急プランの策定等について」(2月15日)。国保の保険料の「収納率向上」に向けた「緊急プラン」を市町村が策定するよう号令をかけたのです。

 例示された緊急プランの内容は、▽滞納者の保険証とりあげ▽財産調査の実施▽低所得者の預貯金の発見▽預貯金・給与・生命保険の差し押さえ―などでした。

 07年には厚労省の土佐和男・国保課長補佐(当時)が自治体職員を相手に講演。▽年金からの天引き▽差し押さえ物件のインターネット公売▽滞納者の車のタイヤロック▽公的サービス(紙おむつ支給や入浴・給食サービスなど)の権利剥奪―を実施する「効果」を力説しました。

 住民の医療保障に何ら責任を持たず、徴税だけを請け負う県単位の機構をつくることも推奨。「強制徴収を実施してくれる。親戚、友達、近所の人達の滞納処分を自分たちで実施しないで、別の人が実施してくれる」(07年12月1日付「国保新聞」)と「利点」を強調しました。

 県単位の徴税機構設立の動きは全国に広がっています。

 宮城県は09年に市町職員15人、県職員6人からなる「地方税滞納整理機構」を設置。「期限までに納付されないときは、差押え等の滞納処分を実施する」との「納付催告書」を滞納者に送りつけ、5万円弱のパート収入を銀行口座に振り込まれた途端に差し押さえるなどの強硬手段に訴えてきました。

 民主党政権は、自公政権が推進してきたこの流れを是正するどころか、拍車をかけています。

 昨年5月の通達(「広域化等支援方針の策定について」)では、▽保険料引き上げ▽収納率の向上▽医療費適正化(削減)―に取り組むようハッパをかけています。国保の広域化(都道府県単位化)に向けて、保険料抑制のために市町村がおこなっている一般会計から国保財政への繰り入れを「できる限り早期に解消する」ことが目的です。

 国のこの方針が、脅迫まがいの督促、人権無視の財産調査、無法な差し押さえを加速させています。

構造的原因は

 菅直人首相は過酷な取り立てに「胸が痛む」(2日の衆院予算委、日本共産党の志位和夫委員長への答弁)としつつ、「国保には構造的な問題がある」と述べました。

 サラリーマンなどが加入する被用者保険と違い、国保には事業主負担がありません。そのうえ失業者、非正規労働者、年金生活者など低所得の加入者が増えています。それらの人を含めて国民全員に公的に医療を保障するのが国保制度です。もともと国が財政責任を果たさなければ成り立たない制度です。

 ところが国は国保への国庫負担割合を50%(1984年)から24%(2008年)にまで減らしてきました。これが、保険料の高騰↓滞納者の増加↓国保財政の悪化↓保険料の高騰、という悪循環を招いた原因です。(グラフ)

 こうした「構造」のために、滞納者への過酷な制裁にもかかわらず、国保の保険料の収納率は低下しています。

 この流れを転換する唯一の手だては、国庫負担を増やして保険料の引き下げや減免制度の拡充を行い、滞納を減らすことです。日本共産党は国の責任による保険料の値下げを緊急に提案しています。

 自治体の姿勢も問われます。住民福祉の機関として“国の悪政の防波堤”となり、住民の負担軽減に尽力することが求められます。

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(写真)宮城県地方税滞納整理機構が滞納者に送った「納付催告書」



図:年間国保保険料(税)と国庫負担割合の推移


“初めは情が移ったが今では…”

機構の職員

 宮城県の地方税滞納整理機構が出しているPR紙「納めLINE」(09年7月31日付)に、県内の町から派遣された機構職員の「声」が掲載されています。公務員が脅迫まがいの督促に駆り立てられている現状の一端を示す内容です。

 職員は「機構での滞納整理の実務はいままでとはまったく違うもので、考え方そのものを変える必要がありました」と語り、こう続けています。

 「初めの頃の滞納者との折衝では、どうしても相手に情が移ってしまい『○○だけは持っていかないでください』と言われてしまうと、少し躊躇(ちゅうちょ)してしまっていました。しかし、最近はもし同じことを言われたら『○○を持っていかれたくなかったら、完納してください。完納しなければ滞納処分を実行します』と言えるようになりました。相手に嫌われるのを恐れるのではなく、毅然(きぜん)とした姿勢を示さなければ滞納額の縮減にはつながらないものだと実感しています」





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