2010年4月8日(木)「しんぶん赤旗」

オバマ米政権の「核態勢見直し」

核兵器の役割小さくするが

「先制不使用」言わず


 【ワシントン=小林俊哉】オバマ米政権は6日、今後5〜10年の米国の核政策の基本指針となる「核態勢見直し(NPR)」報告を同政権として初めて発表しました。非核保有国に対して核兵器を使用しない「消極的安全保障」を強化することや「非核攻撃への抑止力としての核兵器の役割を引き続き小さくする」ことを表明。核兵器を通常兵器と同様に使うとしたブッシュ前政権の方針からの転換をはかりました。


 公表された報告は核戦略の「五つの重要な目標」として、(1)核拡散と核テロを防止する(2)国防戦略における核兵器の役割を縮小する(3)縮小した核戦力レベルで戦略的な抑止と安定を維持する(4)地域における抑止力を強化し、同盟諸国を安心させる(5)安全で確実、有効な核兵器備蓄を維持する―ことを提示しました。

 核攻撃の抑止について「通常兵器の能力を強化し、核兵器の役割を縮小する」方針を明記。核兵器の「先制不使用」は宣言しませんでした。一方で、核兵器の使用を「米国ないしは同盟国の死活的利益を守るという極端な状況」にのみ検討するとしました。

 あわせて「消極的安全保障」の強化を明記しましたが、その対象を核不拡散条約(NPT)に加盟し、核不拡散義務を順守する国に限定。イラン、北朝鮮、シリアなどを除外しています。

 「核の傘」をめぐって、欧州や太平洋で前進配備の核兵器の数を削減していると強調。通常戦力の前進配備やミサイル防衛システムへの依存を強めていくと指摘しました。


廃絶の方向性なし 世界の運動がカギ

 オバマ政権の「核態勢見直し」(NPR)報告は、核不拡散条約(NPT)に従う非核保有国に核兵器を使わないことを明示するなど、ブッシュ政権時の2002年報告とは転換を示しました。一方で核兵器依存体質は根強く残っています。

 オバマ政権のNPRをめぐっては、「核兵器のない世界」という構想をどう具体化するかもかかわり、政権内部で「綱引き」がありました。そのためNPRの公表が当初予定より1カ月以上遅れた経緯もあります。

 核兵器の使用目的をめぐって、NPRは「核兵器の役割を縮小する」として、核兵器に依存しない国防戦略を構想。生物・化学兵器による攻撃にも通常兵器で反撃する方針を打ち出しました。

 また新しい核兵器の開発に着手しないことを表明。「核実験を行わない」とし、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期批准を目指す方針を盛り込みました。

 しかしゲーツ国防長官は6日の記者会見で「生物兵器による破局的被害の可能性があるなら、米国は(通常兵器で反撃するという)政策を修正する権利を留保する」と言明。核兵器の使用を排除しているわけではありません。

 今月14日に米の核兵器政策についての公聴会を開く下院軍事委員会のスケルトン委員長は6日、「NPRは今日の米国の安全を保障し、将来の脅威を抑止する枠組みを示している」と声明で指摘。NPRが大陸間弾道ミサイル、(原子力)潜水艦搭載の弾道ミサイル、重爆撃機という攻撃能力の「3本柱」を保持していることに満足の意を表明しました。

 オバマ政権の核政策について、アメリカン大学核問題研究所のピーター・カズニック教授は「核兵器廃絶という最優先事項を、自分の生きているうちは無理として、次世代へと先送りする限り、戦略核の削減に取り組んでも正しい方向への小さな一歩にとどまる」と指摘します。

 NPRには核兵器を廃絶するという方向性は盛り込まれていません。核政策でのオバマ政権の「変化」を現実のものとしていくには、廃絶を求める世論と運動が不可欠になっています。(ワシントン=西村央)





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