2010年6月2日(水)「しんぶん赤旗」

2010年NPT再検討会議最終文書をどう見る

核なき世界への重要な一歩前進


 2010年核不拡散条約(NPT)再検討会議は5月28日、全会一致で最終文書を採択し閉幕しました。志位和夫委員長を団長とする日本共産党代表団のNPT再検討会議への要請活動に参加した緒方靖夫副委員長・国際委員会責任者、森原公敏国際委員会事務局長、川田忠明平和運動局長の3氏に、会議と最終文書をどう見るかについて語ってもらいました。


核兵器廃絶の国際交渉開始に足がかり

てい談出席者
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(写真)緒方靖夫さん
副委員長 国際委員会責任者

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(写真)森原公敏さん
国際委員会事務局長

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(写真)川田忠明さん
平和運動局長

 森原 前回2005年の再検討会議の失敗から5年後におこなわれた今回の会議で、各国の代表団は共通して「(核兵器廃絶に向かう)絶好の機会」であることを強調していた。

 最終文書は、「すべての国が、核兵器のない世界を達成し維持するために必要な枠組みを確立するための特別な取り組みをおこなう必要について確認する」と明記した。核保有国と非核保有国の間に不一致が存在していたことがくり返し伝えられているなかで、核保有国に核兵器廃絶への「いっそうの取り組み」「具体的な進展」を求める最終文書が採択された。

日本共産党の要請

 緒方 まさにそれが肝心要の点だ。

 志位委員長はニューヨークで再検討会議に対して二つの要請をおこなった。第一の2000年会議で確認された核兵器国の「明確な約束」の再確認は、最終文書に明記され、果たされた。もう一つの核兵器廃絶の国際交渉の開始の合意については、その文言に込められている。

 文書は、1国でも反対したら不採択となってしまう。世界の大勢であった「核兵器廃絶のためのロードマップ(行程表)」は、一部の核保有国の反対によって盛られなかったが、実質的にその方向の足がかりがつくられたといえる。

 志位委員長は談話でこの確認を「核兵器のない世界」に向けた「重要な一歩前進」と評価した。これは、この会議で奮闘してきた諸国政府やNGO(非政府組織)の評価とも共通している。

 川田 実は、日本平和委員会の大会の初日と、最終文書の採択が重なったのだが、協議が難航しているというマスコミ報道などもあり、みなさんは前日から、結末がどうなるのかと心配な面持ちだった。

 しかし、最終的には積極的な内容が出たということで、大会の討論も通じて、とても確信を深めることができた。志位委員長の談話を読んだ平和委員会のあるベテランの方は、「本当に画期的なことだと思います」と感慨深くおっしゃっていた。ここに確信をもつことが、今後の運動発展にとってとても重要だと思う。

「市民社会」の役割

 森原 とくに、最終文書が「本会議は、核兵器のない世界の達成に関する諸政府や市民社会からの新しい提案およびイニシアチブに注目する」「核兵器禁止条約の交渉の検討を提起している潘基文(パンギムン)国連事務総長の提案に注目する」と指摘したことは重要だ。

 この会議の中で言われる「市民社会」とは、反核平和運動を指す言葉であり、その提案とは、NPTに向けた国際署名に象徴されているように「核兵器廃絶のための国際交渉の開始」だった。「加盟国の大半は、こうした(核軍備削減・廃絶の)法的枠組みは具体的な日程を含むべきであると考える」と強調したことと合わせて、新たな到達点といえると思う。

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(写真)核兵器のない世界のための国際共同行動パレードに参加する(左2人目から)緒方副委員長、井上参院議員、志位委員長、笠井衆院議員=5月2日、ニューヨーク(林行博撮影)

 川田 最終文書の「潘基文国連事務総長の提案に注目する」という言葉を見ながら、世論と運動の反映を感じた。潘事務総長自身、NGO主催の国際会議に参加し、「私は、核兵器禁止条約を核保有国に迫ります。政府を動かすのは、みなさんの力が必要です。各国政府に迫りましょう」と訴えたことを思い起こした。

 緒方 最終文書の到達点は、文字通り国際社会が獲得した重要な成果であり、今後の新しい展望を切り開くものだ。最終文書の採択直後に非同盟諸国を代表して発言したエジプトのアブデルアジズ国連大使は、志位委員長と同様に、最終文書を「重要な一歩前進」と評価した。

 核兵器廃絶の期限を明記した案がいろいろ出されているが、私たちは期限をいつにするという考え方には立ってこなかった。それは、国際交渉の開始の合意をつくることが何よりも大事であって、期限についてはそのプロセスの中で決まってくるものであると考えているからだ。

 川田 そのエジプトの国連大使は、「市民社会から核兵器の完全廃絶と核兵器のない世界の実現への希望が示され、それが総会の決意と政治的な意思にもつながった」と、あらためて今回の成果に市民社会の役割が不可欠であったことを指摘したのも印象深かった。

 私は、「市民社会」の役割が不可欠だったという言葉に、キューバ国連次席大使が志位委員長との会談で、わが党の提案に深く共感し、わが党の要請文を非同盟諸国に配布したいと表明したことを思い出した。

原水爆禁止運動の役割 重要な今年の世界大会

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(写真)NPT再検討会議のカバクチュラン議長(左)と会談し握手を交わす志位委員長=5月2日、ニューヨーク(林行博撮影)

 川田 こうした重要な成果を出すうえで、わが党の活動や日本原水協をはじめとする日本の運動、世界の世論がとても大きな役割を果たしたと思う。先に森原さんも指摘されたように、「市民社会からの新しい提案およびイニシアチブに注目する」と最終文書は、反核平和運動などの市民社会の役割を評価した。これはNPT再検討会議の最終文書としては、はじめてのことではないか。

 日本原水協代表団が集めた690万人分の署名をうけとったカバクチュラン再検討会議議長が、会議の冒頭で、このことに触れて「市民社会の熱意に応えなければならない」と演説したが、諸国政府と運動との共同が新しい段階に入ったと実感した。

被爆国の党として

 森原 志位委員長と代表団は、再検討会議の主催者、国連関係者、各国政府代表団に、会議成功のための要請活動を続けた。会談した各国代表団の中には、核保有国、非同盟諸国、「新アジェンダ連合」国、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が含まれている。これらの会談を準備する中で強く感じたのは、極めて厳しいスケジュールの中でも、会議の構成員ではない政党の会談要請が積極的に受け入れてもらえたことだった。

 その背景には、唯一の被爆国日本の政党であるという事実と同時に、その日本の原水爆禁止運動が世界で高い信頼を得ていること、さらに、先に緒方さんが紹介した2点の要請が核兵器廃絶の方向の核心をつくものだったということがある。

 志位委員長は帰国後も会議成功のための要請を続けた。5月14日に、「核保有国は、核軍備削減・廃絶における具体的な進展を促進するために、2011年までに協議を開始するものとする」「具体的な時間枠内での核兵器の完全廃絶のためのロードマップについて合意する方法と手段を検討するため、2014年に国際会議を招集する」との行動提起を含んだ再検討会議第1委員会の報告草案が公表されると、これを高く評価し、カバクチュラン再検討会議議長の努力をたたえ、この方向が実を結ぶように努力を要請する書簡を送った。

政府とNGO共同

 緒方 ニューヨークで、東京で、会議に働きかけ続けた。つくづく思うことは、日本の原水爆禁止世界大会が果たしてきた大きな役割だ。10年前からは政府代表を招待し、エジプト、マレーシア、メキシコ、南アフリカなどの政府代表が大会に参加し、この2年間は国連代表も加わり、国際政治への問題提起の方針を議論してきたことが今回の会議で生きていることを痛感した。

 実際、今回の会議で焦眉(しょうび)の課題として浮かび上がったのは、大会が国際社会に求め続けてきた核兵器廃絶のための国際交渉の開始であり、その展望として核兵器禁止・廃絶条約の課題が強く押し出された。この夏の原水爆禁止世界大会は国際政治が到達した新しい高みに立って、大きな任務を持っておこなわれることになる。

 川田 原水爆禁止日本協議会はNPT再検討会議参加報告会を各地で開催し、この確信を全国に広げ、それを今年の原水爆禁止世界大会の成功に結びつけていくという方向を提起している。会議の成果は、それをいっそう励ますものとなるだけに、「『核兵器のない世界』に向けて、重要な一歩前進」という点を、大いに確信にし、広げていくことが大事だ。

 NPT再検討会議の最終盤では、一部の核保有国が、期限をもうけて国際交渉をおこなうことなどに強く反対し、いま一歩の前進がかちとれなかったことに、NGOなどの中には強い不満もあった。それだけに、核保有国に決断と行動を促す国際世論を広げようという新しい決意がみなぎっており、今年の世界大会は、NPT再検討会議確認の具体化・実行を諸国政府とともに迫る、国際的にも重要な共同の場となるだろう。その成功のために先頭にたって奮闘することが求められていると思う。





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