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2009年11月2日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

出資しあって株式会社

住民自ら 地域に店


 農協(JA)の出先機関の廃止などで小売店がなくなり買い物もままならない―こんな集落が増えていますが、住民が出資した小売店が誕生し、いまや住民の生活のよりどころになっている地域も生まれています。長野県と高知県の例を紹介します。


生活を支える 憩いの場

長野・高山村

地図

 「孫や子どものアイスクリームが地元で買える店を残しましょう」を合言葉に、長野県高山(たかやま)村の「ふるさとセンター山田」は2007年9月に営業を始めました。簡易郵便局に隣接する店は約10メートル四方の広さ。食料や日用品が並びます。

 「お茶でも飲んでいって」。精算を済ませた客に店長の坪井利子さん(64)が気さくに声をかけます。「それじゃあ」と、レジの隣のソファに腰かける客に、坪井さんがお茶を出します。店長も客たちも近所の顔なじみ。よもやま話に花が咲きます。店は高齢者の「いこいの場」になっています。

 電動カートに乗って買い物にきた女性(83)は「一人では遠くに行けないので、ここに店があると助かります」。共働きの子ども夫婦と同居していますが、日中は一人。同店で買い物をして昼食を作るといいます。

 店のある中山地域は約400世帯が暮らします。かつて三つあった小売店は、いまや「ふるさとセンター山田」だけになりました。

 JA須高山田支所を廃止する説明会が06年12月に開かれ、その後住民たちは検討委員会をつくりました。アンケートをとり、「店を残してほしい」という住民の意向を確認。07年6月に株主を1株3万円で募集すると、148人の住民が応募。7月に株式会社「ふるさとセンター山田」が発足しました。JAから店舗や倉庫などを借り受けました。地元産のみそや小麦粉、「はぜ掛け米」は評判です。

 「外から買い求めにくる人もいますが、宣伝はしません。地元で作り消費する。地元住民の生活を支えるのが基本ですから」。こういうのは社長の渋谷久太郎さん(74)です。地元農家で農産物ごとに組織をつくり、自治体の助成制度を利用して事業を進めています。そこでつくった農産物や加工品を店で販売します。

 運営の秘けつは「住民のまとまり」と渋谷さん。昔から田畑に引く水で苦労したから住民がまとまったといいます。

 青いつなぎ服の夫婦が店に現れました。今年3月、大阪から米をつくるために移住。不耕起栽培の研究会に紹介されてきたものの、知り合いはいませんでした。「でも、よく受け入れてもらっています」。当地では耳慣れない関西なまりです。

 渋谷さんは笑顔で「来るもの拒まず。この人たちが先頭きって農業をする若者を呼びこんでくれたらありがたい」。古い村社会を守るためにがんばっているわけではない、といいたげです。(海老名広信)


「地産外商」 希望見えた

高知・四万十市

地図

 高知県四万十(しまんと)市西土佐大宮地区の住民が株主になり設立した、日用雑貨やガソリンを販売する会社「大宮産業」=竹葉伝社長(64)=が元気です。2006年5月設立時から連続黒字。旧西土佐村中心部から20キロ、愛媛県境の小さな集落にある住民の暮らしを守るとりでです。

 会社設立に動いたのは、JAが経営改善のため大宮にある出張所廃止を打ち出したこと。日用品や農業資材、ガソリンを販売する地区で唯一の店でした。存続運動も届かず05年10月に閉鎖が決定。存続運動をした人らが中心になり会社をつくり、販売を継続することになりました。

 竹葉さんは言います。「農協が撤退したのに経営が成り立つか、赤字になったら出資金が戻らない、などの不安は当然ありました。しかし、住民の“生命線”を守るには他に選択肢はなかった」

 住民108人が700万円を出資。県の補助を受け、建物と設備を買い取り事業を引き継ぎました。昨年度はのべ3万5882人が利用。精米機の購入など、1千万円余の設備投資をしても黒字を生みました。

 店で働く女性(63)は「ここに来る人はみんな顔見知りです。買い物だけでなく、おしゃべりも店の大事な“売り物”です」と話します。

 13人の経営アドバイザーを置き、要望を聞きながら、宅配サービスなどの経営改善をすすめています。

 しかし、厳しい状況には変わりません。

 高台にある大宮小学校。かつては中学校と併設で300人が通っていましたが、中学校は統廃合され、現在は小学生10人だけ。地区の人口は301人。65歳以上が45%を占め、人口減は続きます。

 いま会社が力を入れているのは地区にあるものを売り出す「地産外商」です。そのひとつが、四万十川支流のきれいな水で育つコメ。「大宮米」の名で高知市の量販店での販売や四万十市の学校給食用に出荷しています。11戸が取り組み今年は10トン販売しました。

 大宮地区には50ヘクタールの田んぼがありますが、荒廃地はありません。植えつけから稲刈り、もみすりまでひきうける「大宮新農業クラブ」が作り手のいなくなった田んぼの管理をして、耕作放棄地を出さないようにしています。

 同クラブ代表の岡村英幸さん(54)は「良いコメをつくり、大宮産業が販売する。車の両輪のようにして、地域の農業を守りたい」と語ります。

 ガソリンスタンドがなくなったら困る、買い物ができないので不便だ、との思いで始まった住民が株主の会社ですが、いまは、地域の存続をかける会社になっています。

 竹葉さんは「厳しいが方向性は見えた。農業者は土地から離れられないので、いかに地域の潜在力を生かすかが大事です。次代に大宮を引き継ぐために、負けてたまるかですよ」と力を込めました。(高知県・窪田和教)


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