2010年1月30日(土)「しんぶん赤旗」

公共事業を食い物に 小沢氏疑惑の核心


 民主党の小沢一郎幹事長の資金管理団体「陸山会」による土地購入疑惑は、政治資金規正法違反(虚偽記載)事件として捜査がすすんでいます。この事件は、原資にゼネコンからの裏献金が含まれている疑いがあることから、小沢氏と公共事業をめぐる疑惑へと発展しています。政権与党の幹事長の疑惑は、小沢氏の刑事責任にとどまらず、政治的・道義的責任をきびしく問うものとなっています。事件の全容を解明し、その責任を糾明することは国会に課せられた重大な責務です。(「政治とカネ」取材班)


土地購入疑惑

原資にゼネコン裏献金か

 「自分個人の資産の4億円を一時的に陸山会に貸し付けることにした」―。小沢氏は23日夜、東京地検特捜部から「被疑者」としての事情聴取を受けた後に開いた記者会見で、土地購入の原資について、こうのべました。

説明が二転三転

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(写真)「陸山会」が4億円で04年10月に購入した土地=東京都世田谷区深沢

 1985年に湯島(東京都文京区)の自宅を売却し、深沢(同世田谷区)の土地を購入し、自宅を建てた際に残った約2億円や、銀行の家族名義の口座から引き出した3億6000万円などを東京・元赤坂の事務所金庫に保管していて、土地購入時の04年10月には4億数千万円が残っており、うち4億円を陸山会に貸し付けたという説明でした。

 驚いたのは、小沢氏が、事務所の金庫に億単位のカネを保管していたということです。

 小沢氏の説明が事実とすれば、なぜ「家族名義」で積み立てていたのか、名義借りなら国会議員の「資産公開」逃れではないのか―など、新たな疑問が浮上してきます。

 いずれにしろ、購入資金の原資についての説明は、これまで二転三転してきました。

 07年2月、陸山会による多くの不動産取得が問題になったとき、「献金してくれた皆さまのお金を資産として有効に活用することが、皆さまの意思を大事にする方法」とのべ、「政治献金」と説明していました。

 それが、「4億円の預金を担保にして金融機関から同額を借り入れ、これを充てた」↓「積み立ててきた個人資産」とクルクル変わってきたのです。

 このこと自体、原資を明らかにしたくない、できないことの反映ではないのか。

関係者が詳細に

 重大なことは、原資にゼネコンの裏献金が含まれているのではないか、ということです。

 23日の会見で、小沢氏は何の根拠も示さず、「4億円の一部は建設会社からの裏献金であるやの報道がなされておりますが、事実無根」としました。

 しかし、「しんぶん赤旗」日曜版が、中堅ゼネコン「水谷建設」の関係者から、小沢氏側に04年10月と05年4月に各5000万円、計1億円を渡したとする詳細な証言を得ています。

 しかも、1回目の5000万円は、岩手県の胆沢(いさわ)ダム関連工事受注の“見返り”としての性格が指摘されています。水谷建設が下請け工事を受注した同ダムの「堤体盛立(第1期)工事」の入札(04年10月7日)前に、公設第1秘書の大久保隆規被告から「(仕事を)取ったら5000万円、お願いします」とサラッといわれたといいます。

 そして、東京・港区赤坂の東京全日空ホテル(当時)で紙袋に入れた5000万円授受の直後に土地購入代金が支払われています。

 水谷建設の裏献金が、土地購入の原資の一部になったのではないのか―。

 特捜部もゼネコン最大手で、胆沢ダム工事を元請け受注している「鹿島」を強制捜査するなど、ゼネコン側からの裏金が含まれているとみて、捜査を続けています。

 ゼネコンは仕事を取るために、巨額のカネを渡し、受け取った側は、それを闇で処理して、不動産を買う―。こうした構図が浮かび上がってきます。

 これは、土地購入資金を政治資金収支報告書に記載しなかったという政治資金規正法違反にとどまらない重大問題です。


 政治資金収支報告書 政治資金規正法により、政治団体に作成・提出が義務づけられている報告書。毎年3月31日までに、前年分のすべての収入、支出、および12月31日現在で保有する資産等を記載し、総務大臣または都道府県選挙管理委員会に提出することが義務づけられています。虚偽の記載、不記載には「5年以下の禁固、100万円以下の罰金」が科せられます。


ゼネコン支配

「天の声」発し カネも票も

「胆沢ダムは小沢ダム」

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(写真)小沢幹事長とゼネコンとの癒着の象徴、胆沢ダム=岩手県奥州市

 小沢氏と公共事業、ゼネコンとの関係はいったいどのようなものなのか―。それを象徴しているのが小沢氏の地元岩手県で国土交通省が建設をすすめている「胆沢ダム」です。

 胆沢ダム本体工事は03年1月から五つの工事に分離発注され、鹿島、清水建設などの共同企業体(JV)が04年10月に193億円で落札。原石山材料採取工事を大成建設、熊谷組などのJVが05年3月、151億円で落札しました。下請けにはいずれも、小沢氏側に2回にわたって計1億円を提供したと元幹部が供述している水谷建設などのJVが受注しています。

 西松建設のJVは06年3月、最後の5工事目となる「洪水吐き打設」の1期工事を約100億円で請け負いました。

 これら受注ゼネコンが期待したのが、東北地方に圧倒的な影響力をもつ小沢氏の力でした。

 小沢氏の“威光”を背景に、「天の声」の窓口を担っていたのが公設第1秘書の大久保隆規被告でした。

 09年12月に行われた大久保被告の初公判。検察側の冒頭陳述では、大手ゼネコンを恫喝(どうかつ)する一方で、多額の献金や選挙支援をさせていた実態が浮き彫りになりました。

 「お宅がとった胆沢ダムは小沢ダムだ。そのことを忘れるな」

 大久保被告にこういわれたのは西松建設東北支店長。「なんだと。急に手のひらを返すのか」と怒鳴りつけられたのは、清水建設の東北副支店長です。献金の減額を打診した席でのことでした。

 大成建設は02年ごろ、小沢氏側と都内のビル購入をめぐってトラブルに。怒った大久保被告は同社に「奥座敷に入れさせない」と、工事受注に了解を与えないことを伝達。同社は同年、岩手県内で受注ができませんでした。

 その翌年、大久保被告は後任の同社副支店長に「年間2000万円ぐらいお願いしたい。協力していただければ、また土俵に上がっていただきたい」と、従来の献金額の4倍もの増額を迫りました。

 特捜部が「陸山会」などが入居する東京・赤坂の小沢事務所から押収したパソコンには、こうした献金の流れがゼネコン別にまとめてありました。

 それによると、小沢氏側に鹿島などゼネコン各社から2000〜06年の7年間に流れた献金は、約6億円にものぼります。

 この巨額の資金提供は、小沢氏側の政治資金収支報告書には、記載されていません。ダミー(隠れみの)政治団体や下請け企業を使って巧妙に隠してきた疑いが濃厚になっているのです。


 胆沢ダム 岩手県奥州市胆沢区に国土交通省が建設中で2013年度に完成予定です。利水、治水、発電が目的です。現在ある石淵ダムのかさ上げ計画から出発しましたが、1980年代に新ダム計画が浮上。石淵ダムの13倍もの利水容量の巨大ダムになります。当初の完成予定は1999年度でしたが、2000年の計画変更で工期が14年延長。総事業費は1360億円から2440億円へと1・8倍化。同ダムによる「水余り」が指摘されており、県や関係自治体の財政負担増や水道料値上げが懸念されています。


献金増やし受注可能に

 小沢幹事長の事務所が、東北地方のゼネコン談合組織への影響力を背景に、ゼネコン各社に多額の献金を要請―。この構図を白日の下にさらしたのが小沢氏側への違法献金事件で起訴された西松建設前社長、国沢幹雄被告の公判です。

 「お力添えをお願いします」

「よしわかった。西松にしてやる」

 西松建設の東北支店幹部の供述調書を読み上げる検事の声が、法廷に生々しく響きました。

 国沢公判で検察が「小沢事務所が西松に『天の声』を出した」と認定したのは、岩手県立一戸・北陽病院新築工事(落札額37億7000万円)など5件の公共工事(別表)、計122億7000万円にのぼります。

 西松は、岩手県内の公共工事を思うように受注できなかったことから、小沢氏側へ献金し、関係を強めました。1995年には、それまで年300万円程度だった献金額を1319万5000円に増額。翌年に岩手県内の国道トンネル工事の受注に成功しています。

 公判では、長年、東北地方のゼネコン談合を仕切ってきた「鹿島」の東北支店元幹部の調書も読み上げられました。

 「小沢事務所が本命の業者と了解した企業を本命にするしかなかった。意向には逆らえず、鹿島といえども本命からはずされることすらあった」

 小沢氏側が「天の声」を出す仕組みはこうです。(1)ゼネコン側が小沢事務所に陳情(2)小沢事務所の了承が得られたら談合の仕切り役に連絡(3)仕切り役が小沢事務所に「天の声」を確認する―というもの。検察側はこうした「天の声」はすでに80年代のはじめから出されていたと指摘しました。

表

選挙になると動員され

 「以前、ウチにやって来た小沢さんの秘書から献金依頼をうけたことがあった。秘書から『200万円未満の献金だったら領収書は出さないよ』といわれて驚いたことがある」

 こう証言するのは、小沢氏の選挙区、衆院岩手4区内のある中小の建設業者です。

 「この地域では小沢さんの息がかかった業者しか仕事がとれない。小沢といえば鹿島、鹿島といえば小沢。仕事がほしくて50万円か100万円を出してでも仕事を取りたいと思ったこともあったが…」と話します。

 「一建会」。「小沢一郎」の「一」と、建設業者の「建」からとった地元建設業者でつくる小沢後援会があります。

 元会員の業者は「会員は小沢さんの選挙となれば、地域をくまなく訪問する作戦に駆り出された。私のときは小沢夫人の実家の福田組の社員がやってきて、いっしょに地域を軒並み回った」と振り返ります。

 小沢氏が代表の「民主党岩手県第4区総支部」の収支報告書を見ると―。2005年には、建設・土木関連の企業73社から3180万円。06年には64社から2175万円の多額の献金を集めています。

 選挙区内のある元地方議員は「選挙が終わると小沢派であろうとなかろうと、当選証書を受け取った足で小沢事務所にあいさつに行くのが当たり前だった。小沢事務所の会合に何度も呼ばれるうちに議員のほとんどが小沢派になる」といいます。

 岩手県で小沢氏が持つ、建設業者への影響力。西松建設の元中枢幹部も「小沢さんの“子分”がみんな自治体の首長になっているのだから、そりゃあ建設業者は応援するし、票も集めてくる。小沢さんの影響力はすごい、震え上がるほどだ」といいます。

 その影響力には、大手ゼネコンもひれ伏しました。ある自治体の元幹部は「小沢さんの選挙となれば、地域をくまなく回って支持を訴えるために、中央ゼネコンの社員数百人が来ていた」と振り返ります。

元は税金―国民に被害

 公共工事の談合で「天の声」を出し、その見返りに献金や選挙支援を受ける―。小沢氏とゼネコン・建設業界の癒着関係は長期でかつ根深いものだといわれています。

 93年には、小沢氏を応援するゼネコン19社の組織「桐松(とうしょう)クラブ」の存在を本紙が暴きました。会長に鹿島、副会長に大成建設というスーパーゼネコンの盛岡営業所長が就任。「カネも人も出す」体制を作り上げていました。

 ゼネコンの談合担当だった元幹部はこう打ち明けます。「東北の公共事業では、小沢さんの影響力はすごい。とても逆らえるものではなかった」

 93年のゼネコン汚職事件では、清水建設の「闇献金リスト」が明るみに出ましたが、小沢氏は自民党の金丸信元副総裁や竹下登元首相に次ぐ上位の献金先に位置づけられていました。

 さらに同年、鹿島が小沢氏に500万円の不透明な献金を渡した疑惑が発覚。小沢氏は受領を認めたものの、どの政治団体で受けたかなどは公表を拒否しました。

 小沢氏は、自民党経世会の実力者だった金丸氏や竹下氏が握っていた強大な建設利権の継承者といわれています。自民党建設族議員でつくる「国土建設研究会」の会長も務めました。

 自民党の建設族議員の関係者は、こう指摘します。

 「小沢さんは、与党のときも野党のときもずっと建設業界に力を持っている。公共事業にかかわる業者、官僚、知事、国、地方議員と支配網をはりめぐらしているのだから影響力は絶大だ」

 公共工事は、国民の税金を注ぎ込む事業です。それが献金によってゆがめられれば、事業費が不当に高くつり上げられることになります。結局、税金が政治家に還流され、国民が被害を受けることになるのです。

図

刑事責任だけでない

政治的道義的責任ただせ

 政党・政治家をめぐる「政治とカネ」の問題がおきたとき政治はどう対応すべきか。

 まず大切なことは、疑惑をもたれている政党・政治家みずからが国民に納得のいく説明をすることです。

 1985年に衆参両院で議決され、国会議員が所持する国会手帳にも明記されている「政治倫理綱領」は、「政治倫理に反する事実があるとの疑惑がもたれた場合にはみずから真摯(しんし)な態度をもって疑惑を解明し、その責任を明らかにするように努めなければならない」と定めています。

 当時、衆院議院運営委員長として「政治倫理綱領」制定を主導した小沢氏が、このことを知らぬはずはないでしょう。

 国会は、疑惑をもたれた政党・政治家に説明責任を果たさせるとともに、国政調査権も行使して政治的道義的責任を究明する責務があります。

 かつて首相が外国の航空機会社から賄賂(わいろ)を受け取り、「首相の犯罪」と問題となった76年のロッキード事件では、当時の国会を構成していた共産、自民、社会、公明、民社の5党党首が衆参両院議長の裁定で、ロッキード問題の真相解明、調査特別委員会の国会設置などとともに、国会が「政治的道義的責任の有無について調査する」という合意(76年4月21日)を結びました。

 検察がとりくむのは刑法上の刑事責任に限られますが、合意はそれにとどまらないで政治的道義的責任をふくめて憲法62条で定めた国政調査権を行使して真相を究明するとしたのです。

 ロッキード事件では国会が国政調査権を行使し、大きな力を発揮しました。

 衆参両院で真相解明の決議をし、衆院で32人、参院で15人にのぼる事件関係者の徹底的な証人喚問を実施。証人喚問で偽証をした場合や証言を拒んだときは罰金や懲罰などの罪に問われるため、事実解明に効力を発揮しました。偽証告発が6回行われるとともに、田中角栄元首相の逮捕(76年7月)にまで発展しました。

 その後のリクルート事件、ゼネコン事件などでの金権・腐敗事件でも証人喚問が行われ、政財官の癒着の構造が白日の下にさらされることになりました。

 今回の小沢氏をめぐる一連の疑惑についても、司法当局による厳正な捜査は当然ですが、国会での政治的道義的責任の追及を“車の両輪”で進めることが求められています。


93年から共産党が追及

 小沢氏と胆沢ダムをめぐる関係は、ゼネコン疑惑が吹き荒れた1993年、すでに日本共産党が追及していました。

 吉岡吉典参院議員(当時、故人)は10月12日の参院予算委員会で、ゼネコン24社でつくる小沢氏の裏選対の存在を明るみに出しました。

 小沢氏を頂点とした岩手県での公共工事を取り仕切る仕組み。国レベルの工事は小沢氏本人、県レベルは小沢氏の秘書が取り仕切るというものでした。

 吉岡氏は「胆沢ダム本体工事は数年先だというのに、すでにその受注者として大手ゼネコンの名前が取りざたされている」と指摘していました。

 吉井英勝衆院議員は、同年10月19日の衆院政治改革特別委員会で、大手ゼネコンが社員を小沢氏の選挙事務所に出向させ、集めてきた名簿を片っ端から電話する選挙活動の一端を暴露。「(選挙応援を)やらないと仕事が取れないからだ」という業者の声を紹介し、ゼネコン総ぐるみの選挙を告発しました。



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