2010年8月24日(火)「しんぶん赤旗」

中津川・小池代読裁判

障害者の自己決定権こそ

来月地裁判決


 目の前にいる相手に“自分の声”で気持ちを伝えられないのはもどかしい。まして議員であれば―。岐阜県中津川市議会は、発声障害のある議員の代読発言を認めませんでした。なぜ代読はだめなのか、なぜ自分の意見を聞かないのか―。同市と、代読を認めなかった議員を岐阜地裁に提訴した小池公夫さん(70)=日本共産党元市議。障害者の政治参加と自己決定権を問う裁判の判決が、来月22日に迫っています。(和田 肇)


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(写真)「支援する会」事務局のメンバー。後列右から3人目が小池さん

 8月9日、小池さん宅に隣接する「代読裁判を支援する会」(赤尾万作代表)の事務所で第119回事務局会議が開かれました。判決に対する声明文の検討などが議題です。

 会議の中で小池さんは「なぜ代読がダメなのか。中津川市議会は理由もなく多数の力で拒否する。三十数年間、高校教師として憲法、教育基本法の理念の具現化のためにたたかってきたことが本物かどうか、試されてきた」とメモ書きし、同会の藤井四郎事務局長が読みあげました。「代読」でコミュニケーションは図れています。

声帯の摘出

 1939年に岩手に生まれ、高校教員となった小池さん。岩手、岐阜で教べんを執り、岐阜県労働組合総連合の初代議長も務めました。99年に退職後、市議選に立候補し初当選。ところが2002年夏、下咽頭(いんとう)がんが見つかり「声帯を取らなければ余命6カ月」と宣告されます。声帯摘出後の03年4月、声が出ないハンディを背負いながら再選しました。

 発声障害のある議員が簡便で臨機応変に発言できる方法が、自分で書いたメモを第三者に読んでもらう「代読」です。実際に神奈川県鎌倉市では、重度の障害のある議員に対し、議会事務局による介助者の配置をはじめ、代理投票や代読質問を行っています。

 ところが、中津川市議会の議会運営委員会は「議会規則にない」として拒否。「自分の都合で発言できないときは(質問権を)放棄してもらわないといけない」という議員までいました。

 家族や支援者は発言拒否という異常事態を市民に訴え、議会のバリアフリー化を求める署名を集めました。04年8月、約1万5千人分の署名を議会に提出。翌05年11月には代読を認めるよう岐阜県弁護士会が議会に勧告を出します。

 しかし、議会運営委員会は「(弁護士会の勧告には)法的拘束力がない」と、頑として代読を認めません。一方で「音声変換機能付きパソコン」であれば、発言を許可すると決めました。小池さんはパソコンを使えません。このような過程で、小池さん自身が議運委から意見を求められたことは一度もありませんでした。

 06年12月、小池さんは中津川市と代読に反対した議員ら28人に損害賠償を求め、岐阜地裁に提訴しました。

理由示さず

 裁判では「障害者の自己決定権」が大きな争点です。小池さんは「代読かパソコンか」の選択を迫られたのではなく、「パソコンを使えば発言してよい」という結論だけを押しつけられました。

 原告弁護団の安藤友人団長は「パソコンが悪くて代読がいい、という話ではありません。どちらかを選ぶ『自己決定権』が障害者にも当然あるということです」と説明します。

 また、「なぜ代読ではいけないのか」について、まともな理由は示されていません。議会側は「誤読のおそれ」「代読者の精神的負担」といいます。誤読は訂正すればよく、「精神的負担」は議員に発言機会を与えない理屈といえるでしょうか。

 安藤弁護士は「代読は一番手っ取り早い手段。だから他の議会もやっています。なぜいけないのか。説得力のある理由を、議会側はこの裁判でついに語れませんでした」。

人間の尊厳

 半面、小池さんはどうしてパソコンを使っての発言を拒否するのでしょう。それは、基本的人権を守るために譲れない一線があったからです。

 大阪夕陽丘学園短大の川崎和代教授は、健常者と障害者が理解しあうために大切なのは「互いに真正面から向き合い、その人格を尊重しあうこと」だと指摘します。

 「中津川市議会には小池さんに『パソコンの用意をしてあげた』という考えがあったと思います。他の議員と同一の権利を行使するのに不利益で不本意な方法を押し付けておきながら、『〜してあげた』というのは失礼です。対等な立場ではありません」。相手の意見を聞かず“お恵み”を与えて満足するような感覚が問われます。対等に扱われない理不尽さを、小池さんの「人間の尊厳」が許さなかったのです。

 小池さんは「障害者いじめをやめよ」とつづります。「自己責任」論がまかり通る社会では「生存権まで危うくされている」と―。

 「自分の権利を主張し、そのうえで困ったときには“お互いさま”の精神で助け合う。この裁判は『憲法と命を大切にする政治』の実現を求める第一歩です。障害者が議員になって活動できる中津川市議会にしたい」。力のこもった文字でした。

 小池公夫さんのホームページ

http://www.geocities.jp/chocoball1018/


 自己決定権 自らの生命や生活に関して自ら決定する権利。憲法13条の幸福追求権の一部といわれます。国連の障害者権利条約(06年12月採択)では、障害を補完する手段(特に移動手段やコミュニケーション)において、障害者が自ら選択する手段を受け入れるよう、締約国に求めています。





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