2010年6月30日(水)「しんぶん赤旗」

消費税増税をめぐる政治論戦の焦点について

志位委員長の会見


 日本共産党の志位和夫委員長が29日に広島市での記者会見でおこなった消費税増税問題での発言は次の通りです。


国民の暮らしを壊し、景気悪化への破壊的影響ははかりしれない

 消費税増税の問題が大きな争点となっています。民主党と自民党がそろって「税率10%」を公約したことに、日本列島で大きな衝撃、怒り、批判が起こっています。とりわけ、「10%」への大増税が、暮らしと営業を破壊するとともに、深刻な不景気をいっそうひどくすることへの不安もひじょうに強いものがあります。

 かつて、1997年に橋本内閣によって消費税が3%から5%に増税されたときに、あわせて強行された医療費負担増など9兆円負担増によって、当時弱いけれども回復しつつあった景気が、どん底へと突き落とされたことがありました。あのときは、家計所得ののびを、消費税増税など負担増がうわまわったため、「家計の底」がぬけてしまったわけです。今回はどうか。昨年の家計所得は前年比でマイナス17万6千円、97年のピーク時から92万円も減っている。家計所得が減り続けているもとで、国民の所得を5%増税で12兆円も奪うわけですから、景気への破壊的影響ははかりしれません。

 私たちは、もとより消費税増税には反対ですが、いくつか重要な論戦上の焦点があると考えています。4点ほどお話しさせていただきたいと思います。

何のための消費税増税か――大企業減税の財源づくり

 第一は、何のための消費税増税かという問題です。菅直人首相は、「社会保障のため」、「財政再建のため」ということをいうわけですが、実はそこに真相はないと、私たちは訴えています。

 たとえば民主党のマニフェストを見ますと、「強い経済」の目玉とされているのが、法人税率の引き下げです。それと一体に、「強い財政」の目玉として消費税増税が書かれています。さらに、経済産業省が6月に出した「産業構造ビジョン2010」という文書がありますが、そこには法人税率の引き下げが書いてあり、税率はいまの実効税率40%を25%まで引き下げるという数字まで明記されています。もともと、この動きの発信源は財界だと言ってきましたが、財界は40%から25%への引き下げということを呼号しています。

 こうして今回の消費税の増税は大企業の法人税の減税とセットになっている、ここに一番の問題点があると思います。法人税の実効税率を25%まで下げると、平年度ベースで9兆円も税収に穴が開きます。消費税5%増税で新たにつくられる財源は11兆円ですから、増税分のほとんどは大企業減税の財源に使われてしまうということになる。消費税増税の目的は、これは社会保障のためでもなければ、財政再建のためでもない。大企業減税のための消費税増税です。私たちは絶対反対という立場で、いま大いに論陣を張っているところです。

 民主党は、ここを突かれるといちばん痛いのです。党首討論会でも、菅首相は、ここを突かれると、色をなして根拠なく「間違いだ」という。民主党はマニフェストには「法人税率の引き下げ」と明記しながら、法定ビラには法人税減税はいっさい書かれていない。マニフェストでは財界むけに「法人税減税」を約束しながら、国民にはその狙いを隠して選挙をやる。これはフェアなやり方ではありません。

 この点で最近、印象深いのは、メディアの中でも批判の声が起こってきていることです。「日経ヴェリタス」という経済金融紙がありますが、そこで「法人税減税は究極のバラマキ」という論説が出ました。「大企業の貯蓄を増やすだけで、経済全体の需要を縮小させる」という批判です。それからある週刊誌は、「国民から搾り取っておいて『法人税』減税ってどういうことだ」という強い批判を書き始めました。ここに事の真相があるわけで、大いにこの点を訴えていきたいと思います。

「日本の法人税は高い」か――“二つのカラクリ”をあばく

 第二は、「日本の法人税実効税率40%は高すぎる」という議論についてです。「国際競争力を考えても下げるのは当然だ」と財界がいい、そして民主党政権も同じことをいまいい出しているわけです。

 しかし、実際は“二つのカラクリ”があります。一つは、日本の大企業に対してはいろいろな優遇税制があって、実際の法人税の負担率というのは40%もないということです。大企業上位100社でいえば、法人税の実質負担率はだいたい30%です。多国籍企業で見ると、たとえばソニーは12%、住友化学は16%、パナソニックは17%と、まともに税金を払っていません。さらに大銀行になると、三大メガバンクは、この10年以上にわたって法人税を1円も払っていません。いろいろな優遇税制の仕掛けが働いて、課税ベースが狭くなり、大企業になればなるほど税金を納めていないという実態があります。

 いま一つ、日本の企業の社会保険料の負担はヨーロッパに比べてずっと低いですから、税金と社会保険料をあわせると、日本の大企業の負担はフランスの7割程度しかありません。

 大企業の法人税を下げろというのは暴論であり、逆に、税と社会保険料を合わせて世間並みの負担、もうけ相応の負担を求めるというのが当たり前の立場です。

「財政が大変」といいながら、どうして大企業に減税か

 第三は、「財政が大変だから」という議論についてです。菅首相などは、「ほうっておけば1、2年のうちにギリシャのようになる」という脅しまでのべました。しかし、ならばなぜ、消費税増税と法人税減税をセットでやるのか。これでは財政再建にとって何もプラスにならないではないかという問題がまずあるわけです。

 ギリシャの経済破綻(はたん)について一言いいますと、ギリシャの借金は7割が外国からの借金でした。日本の借金はたしかに重大ですが、9割は国内から資金を調達しているわけで、ギリシャと日本を同列に置いて論じることはできません。くわえてもう一点いいますと、ギリシャは2000年以降、法人税率を40%から24%まで下げてしまっているのです。そのことによって税収に巨額の穴が開いたわけです。それが財政破綻を加速したことは間違いありません。一方、同じ時期に消費税率は18%から19%に上げ、今度は21%まで引き上げました。

 消費税を増税して、法人税はガッポリ下げるということを10年前から行った結果が、ああいう財政破綻を引き起こしたわけです。菅首相はそれと同じ道を歩もうとしながら、「ギリシャのようになる」と脅すことは、これは議論として通用するものではありません。

 財源問題について、私たちは、年間5兆円の軍事費にメスを入れ、とりわけ「思いやり予算」・米軍再編経費は撤廃する。また大企業・大資産家に応分の負担を求めます。さらに、大企業には229兆円に上る内部留保があります。内部留保に直接課税するということはできませんが、過剰な内部留保や利益を国民生活――雇用や中小企業に還元させることは、大企業への社会的規制のルールをつくれば可能となってきます。大企業の巨額の過剰貯蓄と利益を国民生活に還元し、家計と内需を活発にして、日本経済を健全な発展の軌道にのせて税収を確保する。こういう日本共産党版の“暮らし応援の経済成長戦略”を打ち出しておりますが、この方向でこそ財源問題も道が開けるということを訴えていきたいと思います。

消費税増税は先の話ではない――参院選の審判がきわめて重要

 第四に、消費税増税の問題は決して先の問題ではない、今度の参院選での審判が本当に重要だということを訴えたい。

 菅首相は、消費税増税は2年か3年先のことだ、すぐに上げるわけではないというようなことをいっております。最近ではサミット開催国のカナダで、「消費税については与野党で協議することまでが公約だ」といって、消費税増税の方針を隠す姿勢もとっています。

 しかし実は、民主党が作成した「参院選マニフェストQ&A」という文書がありまして、それを見るとこう書いてあります。「2010年度中に消費税増税についての方針を決め、速やかに法案を提出し、成立させる」。2010年度中といえば、来年の3月までです。そこまでに増税の方針を決め、国会で一気呵成(かせい)に通してしまおう、来年度にも通してしまおうというのがスケジュールなのです。

 ですから2年後、3年後というのは、実際に消費税を上げる時期のことであって、上げるための法律の仕掛けは、今年度、来年度にもすませてしまおうというのがスケジュールなのです。そういう点では今度の参院選での国民の審判は本当に大事であり、「増税ノー」の国民的な声を上げようと強く訴えていきたいと思います。

 かつて1979年に大平内閣が「一般消費税」を持ち出してきた時に、日本共産党が総選挙で躍進して撤回させたことがあります。ある週刊誌が「共産党勝って『増税なし』サンキュー」という記事を書きました。ぜひ日本共産党を躍進させて、今回の増税にもストップをかけようと訴えていきたい。

 選挙戦はこれからがいよいよ勝負です。消費税問題では、国民のみなさんにどこが問題で、何が真相なのかということをしっかりと訴えながら、日本共産党への支持を大いに広げたいと思っています。





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