2010年5月1日(土)「しんぶん赤旗」

緊急提言

待機児童問題を解決し、 安心して預けられる保育を実現するために

2010年4月30日 日本共産党


 日本共産党の広井暢子副委員長・女性委員会責任者と小池晃政策委員長が30日に発表した緊急提言「待機児童問題を解決し、安心して預けられる保育を実現するために」は次の通りです。


 「夫はリストラで失業、働きたいのに入れない」「育休あけまでに保育所がみつからないと仕事を失う」。保育団体の電話相談「保育所ホットライン」には深刻な訴えが全国から寄せられました。やむなく幼い子どもに乳児をゆだね、不安のなかで働く父母もいます。いま全国で認可保育所に入所を希望し、実際に入所の手続きをしながら待機している子どもだけでも5万人近くおり、潜在的には100万人ともいわれています。

 また、やっとの思いで入った保育所でも、定員を超えた詰め込みで保育のゆとりと安全が脅かされています。「廊下でお昼寝」「全員で食事を取るスペースもない」という環境で、子どもがストレスをためているようなところもあります。

 保育士の過重負担も深刻で、5人に1人は身体の不調を訴えています。「1人でも多くの子どもに保育を保障したい」「子育てに悩む若い父母の力になりたい」という保育関係者の努力はもう限界です。

 こうした深刻な事態は、自公政権が「規制緩和」「民間委託」「民営化」をかかげ、必要な保育所をつくらず、定員をこえた詰め込みや認可外の保育施設を待機児童の受け皿にした安上がりの「待機児童対策」の破たんを示すものです。民主党政権は、この路線の転換をはかるのではなく、すでに自公政権で破たんした保育分野の「規制緩和」の流れをいっそうすすめようとしています。これでは国民の願いにこたえることはできません。いま必要なのは、「規制緩和」路線を根本的に転換し、国と自治体の責任で認可保育所の本格的な増設をすすめることです。

 保育所がないために、子育て中の若い世代が就職できない、仕事を失い生活苦におちいるなどという事態は、政治の責任で一刻も早く解決しなければなりません。日本共産党は、2001年7月「保育所の待機児童問題を緊急に解決するために」を発表し、国の責任を明確にした待機児童問題解決の提案をおこない、国会でくり返し政府に解決を求めてきました。このたび、いつでもどこでも、安心して預けられる保育をという国民、父母、保育関係者の願いにたって、「緊急提言」を発表し、国と地方でその実現のために全力をあげます。

1、保育が必要なときにいつでも預けられるように、国の責任で当面1年間で10万人分の認可保育所をつくります

 待機児童問題が深刻となったこの10年間(1998〜2008年)で、認可保育所はわずか571カ所しか増えていません。同じ10年間で1970年代には約8000カ所増やしており、必要な認可保育所を建設してこなかったことが、現在の待機児童急増の原因であることはあきらかです。

 旧自公政権が2004年に、地方交付税の大幅削減と同時に公立保育所の国庫負担金を廃止・一般財源化したことによって、6割をこす市区が保育予算を減らし、保育所の廃止、民営化、建設の抑制をすすめてきました。10年間で公立保育所が2011カ所も減らされ、全国どこに住んでいても等しく保育を受ける権利が奪われています。

 こうした事態を打開し、国民の願いにこたえるために、日本共産党は国の責任を明確にした「保育所整備計画」をつくり、当面1年間で10万人、3年間で30万人の保育所を新・増設し、待機児童の解決、産休あけや育休あけ、求職中などをはじめ、保育を必要とするときに預けられる体制をつくることを提案するものです。

 また、保育所入所の希望の増加は一時的なものではありません。無認可保育施設に入所している子ども約23万人をはじめ、100万人ともみられる潜在的な待機児童の問題に対応するために、保育要求の実態調査をおこない、中期的視野で「整備計画」を拡充、発展させます。

 自治体が保育所建設にふみだしやすいようにするため、以下のような支援をつよめます。

保育所の新・増設のための国庫補助の復活、引き上げをはかる

 公立保育所に対する国庫補助が一般財源化されたために、保育所整備予算が確保できないという悲鳴が各地であがっています。運営費の一般財源化や公務員定数削減などの公立保育所つぶしの政策を転換するとともに、公立保育所の建設費、改築費への国庫補助を復活させ、自治体の公立保育所新設、建て替え・改築による定員増、耐震化を支援します。

 公立も民間も、保育所の建設費、改修費に対しての国の補助率を3分の2に引き上げる緊急措置をとります。

国有地の優先利用など用地取得への援助をつよめる

 待機児童の多くは首都圏をはじめ大都市部に集中していますが、都市部で保育所建設がすすまない要因のひとつは用地確保の問題です。しかし東京23区内だけでも東京ドーム約130個分の利用可能な国有地があります。日本共産党の国会質問にたいし、政府も国有地の活用を「前向きに検討する」と答弁しました。国有地、公有地の優先利用、無償貸与や低価格での売却をすすめる仕組みをつくるとともに、土地取得に対する国の助成制度をつくります。

実情に合わせた小規模保育所の設置、運営の充実をはかる

 都市の人口密集地では大型の保育所建設が困難です。一方、人口減少地域などでは統廃合によって保育所が遠く、送り迎えが大変という声も切実です。保育要求や地域の実情をふまえて、20人未満などの小規模保育所が設置できるようにします。統廃合せずに必要な保育所機能が維持できるように、財政的支援を充実します。

3歳未満児保育への補助を手厚くし受け入れを増やす

 待機児童の85%は3歳未満の乳幼児です。とりわけ産休あけ、育児休業あけのゼロ歳児、1歳児の入所希望が切実です。そもそも、保育所運営費の基準が低いうえに、自公政権がゼロ歳児保育のための補助金の減額・廃止をしたことは、低年齢児の受け入れ枠の拡大や、年度途中からの受け入れのために保育士を確保しておくことを困難にしてきました。運営費の増額と補助金の復活・拡充などをはかり、保育士の配置などを手厚くし、産休あけ、育休あけから安心して預けられるようにします。

無認可保育所への支援制度をつくり、認可化をすすめる

 無認可保育所は、低年齢児を中心に23万人もの子どもを受け入れています。しかし国の支援がいっさいないため、保育料の父母負担が重く、財政的にも困難ななかで保育士らの献身的努力で保育を支えているのが実態です。一定の基準を満たした無認可保育所への国の助成制度をつくり保育条件の向上をはかるとともに、認可保育所への移行をすすめます。一部の営利業者によって引き起こされた補助金不正受給や、突然の廃園などの事態をくり返さないために、行政による実態の掌握と指導をつよめます。

2、安心して預けられる保育所へ、保育環境の向上、保育士の労働条件改善をすすめます

 保育所への子どもの詰め込みはもはや限界です。定員をこえて子どもを受け入れている保育所は公立で約3割、私立で6割をこえています。

 ところが民主党政権はこの4月、自公政権がすすめてきた保育所定員の「規制緩和」をさらにすすめ、年度当初は定員の115%、年度途中は125%などと、これまで受け入れの上限として残されていた基準さえすべて取り払ってしまいました。また、今年から給食を外部施設から搬入できるようにすることも決めました。そのうえ民主党政権が今国会に提出した「地域主権改革」一括法案では、国の保育所最低基準そのものをなくし、都道府県の条例に委任するとしています。避難用すべり台の設置義務がなくなるなど、子どもの命にかかわる規制まで緩和され、東京や待機児童を抱える自治体では、子ども1人あたりの面積の基準を引き下げられるようにしています。

 こうした「規制緩和」による待機児童対策では、待機児童解消ができないばかりか、子どもたちの健康と安全をおびやかし、保育所の保育環境と保育士の労働条件を大きく悪化させ、安心して預けられる保育への父母の信頼を失わせてしまうものです。

 「規制緩和」の流れをストップさせ、定員超過の解消にただちにとりくむとともに、子どものゆたかな発達を保障する保育条件や保育士の労働条件の改善をすすめます。

定員超過の詰め込みを解決し、子どもの安全を保障する

 認可保育所での乳幼児の死亡事故が、2000年までの40年間に15件であったものが、2001年以降の8年間で22件に大幅に増え、「規制緩和」による詰め込みが死亡事故を生み出している危険性も指摘されています。認可保育所の建設をすすめ、定員超過を計画的に解消し、定員を超えた受け入れは、年度途中の入所など臨時的緊急的な場合に限定します。

 国の最低基準をなくすのではなく、改善・向上をはかります。欧米の保育所では、子どもの1日の生活リズムにあったスペースを保障するのが当たり前です。厚生労働省の委託研究でも、現在の最低基準以上の空間が必要と指摘しています。自治体は独自に最低基準を上回る環境整備をすすめており、国の補助を実態にみあったものに改めます。

保育士の正規化、増員、配置基準の改善をすすめる

 短時間、派遣、臨時などの非正規雇用が大幅に増加し、公立保育所では保育士の約半数が非正規です。クラス担任をもつなど正規職員と同じ責任ある仕事をし、意欲を持ち、働きがいを感じながら、低賃金で不安定雇用のため、悩みながら仕事をやめる保育士が相次いでいます。

 保育士は、乳幼児の日々の発達にかかわる専門職であり、ゼロ歳児から5歳児の保育経験、父母との信頼関係、集団としての力量が求められており、安定した雇用なくして本来の役割は果たせません。非正規保育士の正規化をすすめるとともに、時給の引き上げ、均等待遇など非正規保育士の労働条件を改善します。

 現在の保育士配置基準(保育士1人あたり担当児童数はゼロ歳児3人、1・2歳児6人、3歳以上20人、4歳以上30人)は諸外国と比べてもきわだって遅れています。子どもの健全な発達、よい保育を保障するためにも、職員の過重負担、長時間労働の軽減のためにも、保育士の加配、配置基準の改善をすすめます。障害児、発達障害、虐待や子どもの貧困への対応など、専門職員の配置をすすめます。

高すぎる保育料の父母負担を軽減する

 「夫が失業したけれど保育料は去年の収入が基準、高くて払えない」「収入が減ったので保育料負担がとてもたいへん」。派遣など不安定雇用、失業、減収や、ひとり親家庭がふえるなかで、保育料の負担が重くのしかかっています。保育所をやめざるをえない子どもが各地でうまれています。保育料滞納者も8万5000人にのぼっています(2007年)。

 高すぎる保育料の原因は、保育にかかる費用負担を保護者におしつけてきたからです。保育所運営費にしめる保護者負担は70年代の35%から、現在は45%になっています。自治体が独自に保育料の軽減をおこなっていますが、その財政的な負担も自治体の大きな重荷になっています。当面、国の財政的負担で、低中所得世帯の保育料を平均で3割程度引き下げ、失業や減収の場合の緊急の保育料減免制度をつくります。

地域の多様な子育て要求にこたえる

 子育てや子どもの発達に関する不安や悩みを抱えている若い父母は少なくありません。児童虐待や育児放棄が深刻な社会問題となっています。気軽に相談できるところや子育ての仲間、地域のネットワークが必要であり、保育所が培ってきた子育ての知恵と専門性と経験が求められています。地域の子育て支援センターとしての保育所の機能を強化します。子育て支援、相談活動、一時保育などを充実させ、そのために必要な経費、人員配置をきちんと確保できるようにします。

3、国や自治体の責任を後退させる保育制度の改悪は、日本の将来に禍根を残すものであり、絶対に反対です

 民主党政権が、自公政権からひきついですすめようとしている保育制度の改悪は、保育にたいする国や自治体の責任を大きく後退させ、すでに破たんが明瞭(めいりょう)になっている介護保険や障害者自立支援法のような受益者負担・応益負担を持ち込もうとするものです。さらに私立保育所の国庫負担金まで一般財源化しようとしています。こうした保育制度の改悪では、今日の国民の切実な保育要求にこたえることも、待機児童の解決もできません。

 また、待機児童解消を口実にした「幼保一体化」も出されています。いま検討されているものは、「規制緩和」をさらにすすめ、財政的な保障をしないままに、仕組みをかえるものであり、待機児童解決につながらないばかりか、あらたな保育条件の後退をつくりだすものです。

 国民生活に多くの苦難をもたらした「構造改革」路線そのままの保育制度改悪をただちにストップさせ、公的責任の明確な現行制度を拡充し、国と自治体の責任で、希望するすべての子どもに保育を保障します。

保育所建設・充実のための財源は十分あります

 年間10万人分の保育所建設に必要な予算は、国の補助率をあげても1400億円です。さらに保育士の正規化、待遇改善など保育条件の向上、保育料の保護者負担軽減のための運営費増額分をあわせて総額で4000億円程度の国の予算を増やします。財源は、自公政権が「聖域」としてきた二つの分野――軍事費と大企業・大資産家優遇税制にメスを入れれば確保できます。とりわけ、米軍への「思いやり予算」をふくむ米軍経費3369億円など、年間5兆円近い軍事費のごく一部をあてるだけで可能です。

 しかも民主党政権は来年度、子ども手当に総額5兆円をこえる予算をつぎこむ方針です。これをやめて、その1割以下の財源をまわせば、待機児童を解消し、安心して預けられる保育の充実ができます。切実な保育要求の実現をはじめ、総合的な子育て支援こそ必要です。

 日本共産党は、当面、緊急に求められている待機児童問題の解決と安心して預けられる保育の実現のために、父母、保護者、保育関係者のみなさんと協力し全力をあげるものです。

 今日、世界では、待機児童をほぼ解消したスウェーデンをはじめ、国連の「女性差別撤廃条約」や「子どもの権利条約」にもとづいて、子育てを社会全体で支え、男女がともに子育ても仕事もできる社会にむけて、乳幼児期の子どもの豊かな発達を保障する保育・就学前教育の充実をすすめています。ところが日本は、世界でも異常な大企業優先の政治のもとで、子どものための福祉や教育などの施策が大きく遅れています。OECD(経済協力開発機構)のなかでも、日本は乳幼児期の保育・幼児教育への公費支出が極めて少なく、OECD平均の半分、25カ国中22位です。こうした日本のあり方を変えていくことがどうしても必要です。

 1960〜70年代「ポストの数ほど保育所を」という運動を住民、父母が草の根からとりくみ、今日の保育の基礎を築いてきました。いまこそ、保育にかかわるすべての人が一つに手をつなぎあい、どこでも、いつでも、安心して子育てできる保育保障を求めて、国民的なたたかいをすすめることをよびかけます。





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