文字の大きさ : [] [] []

2010年1月5日(火)「しんぶん赤旗」

マスメディア時評

安保の呪縛まだ脱しないのか


 日米安保条約改定から50年の節目の年を迎えました。安保の呪縛(じゅばく)を抜け出しきれない鳩山由紀夫政権のもとで、沖縄の米軍普天間基地問題などが混迷の度を増していることもあり、新年のマスメディアの論評では、安保や基地問題を取り上げたものが目立ちました。

 見過ごせないのは、「朝日」、「読売」などの全国紙がこぞって、日米安保条約=軍事同盟を「安定装置」(「朝日」)、「生命線」(「読売」)、「基軸」(「毎日」)などと持ち上げ、日米同盟を絶対視する立場から、首相に基地問題などでの“決断”を迫っていることです。

異常さを感じとれない

 昨年の総選挙以来、「朝日」は鳩山政権の応援団的役割を鮮明にし、「読売」や「産経」は、逆にブレーキとしての役割を果たしてきました。ところが鳩山政権が日米首脳会談の開催をめぐってアメリカとぎくしゃくしだしたころから、その立場を超え、大新聞がそろって、「日米同盟の危機」などといいだしています。新年の各紙の論調は、そうした傾向をさらに露骨にした感があります。

 「日米の同盟関係は重要な役割を担い続けよう。問題は、同盟は『空気』ではないこと」「いま日米両国政府が迫られているのは(略)より納得できる同盟のあり方を見いだす努力」(「朝日」)、「いうまでもなく、日米同盟は日本の安全保障の生命線だ」(「読売」)、「外交の基軸である日米同盟の深化が必須」(「毎日」)、「米軍の抑止力がこの国の平和と繁栄を維持してきた」(「産経」論説委員長)などなど。

 こうした論調には、日米同盟を絶対視し、そこから一歩も出ようとしないだけでなく、「安定装置」「生命線」「基軸」などと大げさなことばで国民を脅して、アメリカが求める新基地建設などの要求を受け入れさせようという、威圧的な態度さえ見て取れます。

 全国紙の論調が日米軍事同盟を絶対のものとして、アメリカの求めに従わなければ「同盟の危機」だなど言い立てるのは、文字通り事実を偽るものです。いま世界では軍事同盟で安全を守るなどというのは少数派で、軍事ではなく平和的な外交でもめごとを解決するというのが世界の大勢です。日米関係だけが軍事に縛られ、新基地建設を日本が受け入れなければ、外交も経済も関係が壊れるなどということはありえません。

 だいたい第2次世界大戦が終わってから今年で65年にもなるというのに、全面占領下と同じようにアメリカが日本各地に基地を置いていること自体、異常です。評論家の寺島実郎氏も「独立後も外国の軍隊が駐留し続けることは不自然」「すぐに『日米関係を損なう』と言ってしまう卑屈な姿勢が日本をダメにしている」と指摘(『週刊朝日』昨年11月27日号)していますが、そのとおりでしょう。

 数百万の発行部数を持つ全国紙がそろって異常を感じ取れない摩滅した感性で問題を取り上げ、日米同盟のため犠牲を受け入れよと脅すのは異様です。これでは国民に真実を伝える、マスメディアとしての役割を果たしていません。

脱却目指せば展望が開ける

 もともと日米同盟を絶対視し、その立場からしか物事を見ようとしないのは、日本のマスメディアの長年の悪弊であり、弱点です。戦争直後からアメリカの占領政策に全面協力し、半世紀前の安保改定に際しても国民の反対運動を「暴力」と非難する「7社共同宣言」を出して封じ込めようとしたのは、日本のマスメディア、とりわけ大新聞の恥ずべき過去です。

 日米安保条約は改定から半世紀たった今日、「日本を守る」どころか、アメリカが世界中で戦争を起こすための、侵略的な軍事同盟としての本質をいよいよあらわにしています。アフガニスタンやイラクの戦争での米軍の日本からの出撃や、そうした戦争への自衛隊の参戦が証明しています。

 にもかかわらず、「朝日」は、その安保を「いざというとき日本を一緒に守る」ためのものだと偽装し、憲法9条との組み合わせで「国民に安心感を与え続けてきた」などと主張します。これは国民を欺き、思考停止の安保肯定論に導くものというしかありません。安保と憲法は並び立つどころか、安保のために憲法が踏みにじられ、アメリカはあからさまな改憲まで求め続けてきました。この事実を覆い隠すことはできません。

 日米同盟を絶対視するのではなく、そこからの脱却を目指せば大きく展望が開けることを示す論調のひとつが、新年の沖縄の新聞です。とくに琉球新報が「軍の論理より民(たみ)の尊厳守る年」と題した社説で、「友好な日米関係を築くことは大切だが、精鋭化する軍事同盟の在り方については根本から見直す時期に来ている」としているのは正論です。

 鳩山政権に対し、「対米追従の姿勢が続く限り、普天間問題解決の選択肢も限定されてこよう。国外・県外に移設先を探し求めることなど、どだい無理な話と結論付けそうな雲行きに見える」という同紙の指摘は、全国紙にとっても耳が痛いはずです。世界と日本が大きく動いている時代だからこそ、マスメディアにも、これまでの呪縛から抜け出す、問題への接近が求められています。(宮坂一男)



■関連キーワード

もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp