2010年12月31日(金)「しんぶん赤旗」

越年 B型肝炎訴訟

国を追い詰めた原告のたたかい

全面解決へ あと一歩


 国の強制で実施された予防接種でB型肝炎に感染させられた被害者が国に損害賠償を求めてたたかう全国B型肝炎訴訟原告団・弁護団は、年内解決へぎりぎりまで訴え続けました。3月の札幌地裁での和解勧告から9カ月。たたかいの到達は…。(菅野尚夫)


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(写真)首相官邸前で年内解決に背を向けた国に抗議する原告団・弁護団と支援者ら=28日、東京・永田町

 「来年は命があるのか分かりません。年内解決へ決断してください」。29日、首相官邸に向かって峻烈(しゅんれつ)な訴えが飛びました。

一刻も早く

 原告は幼少期に、感染の危険を知りながら注射器具を使い回しにされてB型肝炎に感染させられた人たちです。肝臓がんなどで余命を宣告された人も少なくありません。提訴から11人が亡くなっています。

 北海道訴訟原告の高橋朋己代表(56)は「私はがんです。いつ死んでもおかしくないといわれています。これまで25回の手術をしています」と一刻も早い解決を強調します。

 慢性肝炎の北海道訴訟の女性原告(46)は38歳のときに感染を知りました。「結婚して1年目でした。抗ウイルス剤の副作用が強く、胎児にも影響を及ぼすといわれ出産をあきらめました。幸せと希望を返してください」と涙ぐみます。

三つの課題

 全面解決には克服すべき三つの課題があります。

 その一つは、感染させられているものの未発症のキャリアーの人の賠償です。徳島県在住で大阪訴訟原告の男性(64)は「年2回のエコー検査、4回の血液検査。費用がかかり、家族も不安です。いつ発症するか、危機感があります。キャリアーを含めた和解を実現させたい」。

 二つ目は、予防接種が原因で感染したかどうかの立証です。

 被告国は、母子手帳、接種台帳で確認できるかなど無理な立証を求めています。

 原告の主張は、明快です。

 予防接種は、法律で国民の義務として強制。数種類の予防接種を何度も実施しているのだから接種していない国民はいない。幼児期に日本に在住していたことを確認できれば十分と主張しています。

 北海道訴訟の男性原告(52)は、小学校での集団予防接種の光景を覚えています。「父親の目の前で注射をした」と言います。父親は教師で、担任でした。教室に児童全員が並び、二の腕を突き出して同級生みんなが注射を受けました。

 男性原告は「8年前に健康診断で慢性肝炎と分かりリストラされました。私は大黒柱ですが無職」と被害の実態を話します。

 三つ目は、賠償額をめぐる隔たりをどう埋めるかです。

 原告側は、薬害肝炎訴訟の賠償額(肝がんなどの被害者4000万円、キャリアー1200万円)と同額を国に求めています。

 一方、被告国は、財政難などを持ち出して最高で2500万円、キャリアーはゼロ円と低額を回答。「命の価値」に差を持ち込んでいます。


札幌地裁の勧告を力に

 全国弁護団事務局長の奥泉尚洋弁護士の話

 解決しなければならない課題について加害者の国との間には微妙な差はありますが、全面解決の一歩手前まで来ています。

 原告らの命を削るたたかいでここまで国を追い詰めました。3月12日の「救済範囲を広くとらえる」という札幌地裁の和解勧告の言葉は、私たちの最大の武器になりました。座り込み行動も繰り返し行い、国に和解テーブルに着かせました。

 5月の長妻昭厚労相(当時)との面談、衆院厚労委員会での参考人質疑、超党派による政府への全面解決申し入れ、細川律夫厚労相への直接の訴え実現と成果を獲得しました。

 年明けから取り組みを大きく展開します。


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(写真)全国B型肝炎訴訟の年内解決へ向けてのメッセージを書き込んだ布を谷口原告団代表(左から4人目)と掲げる志位委員長(右から3人目)、高橋衆院議員(左から2人目)、田村参院議員(右)、仁比国民運動委員会副責任者(左)=8日、党本部

原告によりそう共産党

 日本共産党の志位和夫委員長は5月11日、原告団と懇談し、「一刻も早い全面解決にむけて頑張り抜く」と表明。原告から「共産党からはいつも勇気をもらっている」と感謝されました。10月19日、12月8日にも懇談しました。

 志位委員長は6月14日の代表質問で、国は和解協議で具体的解決策を示して早期全面解決をするように迫りました。

 日本共産党国会議員団は、座り込みへの激励などに各国会議員がかけつけました。

 高橋ちづ子衆院議員、田村智子参院議員は、他党の国会議員とともに年内解決を求めて菅直人首相と細川厚労相に要請しました。


和解協議の経緯

第1回(7月6日) 国は接種記録について母子手帳以外の方法も認めると提案。原告は受けていない国民は皆無と反論。

第2回(7月28日) 国は救済の全体像示さず。

第3回(9月1日) 国はキャリアー切り捨てなどを含む全体像を示す。原告は被害者の多くを切り捨てると抗議。

第4回(9月15日) 原告は国が加害者としての自覚を欠いていると批判。

第5回(10月12日) 国が低額の和解金額を示す。原告は薬害肝炎救済法の水準より下回っていると反発。

第6回(10月26日) 裁判長が「国がキャリアーを対象外にしているのが最大の障害」とする認識を示す。

第7回(11月12日) 国は回答せず。

第8回(11月24日) 同上

第9回(12月7日) 同上

第10回(12月22日) 同上

第11回(12月27日) 国は和解案を示さず、年内解決拒否。裁判長が次回1月11日に所見を示すと表明。





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