2010年8月19日(木)「しんぶん赤旗」
カンボジア・タイ国境問題
対立再び激化
ASEAN仲裁に注目
【ハノイ=井上歩】カンボジア・タイ国境にあるクメール寺院遺跡プレアビヒア付近の領有をめぐる両国の対立が再び激しくなっています。タイ国内で右派の圧力が高まり、カンボジアは東南アジア諸国連合(ASEAN)に仲裁を要請しました。
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発端は、タイの反タクシン元首相派「民主主義市民連合」(PAD)系団体が今月7日にバンコクで開いた集会。同国メディアなどによると、アピシット首相がこの集会に出席し、領有問題で「外交と軍事両方の手段を使う」と発言しました。
カンボジアのフン・セン首相は8日、この発言が国連憲章違反の脅迫だとする書簡を国連に送付。アピシット氏は11日までに国連憲章を順守するとの書簡を国連に送りました。
カンボジアのホー・ナムホン外相は14日、ASEANの調停を求める書簡を議長国ベトナムに送付。同国外務省報道官は17日、「仲裁提案について加盟各国と協議している」と明らかにしました。
タイはこの問題で従来、二国間解決を主張しており、当事者双方の要請を仲裁の原則とするASEANがどのような対応をとるのか注目されます。ASEANのスリン事務局長は16日、プノンペンでホー・ナムホン氏と会談、平和解決を望むと強調しました。
この問題で両国は2008年に合同国境画定委員会を設置し、会合を重ねてきました。しかし昨年末以降、タイ情勢と両国関係の悪化で交渉は停滞。さらにタイは、国境委員会の合意実行には国会の承認が必要との立場で、カンボジアはタイ政府が承認を進めていないとして「二国間交渉に展望はない」とベトナムあての書簡で表明しています。
領有問題で焦点となっているのは、国境画定についての2000年の両国覚書。両国はこのなかで、20世紀初めに「インドシナ・シャム国境委員会」が国境画定作業のうえで作成した地図に基づいて国境の調査・画定を行うことに合意しています。
カンボジアは、プレアビヒアとその付近4・6平方キロの係争地は同地図でカンボジア領に属しているとし、国連やASEANへの書簡でも覚書の存在を強調。他方、PADなどタイの右派や急進派は、覚書の破棄を要求しています。
タイ政府の立場は不安定で、同国メディアによると、アピシット氏は7日のPADの集会で覚書の破棄に言及する一方、10日には「2000年の合意を問題解決の枠組みとする」とも述べています。
プレアビヒア寺院 カンボジア、タイ国境の絶壁に立つクメール様式のヒンズー教寺院遺跡で、アンコール王朝が9〜11世紀に建設。国際司法裁判所は1962年、カンボジア領との判断を下しました。しかし、地形的にタイ側からしか登れず、寺院周辺に国境未画定部分があり、タイ国内では領有権を主張する根強い世論があります。


