2010年2月24日(水)「しんぶん赤旗」

水俣病訴訟 首都圏で

「隠れた被害者」も救済を


 首都圏在住の水俣病の未認定公害被害者23人が23日、国と熊本県、加害企業のチッソ(本社・東京)を相手取り、1人当たり850万円(総額1億9550万円)の損害賠償を求めるノーモア・ミナマタ東京訴訟を東京地裁に起こしました。


 原告は、東京、神奈川、千葉、埼玉、静岡の各都県に住む35〜77歳の男女。チッソの工場から有機水銀を含む排水が流れこんでいた熊本、鹿児島両県の不知火海周辺から1955年以降に移り住みました。

 水俣病の未認定被害者でつくる水俣病不知火患者会(熊本県水俣市)が7日に都内で実施した検診で初めて水俣病と診断され、公害健康被害補償法による行政認定申請をした13人も加わっています。

 提訴後、会見した原告の山本昭彦さん(53)は、「水俣病と診断されたときはショックでした。水俣病が世の中に出て50年以上たつが、手足のしびれ、足が引きつるという症状がある。公害の恐ろしさを世の中にわかっていただければ」と話しました。

 水俣病不知火患者会は、熊本、大阪両地裁でも同様の訴訟を起こしています。熊本地裁では1月から、原告だけでなくすべての水俣病被害者の救済制度の確立を求めて和解協議が始まっています。

 東京訴訟の意義について、尾崎俊之弁護団長は、「都内でおこなった50人規模の水俣病検診では、9割を超える人が初めての検診でした。隠されてきた被害者をどう救済の対象にするかが課題です。訴訟を知ってもらうことがそのきっかけになります。すべての被害者の救済をめざしています」と話します。

解説

一人残らず一刻も早く

 2005年に未認定の水俣病公害被害者50人が国や加害企業「チッソ」に賠償を求め、熊本地裁で始まったノーモア・ミナマタ国賠訴訟は、同近畿訴訟(大阪地裁)、同新潟訴訟(新潟地裁)と続き、今回の東京訴訟(東京地裁)で、原告が2200人を超える集団訴訟に発展しました。

 潜在的な水俣病公害被害者が全国におよび、国が被害者の救済をこれ以上放置するのは許されないことを物語っています。

 熊本、鹿児島両県の不知火海沿岸で育ち、ふるさとを離れた人たちの中の水俣病公害被害者のほとんどは、自分を苦しめる感覚障害や運動失調が水俣病だとは気付かず、声をあげることもできませんでした。国が不知火海沿岸住民の健康調査を行おうとしなかったばかりか、全国に散らばった潜在患者の把握を怠ってきたためです。

 ノーモア・ミナマタ東京訴訟原告団と不知火患者会関東支部の提訴にあたっての声明は「国や出身県からは何らの情報も得られず、放置されたままにされてきた」と指摘。「まだまだ情報を知らされないまま苦しんでいる多数の水俣病患者がいるはず」と全面解決を求め、「一致団結してたたかい抜く覚悟です」と表明しました。

 民医連と水俣病不知火患者会が今月7日に実施した水俣病検診でも受診した49人のうち46人が水俣病・水俣病疑いと診断され、このうち13人が今回の原告になっています。

 自民、公明、民主各党などの賛成で成立した「水俣病特措法」(被害者を切り捨てるチッソ救済法)は、訴訟提起者を救済対象から外すなど、すべての被害者救済からほど遠い内容で、同法の枠内にとどまらない深刻な被害の存在が改めて浮き彫りになりました。

 今回の東京訴訟の意義について、同訴訟弁護団は、原告の損害賠償にとどまらず、声をまだ上げていない救済を求めているすべての水俣病公害被害者の救済制度を実現することにあると指摘します。

 同熊本訴訟は1月の熊本地裁の和解勧告をうけ、国と原告団との和解交渉が始まっており、すべての被害者を救済する制度を国につくらせることが最大の焦点。東京提訴も、水俣病公害被害者を一人残らず一刻も早く救済したいという原告の悲願に、国は応えることが迫られています。(宇野龍彦)



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