2010年12月24日(金)「しんぶん赤旗」

日航「整理解雇」の異常

経営責任を労働者に回すな


 日本航空は、パイロットと客室乗務員202人にたいして12月31日付で解雇することを通告しました。これは「整理解雇の4要件」という重要な雇用のルールを崩すという意味でも、国民、利用者が願う安全・安心の運航に重大な障害をつくるという意味でも絶対に許されません。整理解雇の撤回を求めるたたかいは国民的な意義をもっています。


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(写真)整理解雇の撤回を求めて宣伝する客室乗務員と支援者たち=11日、東京都内

「4要件」を満たさない

全労働者にかかわる問題

 整理解雇とはどういうものか。労働問題の担当官庁である厚生労働省の見解をみてみます。ことし9月に発行したパンフレット『知って役立つ労働法 働くときに必要な基礎知識』で、次のように定式化しています。

 「使用者が、不況や経営不振などの理由により、解雇せざるを得ない場合に人員削減のために行う解雇を整理解雇といいます。これは使用者側の事情による解雇ですから、次の事項に照らして整理解雇が有効か否か厳しく判断されます。」

 こう説明して以下の4点を示しています。

 (1)人員削減の必要性

 人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること

 (2)解雇回避の努力

 配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと

 (3)人選の合理性

 整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること

 (4)解雇手続きの妥当性

 労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得をえるために説明を行うこと

 これがいわゆる「整理解雇の4要件」です。この基準を満たしているかどうかで、整理解雇が有効か無効かが判断されます。

 日本航空の整理解雇は、厚生労働省が示しているこの基準をまったく満たしていません。それどころか解雇の必要性がまったく存在しないことが明白になっています。

 日航は、会社再生のための人員削減目標を1500人に設定していました。それが3次にわたる希望退職募集で応募者が1700人を超えました。希望退職が目標を超えているのに、なお整理解雇という手段をとるのは異常です。

 日航は、「稼働ベース」という計算式を持ちだして目標に達していないと主張しています。「稼働ベース」とは必要人員を確保するさいの計算式であって、人員削減のコスト計算に用いるものではありません。休職者や深夜勤免除者などを「0」とか「0・5」などと数字化し、存在を無にしてしまうひどい主張です。

 しかも日航は、整理解雇で人員削減しなければ経営が成り立たない事態からすでに脱しています。今年の4〜10月の営業利益は1327億円になり、当初250億円としていた年間目標を大幅に上回っています。

 解雇の対象者も、機長は55歳、副操縦士は48歳、客室乗務員は53歳と年齢で人選しているのは明らかに年齢差別です。整理解雇という最悪の事態を回避するために労働組合が提案したワークシェアリング(仕事の分かち合い)の検討も拒否し、再就職先の確保の手立てもつくさず、労働組合の合意をえようとする姿勢もまったく見られませんでした。

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(写真)整理解雇の撤回を訴える日本航空キャビンクルーユニオンの組合員=11月27日、東京都内

“勝ちとった成果”

70年代から全国で闘争

 「整理解雇の4要件」は、労働者の長い間のたたかいでかちとった成果です。

 オイルショックがあった1970年代半ば以降、大企業を中心に不当解雇があいつぎ、全国で労働者、労働組合が撤回闘争に立ち上がりました。このなかで裁判に訴え、解雇を規制する重要な判決をかちとってきました。

 たとえば企業の解雇権を規制する重要な判例として、最高裁が75年に「客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用(らんよう)として無効になる」という判断を示しました(日本食塩製造事件)。

 さらに「客観的に合理的な理由」「社会通念上相当」という場合の基準は何かという問題で、東京高裁が79年に、▽人員削減に必要性があるか▽解雇を回避する努力をしているか▽解雇対象者の選定が客観的、合理的か―という3点の基準を示しました(東洋酸素事件)。

 これが整理解雇の要件として、その後の多くの判例に影響をあたえてきました。その後、いきなり整理解雇という手段に出た事件で、最高裁が83年に、「やむをえない事情などを説明して協力を求める努力」をしないのは「労使の信義則に反し、解雇権の濫用として無効である」という判断を示しました(あさひ保育園事件)。

 こうしたたたかいで「整理解雇の4要件」が政府も企業も無視できない「法理」として定着し、これを満たさない解雇は無効とされるようになりました。沖電気、池貝鉄工など多くの争議が職場復帰を実現しています。

 日航のように経営が破綻し会社更生法のもとで再生中の企業には「整理解雇の4要件」は適用されないという議論がありますが、これは通用しません。名古屋地裁で05年に、たとえ再生中であっても整理解雇法理は適用されるという判断が示され、07年に最高裁で確定しています(山田紡績事件)。

 日航が強行した整理解雇は、こうした労働者のたたかいでかちとってきたルールをふみにじり、空文化しようとする攻撃です。労働者、労働組合全体にかけられた挑戦とうけとめ、これをはね返す大きなたたかいが求められています。

破綻の原因は航空行政

米貿易赤字縮小の標的に

 日本航空の負債総額は約2兆3000億円に上ります。赤字の根本には、政府による誤った航空行政のツケを背負わされてきた問題があります。

過大な設備投資 米機大量購入

 まず、過大な設備投資の問題です。これには日米間貿易不均衡解消を目的とした米国からの航空機購入の圧力を指摘しないわけにはいきません。

 「双子の赤字」(貿易赤字と財政赤字)に苦しむ米国は貿易赤字縮小のため、日本に対して公共投資を要求。これを受けて日本政府は、430兆円(のちに630兆円に拡大)にのぼる公共投資基本計画を閣議決定しました。

 日本航空はその一翼を担わされ、1機200億円以上する米国製ボーイング747型ジャンボ機を1970年以降、113機も購入させられました。

 乗客の少ない路線にまでジャンボ機を使ってもなお十分に活用できず、92年に4機を米国の砂漠に寝かせていたのが話題になりました。2009年は10機も余剰を抱えていました。

 1993年には、経営不振に陥っていた米マクドネル・ダグラス社(97年度にボーイング社に吸収合併)から、MD11機を10機購入しました。ところが、交換部品の確保などコストがかさみ、結局、わずか11年ですべて売却しました。7年しか使用しなかった機体もありました。後に、経理担当経験者が「20機購入するよう圧力があったが10機で勘弁してもらった」と認めたのは広く知られている話です。

 それでも07年から4年間で4000億円の新型機を購入する計画を変更しようとしていません。

赤字路線の強要 地方空港次々

 つぎは、国土交通省が進めてきた空港整備計画の問題があります。アメリカの要求に沿った過大な需要予測にもとづいて、全国各地に次々と空港がつくられ、狭い国土に99カ所もつくられました。

 この空港建設の資金となってきたのが、特別会計の「空港整備勘定」(2009年度、1285億円)です。財源は、世界的にも異常に高い着陸料や燃料税など、航空会社が支払う「公租公課」(負担)です。日航の負担分は、年間1200億〜1700億円にものぼっています。

 日航は、不採算路線への就航も強いられ、これらが運賃に転嫁され、利用者の重い負担の原因になっているのです。

 その典型が関西空港です。発着回数を23万回と過大に見込み、2本目の滑走路まで建設したものの12万回に低迷。有利子負債だけで1兆1000億円を抱え、着陸料がロンドンの6・4倍など重い負担となっています。

 前原誠司国交相(当時)も「予算があるからと不採算空港をつくり、政治家や役所が日航に飛ばせと押し付けてきた。それが結果的に経営を悪化させた面があり、悪循環を断ち切らねばならない」(09年9月26日)といわざるをえませんでした。

 小泉内閣のもとで2000年から始まった規制緩和の影響も見逃せません。自前で整備する能力のない会社でも参入できるなどの規制緩和で、新規航空会社が高収益路線をねらって格安料金で参入しました。日航も運賃を下げざるをえず、不採算路線の補てんが困難になりました。

経営陣の放漫も重大 先物買い・事業失敗…

 日航経営陣による放漫経営も重大です。ドルの先物買いで推定2210億円の損出を出したり、ホテル・リゾート開発事業の失敗による970億円の損失、52億円を投じたHSST(磁気浮上式鉄道)を1億2000万円で売却するなど、数々の損失を出してきました。

 ドル先物買いの大損や大量のジャンボ機購入の背景には、大蔵省(現財務省)や国交省からの天下り官僚の存在がありました。

行政の歪みに是正を 利益優先で安全守れず

 このように日航の経営破綻は、日航経営陣と、長年の自民党政権下ですすめられてきた航空行政の歪(ゆが)みにこそ真の原因があります。

 前原国交相直轄の専門家チーム「JALタスクフォース」の報告書(2009年10月29日)でも、労働者について「運行現場に近いセクションにいる人々ほど、活気があり、目を輝かせて仕事をしている」と評価。賃金について、「実質手取りレベルでは、決して世間相場や同業他社に比べても高くない」と指摘し、経営破綻が労働者の責任に帰するものではないことを認めています。

 ところが、民主党政府はこうした航空行政の歪みにきっぱりとメスを入れることができません。日航再建をすすめる企業再生支援機構は、こうした破綻原因にいっさい触れず、人員削減を中心とするコスト削減と利益最優先を追求しています。「これでは航空会社の使命である安全と公共性は守れず、日航再生にはつながらない」という声が現場の労働者からあがっています。

図

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