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2009年11月19日(木)「しんぶん赤旗」

「地方分権」の名で規制緩和

安心・安全 ゆらぐおそれ


 政府の地方分権改革推進委員会の第3次勧告(10月7日)を呼び水に、「地方分権」の名で、国民の安全にかかわる規制を緩和する動きが急展開しています。

 勧告は、自治体の業務に対し、国が全国一律で定めている最低基準を廃止すれば、地域の実情に合ったサービス提供が可能になると主張。保育所や病院、特別養護老人ホームなどの施設基準や人員配置の国基準を取り払うよう求めています。

 鳩山由紀夫首相は「地域主権を実現していく上で大きな意義を有する」「最大限実現されるよう、内閣を挙げて速やかに取り組む」と表明。今月4日の各省庁の勧告に対する初回答では、勧告通り大方の基準を廃止する考えを示しました。

面積基準を緩和

 焦点だった保育所の最低基準についても、厚労省は東京都など地価が高い都市部に限り、自治体の判断で面積基準を緩和できるよう改めるとしました。

 全国一律基準は、憲法に基づき、どこに住んでいても一定水準の教育や福祉が受けられるよう定めたものです。国の基準を上回ることは、現在でも自由にできます。廃止すれば、国の基準に基づいて地方に出されていた国庫負担を減らすことにつながり、行政サービスの向上どころか、地域格差をさらに広げる危険があります。

 保育所の面積基準も、敗戦直後の1948年の制定以来据え置かれた国際的にも最低レベルのもの。基準ぎりぎりだという横浜市の保育所では、昼寝の布団を玄関まで敷かなければならないというほどで、関係者が「これ以上、基準を引き下げるのは無理」という劣悪なものです。そのため、従来は多くの保育所が基準を上回ってつくられてきました。基準が厳しいから保育所が増えないというのは言い訳にすぎません。

 政府は回答の全容を明らかにしていませんが、「赤旗」の取材によって、保育所の避難階段や医務室の設置、耐火基準など、命の安全に直結する基準を「廃止」としたことが判明しています。

 建築基準法の緩和に端を発した耐震強度偽装事件や、火災で多くの犠牲者を出した高齢者入所施設「静養ホームたまゆら」の事件にみられるように、安易な規制緩和は国民の命や暮らしを危険にさらします。いまでさえ人手不足の医療・介護現場の実態をみても、基準の引き上げこそ求められています。

態度問われる

 分権委など基準廃止を求める側からは、安全や安心より、もうけを優先する“本音”も飛び出しています。

 猪瀬直樹委員(東京都副知事)は、架空の職員登録による介護報酬の不正請求が問題になったコムスンを取り上げ、「客が来てから(職員を)そろえればいいとやっていたが、初めからそろっていなければいけないと処分されてしまった…ある程度運用の幅がないと仕事はできない」と主張。営利優先に走ったコムスンではなく、介護の人員配置基準に問題があるかのような発言をしています。日本経団連や経済同友会は、一貫して全国一律基準の廃止を求めてきました。

 小泉「改革」では、医療・福祉・教育の分野が“官製市場”と攻撃され、その分野の「規制緩和」が狙われてきました。

 結局、地方に任せればサービスが向上するという勧告の立場は建前。「市場万能論」「官から民へ」といって進めてきた「構造改革」が通用しなくなるもとで、「地方分権」の名で規制緩和を続け、営利企業のビジネスチャンスの拡大と国の社会保障費の削減を図ろうという新手の戦略にほかなりません。

 「構造改革」を推進した自公政権に厳しい審判が下った総選挙結果を目の当たりにしながら、いままた同じ過ちを繰り返すのか。鳩山政権の態度が問われています。(佐久間亮)



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