2010年5月1日(土)「しんぶん赤旗」

事業仕分け第2弾を検証

ムダ残し暮らし削る


 公共サービスを担う独立行政法人に実施された政府の「事業仕分け第2弾」。ムダ遣いをなくすと称して、47法人の148事業を対象に、28日に終わった仕分けを検証すると―。(深山直人)


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(写真)独立行政法人の経費について話し合う、説明者と「仕分け人」たち=23日、東京都中央区

住宅・医療 拡充必要なのに

 昨年の「仕分け」では、民間企業並みの「採算性」だけで決めるやり方が批判されましたが、今回もそれが繰り返されました。

 都市再生機構の賃貸住宅(76万戸)もその一つ。国土交通省は、10年間で5万戸削減を表明する一方で高齢者対策や建て替え対策は民間にできないと説明しました。しかし、仕分け人は「住宅供給の役割は終わった」「建て直すと、住んでいる人と住んでいない人で不公平感がある」などと主張。「高齢者・低所得者向け住宅は自治体または国へ、市場家賃部分は民間に移行」と分割・民営化を打ち出しました。住宅困窮者が広がるなかで家賃値上げや管理、建て替えが影響を受けます。

 民間ではできない不採算医療を担っている国立病院、労災病院に対しても「交付金なし・自己完結で」(枝野幸男行政刷新相)と要求。「利用率が低い病床は削減を」「公的病院と統廃合を」など事業縮減や統廃合を求めました。国立病院機構は職員の非公務員化を表明。病院の統廃合とともに、チーム医療を壊す人件費削減や労働強化が危ぐされます。

 町工場の集合化や共同店舗化などに低利融資を行う中小企業の高度化事業や、価格下落を補てんする野菜価格安定対策事業も、「実績が少ない」「民業を圧迫」として廃止や縮減を打ち出しました。

 実績が少ないのは対象者が狭いなど制度に問題があり、廃止ではなく改善が必要なのに結局、“廃止先にありき”の姿勢で切り捨てました。

研究・文化 切り捨てに矛盾

 理化学研究所など研究開発系法人が多数、対象になりました。前回は研究内容に介入して予算削減を迫り、世論の批判をあびました。仕分け人は「われわれも研究を重視している」と釈明から開始。研究内容には踏み込まず、昨年、「1番じゃないとだめなんですか」と理化学研究所を批判した蓮舫参院議員は同研究所の仕分けには加わりませんでした。

 しかし、「研究テーマが重複している」「ほかの法人と一緒になれば支障が出るのか」など統廃合を前提とした質問を集中。人員体制や設備などの縮減などを求めました。

 国立科学博物館、国立美術館などは初めて対象になりました。

 「自己収入を拡大せよ」と迫る仕分け人に対し、法人から「運営費交付金が削減され、購入したい美術品が買えない」「日本人の作品が海外に流出する」など厳しい声が噴出。欧米と比べてもお粗末な実態が浮き彫りになりました。それでも仕分け人は「ブライダル(結婚式)とレストランで収益増を」などと求め、「運営費交付金は増やさず、自己収入の拡大で事業拡充を」とする無責任な結論を押し付けました。

高速道… 巨額のムダ放置

 一方で大きなムダ遣いは放置されたままです。無駄な高速道路の債務保証などを行う高速道路保有・債務返済機構には、2010年度予算で4006億円と独法で最大の国費が投入されていますが、最初から対象外。1809億円もの国費が投入されている日本原子力研究開発機構では、破たんが明白な高速増殖炉「もんじゅ」も対象外とされました。

 理工学や化学など自然科学系の26学会は28日、事業仕分けに異議を唱える共同声明を発表しました。「中・長期的展望を論ずることなく、財政運営の一側面からの効率性、短期的収益・成果のみで研究機関の予算、事業の仕分けを行うべきでない」と指摘。GDP(国内総生産)比1%以上の研究費確保や女性・若手研究者支援の拡充などを求めています。

国費削減わずか0.5%

 公開の場で事業の是非を決める政府の「事業仕分け」第2弾でどれだけ財源をつくりだせたのか―。

 対象とされた148事業には、国費約1・1兆円(2009年度当初予算ベース)が投入されています。このうち「事業廃止」とされた36事業に投入されている国費は約52億円。国費全体のわずか0・5%程度です。

 このほかに、旧国鉄職員の年金関係で1・3兆円程度の「埋蔵金」の国庫返納の可能性が浮上しました。これは1回限りで恒常的な財源にはなりません。剰余金があれば20兆円の旧国鉄債務の返済に回すべきです。民主党がマニフェストで掲げた事業仕分けなどで「年間9兆円」の財源を生み出すという目標に遠く及ばないことに変わりはありません。

 枝野幸男担当相は「金額が問題ではない。組織改革だ」と仕分け前から予防線を張っていましたが、凍結を含めて4200億円余にのぼった前回以上に「看板倒れ」となりました。

 独立行政法人はもともと国の機関だったのが「行革」で切り離されたり、事業実施機関だった特殊法人が再編されたものです。民主党は一部法人のムダ遣いなどを理由に「全廃を含めて見直す」と主張してきました。

 仕分けのなかで、都市再生機構(UR)から関連会社役員に121人が再就職し、随意契約が5割にのぼるなど不透明な実態が明らかになり、入札制度の見直しなどが行われることになりました。

 独立行政法人のなかには、自民党政治のもとで政官業癒着がつくられ、ムダ遣いや天下りが横行している法人があり、ここにメスを入れるのは当然です。

 しかし、国会で審議されている公務員制度改定法案で鳩山内閣は、省庁による天下りの「組織的あっせん」を禁止するだけ。天下りそのものを規制することには背をむけています。しかも防衛省についてはその緩い規制からも除外しています。


事業仕分けの結果(抜すい)

◇都市再生機構 賃貸住宅=高齢・低所得者向け以外は民間移行

◇国立病院機構 診療事業=縮減

◇労働者健康福祉機構 労災病院の設置・運営=縮減

◇福祉医療機構 年金担保貸付=廃止

◇労働政策研究・研修機構 職業情報の研究開発など=廃止

◇住宅金融支援機構 住宅資金貸付=廃止

◇理化学研究所 先端的融合研究=研究実施体制の抜本見直し

◇国立大学財務・経営センター 国立大学病院などの施設費貸付事業など=廃止

◇国立美術館、国立博物館 収集・保管など=自己収入拡大

◇大学入試センター センター試験=コスト縮減

◇国民生活センター 相談、商品テストなど=消費者庁との役割分担のあり方など整理

◇農畜産業振興機構 野菜関係業務=縮減

◇中小企業基盤整備機構 高度化事業など=縮減

◇水資源機構 ダムなどの管理=機構の業務としない





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