2010年3月23日(火)「しんぶん赤旗」

タイ 政治混乱いつまで

根本に民主主義めぐる対立

政府とタクシン派 交渉は開始


 タイの首都バンコクでタクシン元首相派が14日から大規模な反政府集会・デモを続けています。同派の運動団体「反独裁民主同盟」(UDD)と政府は政治混乱の落としどころを探り始めました。しかしタイの政治対立の根は深く、政情が安定するには長い時間がかかりそうです。(バンコク=井上歩 写真も)


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(写真)バンコク市内を車両で行進するタクシン派=20日

 同盟は当初、支持者「100万人」を動員し、その圧力でアピシット政権を解散・総選挙に追い込むとしていました。支持基盤である東北部、北部など全土から支持者をバンコクに集結させ、14日には10万人以上が政権打倒の気勢を上げました。

 アピシット首相は解散の要求を拒否。治安維持法を発令し、約5万人の治安部隊で厳戒態勢をとりました。同盟は参加者の血をまくなどの過激な抗議をしたもののデモ自体は平和的に行い、懸念された衝突や騒乱は22日現在、回避されています。

 デモは、連日の酷暑の下で参加人数が減少。週末の20日には約5万〜6万人が再び集まって圧力を強めましたが、運動には手詰まり感が出ていました。

■対話が最良の道

 同盟が「総選挙実現まで運動を続ける」との姿勢をとり、長期化の可能性が指摘され始めるなか、交渉が模索されはじめました。

 英字紙バンコク・ポストは19日付社説で国民の約6割は中立だとして、「対話が最良の道」だと主張。世論調査でも75%が交渉を支持しています。

 ただ、対立の根深さから悲観的な見方も少なくありません。政治学者チャロムチャイ氏は「即時の解散・総選挙の要求は実行不能で交渉成立は難しいだろう。同盟は支持を広げる時間稼ぎ、政府は交渉不成立後なら強硬手段に出られるとの考えがあるのでは」と話しました。

 過去4度の総選挙で勝利したタクシン派は、軍部による2006年のクーデターや政党解党などの司法判断で政権から追い落とされました。

 タクシン派は、これは平民層と立憲君主制であるタイの「貴族・特権階級」や「絶対王制型官僚主義」政治とのたたかいだと主張。「正義と民主主義を取り戻す」「次は総選挙でだれが勝っても認めるべきだ」と訴えています。アピシット首相も解散の条件がないと拒否しながら「要求は理解している」と述べています。

■国民的合意は…

 一方で国内にはタクシン政権が首相や政党への権力集中を図ったことへの反発も根強く残ります。反タクシン派や政府が主張する、政治家だけでなく王室や司法、独立機関に権力を分散する「タイ独自のバランス民主主義」の支持者です。

 国民の投票が勝敗を決めるのか、それとも軍や官僚なども含めた「バランス」のとれた政治をしていくのか。民主主義のあり方にまでかかわる対立は、容易に解消できそうにありません。この先、国民的合意がどう形成されるかが注目されます。


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