2010年3月2日(火)「しんぶん赤旗」

どうみる、どうする、大企業の内部留保問題

BSイレブン 志位委員長が語る


 日本共産党の志位和夫委員長は、2月28日放送のBSイレブンの政治番組「篠原文也の直撃! 日本」に出演し、約50分間にわたって、大企業の内部留保問題、鳩山政権の評価、「政治とカネ」の問題、夏の参議院選挙への戦略などについて、政治解説者の篠原氏のインタビューに答えました。そのなかから、いま政治の焦点の一つとなりつつある大企業の内部留保問題について質問に答えてのべた部分を紹介します。


党首会談――過剰な内部留保の還元という提起を否定できなくなった

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(写真)BSイレブンの「篠原文也の直撃!日本」に出演する志位和夫委員長

 篠原 共産党の綱領を読ましていただいたら、大企業について、横暴な経済支配を抑えると、こういうようなことが入っていますね。この間、話題になりましたけれど、鳩山(首相)さんとお会いになりましたよね。そのときに大企業の内部留保を吐き出させろと。どうも(内部留保に)課税をするという話で伝わってきまして。僕は実は、共産党は時々良いこと言うなって感心していたんですよ。ところがこれはいただけないなと。何を考えているんだろうと思って、今日はぜひそれをお聞きしたいと思ったんですよ。

 志位 これは、実は、私が(2月17日の鳩山首相との会談で)提起したのは、いまの日本経済を良くしていくうえで、大企業に過剰な内部留保が蓄積するというシステムができてしまっている。とくにこの間、労働者についていえば正規雇用から非正規雇用、派遣とかパートなどに置き換える。賃下げ、リストラをやる。中小企業を搾り上げる。こういうことで国民から搾ったお金で、過剰な内部留保が形成される。そして生きた経済、日本経済にお金が回らない。この仕組みを変える必要があるということを提起したのです。

 この(内部留保の)過剰な部分を雇用や中小企業に還元する。そしてそういうものが過剰にたまっていかないようなルールをつくっていく必要がある。たとえば雇用だったら、「人間らしい労働」を保障するルール、「正社員が当たり前」の社会をつくる。あるいは中小企業と大企業の取引を公正なものにして、下請けいじめなどをやめさせる。そういうことをしっかりやる必要があるというのが私の問題提起だったんです。

 篠原 それじゃ、(内部留保に)課税をしようというんじゃないのですか。

 志位 (わが党の提起に対して)鳩山首相が、「内部留保を還元させる具体的な方法を検討してみたい」とおっしゃった。そこで私は、いま言ったように、雇用と中小企業でまともな(暮らしと営業を守る)ルールをつくることで(内部留保を)還元する、そしておのずとそういうところに過剰にお金がたまらないような仕組みをつくる必要があるという提起をしました。そうしたところ、鳩山首相の側から「(留保金への)課税という手段もある」というようなことをおっしゃった。

 篠原 (鳩山首相が)自分のほうから課税という言葉を使われた。

 志位 ええ。私たちは課税ということでいえば、大企業へのたとえば研究開発減税とか、優遇税制をなくして、利益にきちんと課税するということを考えていますが、内部留保への課税ということは私から提起したのではないのです。

 ただ、私が大事だと思ったのは、私が(大企業の)内部留保があまりに過剰だと。この過剰な内部留保を社会に還元して、とくに国内経済に回るようにして、内需を活発にしていく、そういうものとして活用していく必要があるという問題提起に対して、先方が、その問題提起を否定しないで、検討しなければならないとなってきたのは、一つの変化だと思います。

国民から吸い上げたお金を、もっぱら海外に回す――ここに問題がある

 篠原 まあ鳩山さんの言葉っていうのは、結構そのときの思いつきで出てくるから、課税といったから本当に課税を考えているというわけでもないと思いますが、ただ内部留保っていうのは、現ナマが全部積みあがっているわけじゃないし、資産もあるし、しかも1回課税されている部分もあるわけで、また課税するとなるとこれは二重課税という問題もある。それよりも大きいのは所得税の最高税率の引き上げも言われていますけども、これだってそうなんですが、企業とか富裕層の人たちをそういうふうにぐんぐん締めていきますと、やっぱりその租税というものが、海外逃避する恐れっていうのがあると思うんですよ。そうすると今の日本経済っていうのは一番のポイントは、土台になる日本経済そのもののパイをどうやって大きくしていくんだというのが一方できちんとないと、今の限られた小さなパイだけの取り合いの話だけだと、一時的な増収策にしかならないと思うんですよ。

 志位 二つほど言いたいんですけど、一つは、(大企業への)課税という点で言いますと、私たちは内部留保というよりも、利益に適正な課税をすべきだということを言っているのですが、それを考えるさいに、日本の大企業の負担と欧州の大企業の負担とどっちが重いか。これは政府のデータがあるのですが、負担を考えるさいには、税の負担と社会保険料の負担と合わせた負担が当然カウントされなければならないんですけども、たとえば日本の製造業大企業(自動車産業)の場合は、だいたいフランスの7割、ドイツの8割しか負担していないんですよ。日本の方が実は軽いんですよ。とくに社会保険料(負担)が少ないですから。

 篠原 法人税率は非常に高い、40%。

 志位 法人税率はそんなに違いがありません。法人税率はだいたいそろっている。でも社会保険料(負担)がたいへんに低いんですよ。これを合わせたらヨーロッパに比べると実際の負担は低いという問題がある。これは事実の問題として言っておきたいですね。すぐ財界筋からは税負担のことを言いますと、海外に逃げて行っちゃうと言いますけれども、ヨーロッパではちゃんとそうやって負担をしながら世界の舞台で商売しているわけですから、これは理屈にならないではないかというのが一つなんですね。

 それから内部留保という問題について言いますと、内部留保がどういう形で現存しているかと言いますと、大企業の内部留保は、だいたい10年間(1997年から2007年)で、百数十兆円から約200兆円を超えて急増したんですけれども、国内でのいわゆる固定資産――工場とか機械とか土地とか(「有形固定資産」)は、ほとんど増えていないのですよ。どこが増えているかというと、海外の子会社などに対する直接投資の部分(関係会社株式の保有額)がうんと増えているわけです。

 つまり、国内で労働者や中小企業から吸い上げたお金を、(設備)投資にせよ、あるいは(家計の)所得にせよ、国内経済にきちんと回して、内需を良くしていくというところに使わないで、外国に投資してそこでもうければいいという。外国頼みの経済にしちゃっている。ここが私は、一番の問題だと思います。

 篠原 だけどそれは、これだけ経済がグローバル化しますと、しかもアジアの内需を取り込むなんて時代で、日本だけで全部完了しろっていうのは無理でしょう。そりゃ、グローバルに考えて企業というのは動きますよ。

 志位 外国頼みのバランスが、あまりにひどすぎる(ことを問題にしています)。(08年秋の)リーマン・ショックにさいして、世界の経済のなかでも、日本が一番落ち込みがひどいですよね。ヨーロッパよりひどい。アメリカよりひどい。世界で一番落ち込みがひどいというのは、あまりに外国頼みの経済だったからです。私は、外国に投資するのは全部だめだとか言うつもりは、まったくありません。それは当然グローバル化した経済のなかでありうるんだけど、あまりに外国頼みで、もっぱらそちらのほうにのみお金を回して、そして国内にはお金が回らないと。これがいまの内部留保問題の非常に大きな問題だと思います。

「強い企業を応援すれば、家計に回り、経済が成長する」――この路線は失敗した

 篠原 僕は、志位さんたちが言っている、経常利益がこの10年間で企業全体で2倍に増えていると。しかし勤労者所得(報酬)というのは減っているんだと。そういう指摘はたしかにその通りだと。だからそういうことのもう少しバランスを考えていかなきゃならんというのはその通りだと思うんですけど、ただ一番僕が今、共産党の主張のなかで欠けていると思うのは、このパイを外国であろうと国内であろうと全部含めて、日本経済のパイをどうやって大きくするかっていうところに、もう少しビシッと重点がないとですね。

 志位 だからそれを、私は提案しているんですよ。つまり、逆に言いますと、この10年間がどうだったか。リーマン・ショックの前の10年間というのは、日本のGDP(国内総生産)はまったく伸びていないんですよ。10年間の単位で見ますと横ばいなんです。そして、勤労者の雇用者報酬は落ちているわけですよ。つまり、よく自民党の人たちは、「成長戦略」が必要だといいますけれども、「成長」をしてないんですよ、10年間も。(この間)巨大企業は利益を伸ばしたわけです。空前の利益を伸ばしたけれど、GDPは成長していないんです。なぜそうなっちゃったかというと、さっき言ったようにあまりにひどい外国頼みの経済になってしまって、国内に、内需に、お金が回らない仕組みになってしまった。それを転換しなくちゃいけない。内需の中で中心は家計ですから。家計と所得にお金が回らなければいけない。それをしっかりと、土台からたて直していくということをやりませんと、日本の経済の発展はありませんよと言っているんです。

 篠原 海外に行ったということだけで日本の成長が止まっているということではないと思う。成長そのものの戦略、政策が、やっぱ不十分だったということが一方であると思うんです。

 志位 いや、(これまで)「成長戦略」といって、強い企業を応援する、そうすればいずれは家計に回ってくる、経済は成長するということを言ってきたけども、回らなかったわけですね。それはさっき言ったような海外頼み、そして外需依存、こういうやり方をずっとやってきた。このやり方が失敗したということです。

小泉・竹中「サプライ(供給)サイド」路線で、日本経済の「パイ」は大きくならなかった

 篠原 本当に企業を強くしてないんですよ。実際強くしていないから、そこの問題をもういっぺん、どうやったら強くできるのと、パイをどうやって大きくするんだと。パイさえ大きくなれば……。

 志位 中長期にみれば、そういうやり方が企業をだめにしているとも、私は言えると思います。

 篠原 そうですかね。

 志位 たとえば、トヨタのリコール問題一つ考えても、もちろんいろいろな要因がありますよ。いろいろな要因があるけど、トヨタが正社員を期間工や派遣に置き換えていく、あるいは「乾いたタオルを絞る」というやり方で中小企業を絞り上げる。こういうやり方をずっとやってきて、その結果、製品の劣化という問題が起こってきている。私は、前に(08年12月)、この問題はそういうことになりますよと、トヨタにも直接言ったことがあります。こういうやり方していったら、ほんとうの意味で、企業にとっても将来がなくなる道だっていうことを、私は言いたいですね。

 やはり働く人、そしてサプライヤー(部品供給企業=下請け中小企業)、中小企業を大事にして、そしてその所得が増えてですね、家計があったかくなって、内需が良くなっていかなかったら、日本経済の発展はありません。

 篠原 トヨタの問題はいろいろあったけども、やっぱりサプライヤーを大きくしなければだめなんですよ。サプライサイドを。それを大企業抜きで、志位さんはいつもこう大企業は別で、中小企業のサプライをっていうのじゃ、それじゃね、日本経済よくならないですよ。

 志位 事実の問題として、今おっしゃったサプライサイドの経済学、サプライサイド(供給サイド)を大きくする、とくに強い企業をより強くすれば、必ず「パイ」が膨らむんだということをやってきたわけですよ。小泉・竹中路線で。しかしやったけど、10年間、結局「パイ」は膨らまなかったわけですよ。この事実をしっかりと見なくてはいけない。

 ですから、たとえばイギリスの「フィナンシャル・タイムズ」がですね、日本の経済はあまりに異常だと。あまりにこの内部留保は過剰だと。この過剰な部分は削減していくという方法をとらなければ内需は良くならないと。過剰な内部留保を削減して、もっと内需主導のものにしていく必要があるということを言っている。イギリスの経済紙からも、日本の(大企業の)あり方はあまりに異常ですよということが言われているんですね。

 篠原 いや、小泉「構造改革」の最大の失敗は、そっちの路線ばっかりに行って、出てきたいろんなひずみがありますよね。しわよせが。そっちの方の手当てが足りなかった、おこたったっていうことで、社会の全体がいびつな感じになったんであって、この最初にまずこれをやるってこと自体が、僕はそんなに間違っていなかったと思う。

 志位 私は、その(経済政策の)大本が間違えたからこういう結果になったと思います。

「大企業=敵」ではない。社会的責任を果たすことを求めている

 篠原 大企業を悪者にしているかのことをやると、大企業のサラリーマンが離れていくのでは。

 志位 私たちは、大企業は悪者だと、敵だといっているのではありません。大企業があまりに社会に対する責任を果たさないで、自分の目先のもうけだけに熱中して、そしてここから先が大切ですけれど、自分の企業の労働者を大事にしていないじゃないですかと。働く人たちを。大企業の労働者だって、いま今度の春闘の状況をみても、(経営者側は)ベースアップはおろか、定期昇給すらしていないでしょう。むしろこういうときこそ、内需を良くするうえで、労働者に利益を還元する英断が必要なんですよ。

 ところがいま多くの企業がやっているのは、株主への配当は内部留保を崩してまでやっていますよ。たとえば、ブリヂストンは、(09年度決算で)10億円しか利益が出ていないのに、125億円もの株主への配当をやっているんです。12・5倍です。そういうやり方でなく、大企業で働く人をもっと大事にするべきだというのが私たちの主張であって、大企業は敵でもなければ、ましてや大企業で働いている人は、私たちは一番大事にしなければならない仲間だと思っています。



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