2011年2月4日(金)「しんぶん赤旗」

エジプトは どうなっている

退陣迫る「民衆の怒り」


 エジプトで1日に首都カイロなど全国規模で、ムバラク大統領の退陣を求める100万人の集会が行われました。ムバラク氏は同日、次期大統領選への出馬を取りやめると宣言。30年に及ぶ長期政権に終止符が打たれることになりました。一方、カイロ中心部では2日、大統領退陣を求める市民と大統領支持派が衝突し、死傷者が出る緊迫した状況にあります。(松本眞志)


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(写真)ムスタハマハムード広場からタハリール広場へ向かう反政府デモ=1月28日(伴安弘撮影)

急速に拡大

 ムバラク氏は不出馬を表明する一方、9月の大統領選まで「任期を全うする」と主張しています。これに抗議参加者の多くが「即時退陣」を要求しています。

 エジプトではチュニジアの政変をきっかけに1月25日に物価高騰抗議や政治腐敗の根絶、ムバラク氏の退陣、非常事態宣言の撤廃を求める抗議行動が始まりました。カイロだけでなく、スエズ、アレクサンドリアなどの都市、ナイルデルタの諸都市にも急速に拡大。英字紙インターナショナル・ヘラルド・トリビューンは「エジプト政府が広範な(民衆の)反乱によって揺らぎ、煮えたぎった民衆の怒りは階級闘争へと変わった」と評しています。

 29日には内閣が総辞職。スレイマン情報部長官を副大統領職に、シャフィク民間航空相を首相に任命しました。軍は静観を守りながら、国民に自宅に戻るよう呼びかけました。

 政権側は野党勢力との話し合いをすすめていますが、ウィーンにいた国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ前事務局長が帰国してムバラク氏の退陣と国外退去を要求。「国民統一政府」を呼びかけました。アラブ連盟のムーサ事務局長も政権移行への関与に意欲をみせており、政権の受け皿が一本化しない状況もあります。

問題の根源

 直接的背景には国際的経済危機後の食料価格をはじめとする物価の高騰、10%以上の失業率、政権腐敗と貧富の格差、長期政権下での民主主義の抑圧が指摘されています。

 エジプトでは、ムバラク氏が1981年に暗殺されたサダト前大統領の後を継ぎ、非常事態下で長期に国を支配し、選挙のたびに9割近い得票を得てきました。

 ムバラク政権下では警察による言論の自由の弾圧、反民主的法律の制定などが続きました。経済的にも91年の湾岸戦争後の国際通貨基金(IMF)との構造調整合意による社会福祉の切り捨ては、国民の4割を1日2ドル以下の生活という状況に追い込み、貧富の差を拡大し、国民の不満を強めました。

 2000年以降にはムバラク体制に不満を持つ市民が既存の団体に依拠しない組織を次々と結成するようになります。「キファーヤ(もう十分だ)」、「4月6日青年運動」、エルバラダイ氏が設立した「変化のための国民連合」などがつくられました。

 これらの組織は「非常事態法の廃止」「無所属の大統領選挙候補希望者へ課した立候補条件の緩和」を要求しました。今回の事態ではインターネットを使って抗議行動を組織したといわれています。

ムバラク政権 内政面では強権体制

 エジプトの政変は周辺国をはじめ、世界に大きな衝撃を与えています。ヨルダンでは内閣が総辞職し、イエメンではサレハ大統領が次期大統領選不出馬を宣言しました。チュニジアから始まり、アルジェリア、モロッコでも反政府デモが拡大しています。

 エジプトはアラブ連盟の本部を首都に置くなどアラブの盟主を自任。中東和平の仲介役となり、非同盟運動や新アジェンダ連合の一員として、軍事基地撤去を求めるたたかいや核兵器廃絶の課題で国際社会に貢献してきました。外交での積極性とは裏腹に内政面では強権的な体制を貫きました。

 人口規模も約8300万人と大きく、そこでの政変が及ぼす影響はチュニジアの比ではありません。米国は年15億ドル(約1215億円)を支援するなどエジプトを域内でイスラエルに次いで重要な国と位置づけています。

 しかし今回、オバマ政権は、英国やフランスとともに「直ちに政権を移行」するよう要求。欧州連合(EU)も「秩序ある政権移行」を呼びかけました。

 イスラエルは、アラブ圏で数少ない国交をもつエジプトの急進的な政変は避けたい考えです。特にイスラエルとの平和条約破棄など政策転換を図るとされるムスリム同胞団の政権参加の可能性に神経をとがらせているといわれます。


《エジプト どんな国?》

 ■人口8299万9000人。アラブ系が98%

 ■公用語はアラビア語

 ■イスラム教が国教(大半はスンニ派で約90%)、少数派のキリスト教(コプト教10%弱)

 ■大統領の任期6年。議会は人民議会(定数454、任期5年)と諮問評議会(定数264、任期6年)

 ■国内総生産(1628億2000万ドル)。1人当たり国民所得1800ドル

 ■主な政党 国民民主党(NDP)、新ワフド党、国民進歩統一党(タガンマア党)、ガッド党、ナセリスト党、ウンマ党、社会労働党など。





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