2010年3月19日(金)「しんぶん赤旗」

米英軍侵攻から7年

イラク戦争の傷跡


 米英軍がイラク侵略戦争を開始してから20日で7年。オバマ米大統領は8月末までの米戦闘部隊の撤収を進めるとし、イラクでは復興に向けた総選挙も実施されました。しかし、戦争はイラクだけでなく米国にも深い傷跡を残しています。イラクでは宗派抗争は終息せず、選挙後の治安状態は予断を許しません。戦争を検証する作業が関係国で始まっており、国際法に違反したイラク戦争を深くとらえなおす機会となっています。


犠牲者推計で150万人

「米軍は突然きて息子を射殺した」

 「息子は技師の仕事をし、自分の給料で私たち家族の面倒をみる親切な子だった。ある日、米軍がやってきて息子を射殺した。私たちは生活の糧を失い、楽しみにしていた息子の結婚の晴れ姿を見られなくなった」

 カタールの衛星テレビ・アルジャジーラ(電子版)は13日、2004年のファルージャの戦闘で息子を失ったウンム・ヤセルさんの体験を紹介しました。米軍侵攻から7年が経過したイラクでは、戦争や占領の被害、宗派間対立の影響に多くの人々が今でも苦しんでいます。

 03年3月の米軍侵攻後、戦闘や宗派間抗争を原因とする犠牲者の数について、イラクのサルク戦略研究所のムハンナド・アザウィ氏は本紙の問いに対し、150万人との推計を示しました。難民・避難民は400万人以上にのぼると推定されています。

 バグダッド在住の技師イヤド・タリクさん(イスラム教スンニ派、49歳男性)は「米軍が来てから実際に起きたのは殺りくと破壊だった。前には宗派間対立なんてなかったが、いまではもっとも深刻な問題になっている」といいます。

 同じくバグダッドに住む内務省勤務のセイフ・ハドルさん(シーア派、27歳男性)も、「治安はいまでも悪い。かつてはシーア派、スンニ派両教徒の結婚は問題なかったが、いまでは不可能だ」と語りました。

 イラン、トルコと国境を接する北部アルビル市のクルド人技師ウサマ・サルマンさん(29歳男性)は、「米軍占領後のずさんな国境管理で周辺国から武装民兵が流入して国内は混乱した。米軍には早くイラクの治安部隊に権限を渡して予定通り出て行ってもらいたい」といいます。

 宗派間対立に加え、生活・経済基盤の破壊や治安悪化による失業と貧困も深刻です。イラク紙「新サバハ」は今年3月はじめ、実労働人口の5〜6割が失業状態にあるとし、若者が犯罪とテロに走る要因になっていると警告しました。(カイロ=松本眞志)

米、戦費と荒廃拡大

財政赤字1兆ドル超、 元兵士PTSD

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(写真)米軍はいますぐ撤退をと訴える「平和のための退役軍人会」メンバー=昨年10月、米フィラデルフィア(西村央撮影)

 米国では、無法なイラク戦争によって国民の戦費負担が続く一方、送り込まれた兵士の傷も深まっています。

 ブッシュ前政権は8年間で、イラク、アフガン戦費に約8200億ドルを支出。同時に、財政赤字は1兆ドル(約90兆円)を超える規模にまで拡大しました。

 それを引き継いだオバマ政権ですが、戦費の上乗せを図っています。

 前政権から引き継いだ2009会計年度予算で、イラクとアフガニスタン戦費を800億ドル以上追加。10会計年度予算では同戦費に1280億ドルを計上し、さらに追加分の上乗せを要求しています。11会計年度の国防総省予算は7083億ドルで、過去最大となりました。

 米兵の死者は4300人を大きく超えました。アフガニスタン戦争での米兵の死者は1000人強。戦闘の激しさを物語ります。

 帰還した兵士にも深刻な現実が待ち構えます。米退役軍人省の発表(10日)によれば、退役軍人のホームレスは10万7000人(09年)にもなっています。5年以内にゼロにするというシンセキ同省長官の目標からみれば、高水準です。

 心的外傷後ストレス障害(PTSD)や自殺問題も社会問題化。イラクへの派遣を控えた陸軍軍医が基地内で銃を乱射した事件(昨年11月)は、米軍内の荒廃をうかがわせました。

 目だった外傷がないのに記憶障害や頭痛などの症状に見舞われる外傷性脳損傷(TBI)も、問題となっています。爆風の衝撃による脳損傷が原因で、09年だけで国防総省は2万199人を認定。アフガン戦争開始以後の認定者は14万人に上るとみられています。

 平和のための退役軍人会のウォード・レイリーさん(56)は「退役軍人の問題を解決するのに一番大事なことは、なにより戦争をやめることだ」と力を込めます。そして、ベトナム戦争時に従軍経験のある一人として、「医療面の配慮と同時に、負傷した兵士に社会復帰の環境をつくり、彼らに雇用を保障するのが政府の責任だ」と強調します。(ワシントン=小林俊哉)

欧米で進む戦争検証

侵攻理由を断罪、国際法違反の認定も

 英国では、イラク戦争を検証する独立調査委員会の公聴会が続いています。

 ブラウン首相が昨年6月に設置を発表した委員会は、英軍のイラク撤退後、7月末から活動を始めました。調査の対象となっているのは2001年夏から09年7月まで。チルコット委員長は、将来同様の事態に直面したときの教訓を学ぶことが目的だとしています。

 これまで侵攻を決断したブレア前首相を含め政治家や軍人、外交官など約80人を喚問しました。

 ブレア氏に最も近い側近だったキャンベル元報道担当補佐官は1月、開戦前のイラクが使用可能だとした大量破壊兵器情報の問題で「われわれは間違った」と証言。さらにブレア政権内に侵攻を違法とする見方が侵攻前にあったことも明らかになりました。

 しかしブレア氏自身は1月の公聴会で「後悔していない」と述べ、侵攻によるフセイン政権打倒を正当化。ブラウン首相も3月の公聴会で、開戦について「われわれは正しい理由に基づいて、正しい決断を行ったと確信している」と主張しています。

 英国の調査報告が出るのは早ければ年内。侵攻の違法判断まで踏み込むなら歴史的意義をもつ総括となります。

 違法性の問題では、イラク派兵国オランダのバルケネンデ首相が設置した調査委員会が今年1月、報告書を発表。「安保理決議の文言が個々の国に軍事力行使を認めているとは解釈できない」と述べて、侵攻が国際法違反であると認定しています。

 イラク開戦の口実とされた大量破壊兵器をめぐっては、米国では大統領が設置した独立調査委員会が05年3月にその存在を否定。英国ではブレア政権が設置した独立調査委員会も04年7月、開戦前にイラクは「配備可能な生物化学兵器を持っていなかった」と報告しました。

 ただし米英両国の報告書は、誤りの主な責任を情報機関に押し付け、政権の情報操作疑惑を否定しています。(ロンドン=小玉純一)



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