2010年11月2日(火)「しんぶん赤旗」

検証特集 内部留保問題と日本共産党

「取り崩せない」→“還元は可能”へ

政府・財界に迫り変化生む


 長引く金融・経済危機のもとで、大企業の過剰な内部留保の活用問題が、国会でも、マスメディアでも、銀行系シンクタンクでも注目されています。日本共産党は粘り強く「内部留保を還元せよ」と政府にも財界・大企業にも求めてきました。(清水渡)


自公政権時代

 2008年9月のリーマン・ショック後、自動車や電機などの大企業が派遣労働者や期間従業員など非正規の労働者をいっせいに削減しました。

 日本共産党は08年11月11日に発表した緊急経済提言で、大企業の内部留保は230兆円にのぼると指摘。大企業には体力があり、「非正規切り」などは許されないと批判しました。12月5日には志位和夫委員長が麻生太郎首相(当時)と会談し、非正規雇用の大量解雇に対して「(大企業のほとんどは)株主への配当も減らさず、巨額の内部留保も持っており、大量の失業者を路頭に迷わせるような人員削減を強行する根拠はまったくない」と指摘しました。

 08年末から09年正月にかけて東京・日比谷公園で取り組まれた「年越し派遣村」。首都の真ん中に出現した派遣村は、非正規労働者がおかれた不安定な雇用の現状と貧困を社会問題として浮き彫りにしました。

 こうした動きに押され、河村建夫官房長官(当時)は09年1月5日の記者会見で、雇用問題について「企業は、こういうことに備えて、内部留保という制度も持っている」と内部留保の活用に言及。1月9日の衆院予算委員会でも日本共産党の笠井亮議員の追及には、「雇用の維持に最大の力を果たしていくのも、企業の社会的責任。内部留保の活用もその一つになっていくだろう」と表明しました。麻生首相も「内部留保の扱いについては(雇用に活用するよう)重ねて言わないといけない」と表明せざるをえなくなったのです。

政権交代後も

 政権交代後、今年2月2日の衆院本会議で志位和夫委員長は「大企業がため込んだ巨額の内部留保こそ、国民に還元すべき最大の埋蔵金だ」として、雇用と中小企業に還元させる政策への転換を迫りました。鳩山由紀夫首相(当時)は「内部留保の活用というものは、本来企業がそれぞれの状況に応じて、経営判断を下すべきもの」と自民党より後退した答弁でした。

 しかし重ねての追及に変化が表れます。

 2月8日の衆院予算委員会で志位委員長は大企業の内部留保が急膨張する一方、労働者の雇用者報酬が落ち込んだことを指摘し、システムの転換を要求。鳩山首相は「内部留保が大変にふえているという実態はあると思う。それをどうするか、一つの(政治的な)判断はあり得るのではないか」と答弁しました。

 さらに鳩山首相は志位氏との党首会談(2月17日)では、「大企業の内部留保を還元させる具体的な方法を検討してみたい」とまで踏み込みました。

 菅首相に対しても、志位委員長は10月7日の衆院代表質問で、大企業の内部留保が1年間で233兆円から244兆円に膨張し、「空前の金あまり」となっていると指摘。「家計を直接応援し、内需を底上げする政策への転換をはかる」べきだと迫りました。

 菅首相は、「富が広く循環する経済構造を築く必要がある」と述べたものの、大企業の内部留保をいっそう積み増すだけの法人税減税には前向きな姿勢を示し、“抜け穴”が開いた労働者派遣法改定案の抜本修正を「適当ではない」と拒否しました。

財界に対して

写真

(写真)古橋衛トヨタ自動車専務取締役(中央左)に要求書を手渡す志位和夫委員長(中央右)=08年12月24日、日本共産党本部

 日本共産党は財界・大企業の幹部とも直接会談し、内部留保の還元について問題提起をしてきました。

 志位委員長は08年12月にトヨタ自動車と会談。志位委員長が「雇用維持のためには内部留保の0・2%、中間配当の8分の1をまわすだけで足りる」「この点でも大量解雇の合理的理由はない」と要請したのに対し、トヨタ側は、「内部留保をとりくずしてまで(雇用を維持することはない)というのが経営判断だ。そこは価値判断の違いだと思う」。同月の経団連との会談でも、志位委員長の「内部留保の一部を取り崩すだけで雇用は維持できる」との指摘に対し、経団連側は「ご意見は承る」との対応でした。

 経団連は、財界の春闘方針書である2010年版の「経営労働政策委員会報告」(1月19日発表)で、内部留保は「会計上の概念」で現金などは手元にはないから“取り崩せない”との態度でした。

 ところが、7月20日に発表した「『新成長戦略』の早期実行を求める」との提言では、次のように指摘しました。

 「国内経済の活性化に向け、(海外現地法人の)内部留保の一部を国内に還流させ、新たな成長が期待される分野への前向きな投資と雇用の創出に結び付けるためのインセンティブ(誘因)拡充について、取り組みを強化すべきである」

 大企業支援策を取り付けるために持ち出した「内部留保の還流」論ですが、提言が指摘しているように内部留保は取り崩せるのです。いまや財界も認めるまでになりました。


メディアやシンクタンクも注目

 週刊の金融投資情報紙である「日経ヴェリタス」も10月17日付で、「企業の懐に眠る巨額の資金。投資に回らず、雇用機会の創出にも結び付かない」と指摘しています。内部留保問題は、マスメディアも注目しました。

 東京新聞08年12月24日付は1面で、「大手製造業16社の内部留保33兆円」と報道。トヨタやキヤノンなど大手製造業16社が約4万人の人員削減を進める一方、内部留保を空前の規模に積み上げ、株主配当を5社が増やし、5社が維持の方針だとしました。

 みずほ総合研究所の報告書(10月7日付)は、「日本企業は貯蓄超過幅拡大」しているとして、「最近の拡大は業績改善の下でも投資抑制が続いていることをうかがわせる」と指摘。このことが「中長期的な成長を抑制」しているとの認識を示しています。





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