2010年7月17日(土)「しんぶん赤旗」

米金融規制法案成立へ

上院が可決 緩和路線を転換


 【ワシントン=小林俊哉】米上院は15日、金融危機の再発防止と消費者・納税者保護を目指す金融規制改革法案を賛成60、反対39で可決しました。下院でも可決済みで、オバマ大統領の署名を経て近日中に成立します。金融規制緩和を推進してきた米国にとって、大きな転換となります。

 同法案は、大手金融機関に対する監督を強化し、財務長官を責任者とする協議会によって金融システム全体を監視することで、金融危機の再発防止を目指します。また、金融派生商品などリスクの高い商品取引にも規制を強化します。

 金融機関の破たんに際しては、当局による新しい清算処理に従うことで、公的資金による救済は行わないとしています。

 また、連邦準備制度理事会(FRB)内に消費者保護を担当する専門部署を設け、クレジットカードによる高利被害や、金融危機の背景となったサブプライム(低信用層向け高金利型)住宅ローンによる被害などへの規制を目指します。

 オバマ米大統領は、規制強化を内政の重要課題にしてきました。一方、米金融業界は、激しいロビー活動を展開し、野党・共和党を中心に反対世論の喚起に奔走しました。それでも、共和党から3人の上院議員が賛成に回りました。

 オバマ大統領は同日、ホワイトハウス内で声明を発表し、同法案の成立によって、消費者保護、ウォール街による投機の抑制、税金を投入しない金融破たん処理など目標が達成されると強調しました。

解説

米金融規制改革

高リスク投資を制限

 米上院が15日可決した金融規制改革法案は、一時もてはやされた「金融自由化」の流れを転換し、過度のリスクをとる投資活動に制限を加えるものです。

 それを象徴的に示しているのが「ボルカールール」です。オバマ政権の経済諮問会議を率いるボルカー元連邦準備制度理事会(FRB)議長の名前からとっているもので、「預金保護と流動性の提供という商業銀行の必須業務のために『セーフティーネット』を提供し、公共的利益を保全する」(2月2日、上院銀行住宅都市委員会公聴会でボルカー氏)というのが基本精神で、顧客サービスから離れた投資活動への規制が内容でした。

 これには金融界から根強い抵抗があり、その意を受けた共和党議員の反対もあり、修正を重ねましたが、基本線は貫かれました。ヘッジファンドなどへの投資は完全規制にはならなかったものの、「銀行の中核的資本の3%を上限」とするとしました。顧客注文に基づかない銀行による自己勘定取引も規制されます。

 金融危機を誘発したデリバティブ(金融派生商品)取引に関する規制もすすめ、一部残したものも「透明性の確保」を条件とし、最もリスクが高い分野は銀行本体から切り離すこととしました。

 これまで大手銀行は「大きすぎてつぶせない」と経営破たんしても救済され、それが失敗を改めず、さらなるリスクをとる経営幹部の道徳的節度の欠如(モラルハザード)を生むことも指摘されていました。今回の改革は、こうした問題への対処も考慮されたものです。

 米国では1999年に、商業銀行業務と投資銀行業務の機能分離を定めていた「グラス・スティーガル法」が廃止され、規制緩和につながりました。クリントン政権末期のこの緩和によって、続くブッシュ政権下では、投機マネーの暴走が野放しにされました。

 2008年9月の証券大手リーマン・ブラザーズの破たんを機に表面化した米国発の金融危機は、世界中を揺るがしました。「米国型資本主義と米国金融覇権の終えんの始まり」との指摘もあり、09年1月に発足したオバマ政権にとっても、再発防止のための金融規制改革は最重要課題の一つになっていました。(ワシントン=西村央)





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