2010年3月21日(日)「しんぶん赤旗」

鳩山内閣の高齢者医療「新制度」案

「うばすて山」対象拡大

大本に医療費削減路線


 75歳以上の人が加入する後期高齢者医療制度の廃止を先送りしている鳩山内閣が、それに代わる「新制度」として検討している内容が明らかになってきました。後期高齢者医療制度の「利点は残す」などとして差別と負担増の仕組みを温存し、拡大しようとするものです。 (杉本恒如、西沢亨子)

高齢者狙った改悪次々

 後期高齢者医療制度は、小泉・自公政権が強行した医療費削減の大改悪の一環でした。

「難民」が続出

 後期高齢者医療制度は2006年の医療制度改悪で創設されました。法律の目的に「高齢期における…医療費の適正化」を掲げているように、高齢者の医療費抑制そのものを狙ったものです。

 この大改悪では、高齢者の窓口負担増、長期入院の高齢者から食費・居住費をとる―などが行われたうえに、「老人医療費の伸び率を…下げていく」ことを明記した「医療費適正化計画」が導入されました。医療費削減のために、数値目標までつけて入院日数の短縮、療養病床の削減がすすめられたのです。目標を達成できない都道府県には独自の診療報酬(医療の公定価格)を適用して、強制的に医療費を下げる仕組みまでつくりました。

 高齢者の入院が90日を超えると、医療機関に支払われる診療報酬が下がる仕組みも強化されました。

 高齢者が病院から追い出しを迫られ、「医療難民」「介護難民」が生み出されました。

 さらに、地方自治体の責任で行われてきた「基本健診」を廃止し、「特定健診・特定保健指導」にした結果、健診の受診率は大幅に低下しています。特定健診は“病気になるのは悪い生活習慣を続けた自己責任”という考え方で、健診の受診率やメタボリックの人の減少率が悪い保険者に罰則を科す仕組みを導入。その一方で、75歳以上を健診の実施義務から外しました。

「効率」の名で

写真

(写真)長妻昭厚労相(右端)に質問する小池晃議員=16日、参院厚生労働委員会

 後期高齢者医療制度をきっぱり廃止し、この制度に象徴される強引な医療費削減路線を転換するのか、それともこのまま突き進むのか―。

 日本共産党の小池晃参院議員の追及に対し、長妻昭厚労相は、「医療の効率化ができる部分は効率化する」「特定健診の枠組みを見直すことは考えていない」とのべ、医療費削減の基本的な枠組みを変える姿勢がないことが明らかになりました。(16日の参院厚生労働委員会)

 民主党政権が、後期高齢者医療制度を見直すといいながら、差別医療を拡大する「新制度」案しか出せないのは、医療費抑制路線を抜本的に転換し、国庫負担を増やすという立場がないからです。

65歳以上囲い込み 重い負担

国保で別勘定

 鳩山内閣は2013年4月に後期高齢者医療制度を廃止して「新制度」に移行する方針で、厚生労働省の高齢者医療制度改革会議で検討を重ねています。同会議には四つの「新制度」案が提出されていますが、その中で、65歳以上の高齢者全員を国民健康保険(国保)に加入させる案が有力案として浮上しています。

 厚労省はこの案についてだけ財政試算を出しました(図)。その試算は、65歳以上の高齢者全員を国保に加入させた上で、65歳未満の現役世代と別勘定にする前提で行われています。このことは、16日の参院厚生労働委員会で日本共産党の小池晃議員の質問に対し、長妻昭厚労相も認めました。

 しかも、いまの案では「現役で働く被用者保険の本人も、子どもと一緒の世帯で扶養家族の人も、65歳になれば強制的に脱退させて別勘定の国保に移すことになる」(小池氏)というのです。

 後期高齢者医療制度で国民の怒りが集中したのは、年齢で差別して別枠に囲い込んだことです。医療費がかかる高齢者だけ別勘定にすれば保険として成り立たず、負担が際限なく増え続けます。国保に加入しても別勘定であれば、高齢者差別を広げるだけです。いわば「うばすて山」の「入山年齢」を65歳に引き下げるものです。

上がる保険料

 長妻厚労相は新制度案が固まったわけではないと説明しています。しかし、「新制度」づくりの方針そのものが根本的な問題点をはらんでいます。後期高齢者医療制度の「利点は残す方向で、新たな制度を検討する」とされていることです。

 「利点」の一つに挙げられているのは、「高齢者の医療給付費について、公費(5割)・若人(4割)・高齢者(1割)の負担割合を明確化」したことです。後期高齢者医療制度では高齢者医療を別勘定にした上で、公費負担を5割に固定して1割を高齢者の負担と決めたため、高齢者の医療費が増えれば高齢者自身の保険料が上がるようになりました。「医療費が際限なく上がり続ける痛みを後期高齢者が自分の感覚で感じとっていただく」(厚生労働省課長補佐)として、高齢者の医療費を抑制する狙いで導入された「受益者負担」の仕組みです。

 この仕組みを「残す」という限り、高齢者を差別して負担増を押し付ける制度にならざるをえません。

値上げに直結

 厚労省は後期高齢者医療制度のもう一つの「利点」として、「保険料を納める所とそれを使う所」(負担と給付の関係)を都道府県ごとに「一元化」し、「明確化」したことを挙げています。

 かつての老人保健制度では、高齢者が国保や健康保険など別々の医療保険に加入して医療の給付は市町村から受けていました。これは、公費と各医療保険の拠出金で基金をつくってすべての高齢者に医療を保障するための制度で、ある地域の給付が増えてもその地域の高齢者の負担増に直結しませんでした。

 ところが自公政権は、これでは「負担と給付の関係」がバラバラだとして、後期高齢者医療制度では公費を一定割合に抑制した上で75歳以上の高齢者を都道府県ごとにまとめました。地域で使う医療費はその地域で負担せよという、地域ごとの「受益者負担」の仕組みです。その結果、ある県の高齢者の医療費の増加がその県の高齢者の保険料値上げに直結することになりました。

 都道府県や市町村のような一般財源を持たない広域連合が運営主体となったため、市町村が運営する国保なら可能な独自の負担軽減策も困難になり、医療を受ければ保険料が上がる「保険原理」が徹底されました。

 「新制度」では、国保を都道府県単位に広域化した上で、以上の仕組みを「残す」とされています。

自公政治残す

 もともと「受益者負担」の立場から「負担と給付の明確化」「保険原理の徹底」を掲げ、新しい高齢者医療制度の創設や国保の広域化を打ち出したのは小泉・自公政権でした。

 公的医療制度は本来、国と事業主の責任ですべての国民・労働者に必要な医療を保障するものです。自公政治の「受益者負担」主義を「残す」方針で制度をつくれば、保険料は際限なく上昇し、お金のない人は医療を受けられなくなります。

共産党の主張

すぐに廃止し元に戻せ

 日本共産党は、後期高齢者医療制度を即時撤廃して老人保健制度に戻すよう主張しています。民主党も野党時代には老人保健制度に戻す廃止法案を共同提出しており、戻せない道理はありません。

 老人保健制度は、高齢者が現役世代と同じ医療保険に加入したまま、高齢者の窓口負担を軽減する財政調整の仕組みです。これに戻せば、年齢による保険加入・保険料・診療報酬・健診などの差別はすぐに解消します。

 日本共産党はその上で、(1)先進国では当たり前の医療費ゼロをめざし、まず高齢者と子どもの医療費を無料化する(2)減らされた国保の国庫負担を復元して国保料(税)を引き下げる―ことを提案しています。

「病院をかわるたび、体調崩す」

3カ月追い出しに怒り

 「病院を追い出される悲しさ、悔しさ…。父の入院を通じて、高齢者に冷たい政治を思いしらされました」。和歌山県田辺市の女性(61)はいいます。

 大阪市に住む父親(89)は昨年、脳梗塞(こうそく)で倒れました。後遺症でまったく動けませんが、意識はしっかりしていて会話もできます。最初の病院ではスタッフと仲良くなり、「おはよう」と声をかけあっていました。しかし、3カ月で出されました。次の病院では、食べ物をのみ込めるかというところまで回復しましたが、そこも3カ月で出なければなりませんでした。

 「なぜ慣れた病院を出なければいけないのか。人を感情のない機械だとでも思っているのか」。直子さんはトイレで泣きました。

 「父は、病院をかわると必ず体調を崩し、高熱が続きます。今の病院では水枕が離せなくなり、床ずれもでき、手足は見る影もなく細くなりました」

 直子さんは父親を思うたびに涙がこみ上げます。

 小泉政権の医療制度改悪で持ち込まれた高齢者の長期入院追い出しのさまざまな仕組み…。「必死で生きてきた高齢者に早く死ねとでもいうような今の制度は即刻廃止してほしい。ましてや、この仕組みを拡大するなんて絶対に許せません」



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