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2009年8月4日(火)「しんぶん赤旗」

原水爆禁止2009年世界大会・国際会議へのあいさつ

「核兵器のない世界」へ――「核の傘」から離脱し、
名実ともに「非核の日本」を

日本共産党幹部会委員長 志位和夫


 3日、広島市で始まった原水爆禁止2009年世界大会・国際会議での志位和夫委員長の来賓あいさつ(全文)は次の通りです。


写真

(写真)原水爆禁止2009年世界大会国際会議であいさつする志位和夫委員長=3日、広島市

 尊敬する議長、海外代表のみなさん、友人のみなさん。原水爆禁止世界大会は、1955年の第1回大会以来、核戦争阻止、核兵器全面禁止・廃絶、被爆者の援護・連帯を、三つの基本目標として掲げ、運動を発展させてこられました。今日、この運動は、各国政府、国連をはじめとした国際機関、NGO、草の根の反核平和運動、市民が集う、反核平和の国際フォーラムとして大きく発展しています。

 私は、国際会議での発言の機会をあたえていただいたことに心から感謝するとともに、参加された内外のみなさんに、熱い連帯のあいさつを送るものです。

 私の発言では、日本共産党が、核兵器廃絶という人類的課題について、国際社会にたいしてどういう働きかけをしてきたかについて報告するとともに、被爆国・日本がこの問題で積極的役割をはたすために、いま何が問題となっており、何が必要かについてのべさせていただきます。

オバマ大統領への書簡――核兵器廃絶のための国際交渉の開始を

 友人のみなさん。この間、世界では、核兵器廃絶にむけた新しい状況が生まれました。米国のオバマ大統領が、4月5日、プラハでおこなった演説は、核兵器廃絶という私たちの悲願を、現実のものとしていくうえで、重要な意味をもつものとなりました。オバマ大統領は、「核兵器を使用したことのある唯一の核兵器保有国として、米国は行動する道義的責任がある」とのべ、「米国は核兵器のない世界を追求することを明確に宣言する」と、核兵器廃絶を米国の国家目標とすることを、初めて公式に言明しました。私は、日米関係のあり方などについては、米国政府ともとより立場の大きな違いがありますが、オバマ大統領のこの言明は、心から歓迎するものです。

 私は、この立場から、4月28日、一通の書簡をオバマ大統領に送りました。書簡では私の歓迎の気持ちを伝えるとともに、「同意できないこと」も率直にのべました。それは大統領が、「核兵器のない世界」をよびかけながら、その実現は「おそらく私の生きているうちには無理だろう」とのべていることです。広島・長崎から64年、核兵器保有国が、核兵器廃絶を正面からの主題にして交渉に取り組むということは、歴史上誰の手によっても行われていません。交渉の呼びかけから開始、開始から合意までには時間がかかるかもしれませんが、初めての仕事に取り組むときに、どれだけの時間がかかるかを、あらかじめ決めることは誰にもできないはずです。

 その意思さえあれば、すぐにもできることがあります。それは米国大統領として、「核兵器廃絶のための国際条約の締結をめざして、国際交渉を開始するイニシアチブを発揮する」ことです。私は、書簡で、このことを強く要請しました。

核兵器廃絶の目標と一体でこそ部分的措置が積極的意義をもつ

 友人のみなさん。書簡では、核軍縮にかかわる部分的措置と、核兵器廃絶についての、私たちの見解を伝えました。

 オバマ演説が「核兵器のない世界に向けた具体的措置」としてのべている、新しい戦略核兵器削減条約の交渉開始、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准、兵器用核分裂物資の製造を禁止する条約(カットオフ条約)の追求は、それぞれが前向きの措置であることは疑いありません。同時に、書簡では、「これらの具体的措置は、核兵器廃絶という目標と一体に取り組まれてこそ、肯定的で積極的意義を持つものとなりうる」こと、「(戦後の)核交渉の全経過が、核兵器廃絶という目標ぬきの部分的措置の積み重ねでは、『核兵器のない世界』に到達できないことを証明した、と考えます」とのべました。

 核不拡散条約(NPT)の体制をめぐっても事情は同じです。私たちは、どんな理由であれ核兵器保有国が増えることには反対ですが、NPT条約が前例のない差別条約であることを批判してきました。それでも国際社会がこの体制を受け入れてきたのは、条約の第6条に明記されているように、核保有国が核廃絶への真剣な努力を行うことを約束したからにほかなりません。そして、書簡では、この条約にもかかわらず、核保有国が増え続けているのはなぜかについて、「NPTが発効して以後39年間、(核保有国の)この約束が果たされてこなかったことに最大の原因がある」、「核保有国は、自らが核兵器廃絶に向けた真剣な取り組みを行ってこそ、他の国々に核兵器を持つなと説く、政治的、道義的な説得力を持つことができる」と率直にのべ、大統領に、「2010年の再検討会議において、核保有国によって、核兵器廃絶への『明確な約束』が再確認されることを、私は強く願ってやみません」と要請しました。

 5月16日、私の書簡に対して、米国政府からの返書が届けられました。返書は、オバマ大統領がグリン・デイビス国務次官補(代理)に指示し、次官補が大統領に代わって書いたものとなっています。返書では、「どうすれば私たちが最良の方法で核兵器のない世界を実現できるかについての考えを伝えていただいた」ことへの感謝が表明され、「この問題にたいするあなたの情熱をうれしく思う」との書簡への評価がのべられていました。こうした返書が公式に送られてきたという事実そのものにも、私はオバマ大統領の核兵器廃絶にたいする真剣な姿勢と熱意を感じました。

日米核密約を公表、破棄し、「非核三原則」の実行を

 友人のみなさん。このような変化しつつある世界にあって、日本が唯一の被爆国として「核兵器のない世界」にむけての積極的役割を発揮するために何が必要でしょうか。

 私は、その最大の焦点は、日本が、米国の「核の傘」から離脱して、名実ともに「非核の日本」となることにこそあると考えます。

 この間、日米核密約の存在が歴代の外務事務次官経験者の証言で改めて裏付けられ、大きな政治問題になっています。日米核密約とは、核兵器を積んだ米艦船・航空機が、日本政府との事前協議抜きに、日本国内に自由に出入りできるとした秘密協定です。核密約は1960年の日米安保条約改定時に合意されました。日本政府は、68年以降、「核兵器を持たない、作らない、持ち込ませない」という「非核三原則」を「国是」としてきましたが、核密約によって「持ち込ませない」の原則は空洞化されていたのです。核密約の存在は、2000年の国会でわが党の不破委員長(当時)が、米国の公文書をもとに疑問の余地のない形で明らかにしましたが、日本政府はその存在をかたくなに否定しつづけてきました。今回の外務事務次官の発言によって、核密約の存在が改めて裏付けられましたが、日本政府は「知らぬ存ぜぬ」の態度を変えていません。その一方で、核密約の存在がいよいよ動かしがたくなるもとで、日本の政界のなかに、核密約にあわせて「非核三原則」から「持ち込ませない」の原則を削除し、「非核二原則」に後退させようという逆流が起こっています。私たちは、こうした動きをきびしく退けます。核密約を公表し、それを破棄し、「非核三原則」を実行することを強く求めます。

もはや「核抑止」は通用しないという声が、広くあがりつつある           

 そして私たちは、日本が「核の傘」――「核兵器による拡大抑止」の立場から離脱することを強く求めます。日本政府は、オバマ演説にさいして、演説で提起された「核兵器のない世界」を促進する何らの行動もとっていません。反対に、米国に対して繰り返し、執拗(しつよう)に求めてきたのは、「核の傘」――「拡大抑止」の保障です。

 しかしもはや「核抑止」は通用しないという声が、かつて米国の核戦略を推進した元政権中枢の指導層からもあがっているではありませんか。「核抑止」とは、いざとなれば核兵器を使うという脅しによって、自らの「安全」を守ろうという考えです。それは核使用が前提となって初めて成り立つ論理です。しかし元米国国務長官のシュルツ氏はこう言います。「核兵器は非道徳だ。現代の世界にあって一体誰が核兵器のボタンを押せるだろうか。何十万、何百万という人が死ぬとわかっている核兵器を落とせるわけがない。文明国の指導者なら核は使えないのだ。使えなければ抑止力にならない」

 私はまた、オバマ大統領が、7月7日、モスクワで行った演説のつぎの一節にも注目しています。「核兵器を保有することによって国の威信が生まれる、あるいは、私たちは核兵器を保有できる国を選ぶことによって自らを守ることができるという考えは、幻想にすぎません」

「核の傘」から離脱してこそ、被爆国・日本が核兵器廃絶の先頭にたてる

 「核の傘」――「拡大抑止」とは、他の国の核兵器の脅しによって、自らの「安全」を守ろうという考えです。しかし、自国の核で脅すことも、他国の核で脅すことも、核による脅しに頼ろう、いざとなれば核兵器を使用しようということでは少しも違いがありません。日本国民は、核兵器の非人道性を、どの国の国民よりも体験している国民です。核による惨禍を体験した国が、核兵器による脅しにしがみつき、核兵器使用を前提とした論理にしがみつくことがどんなに間違いか。どんなに被爆国・日本の政府として恥ずかしいことかは、明らかではありませんか。

 私たちは、日本が、米国の「核の傘」から離脱し、名実ともに「非核の日本」となることを、強く求めます。そうしてこそ、被爆国・日本が、地球的規模での核兵器廃絶でイニシアチブを発揮する確固たる立場を得ることができます。さらに北朝鮮に対して、核兵器を持つなと説く、もっとも強い立場にたつことができます。「核抑止」「拡大抑止」は、核拡散にとってもその最大の元凶です。核で脅された相手は、同じ論理で核を持とうとするからです。私はこの場で、日本国民にたいして、名実ともに「非核の日本」をめざす強固な国民的合意をつくりあげることをよびかけるものです。

歴史をつくるのは人民のたたかい――新しい扉を開こう

 友人のみなさん。アメリカに核兵器問題での前向きの変化を促した根本の力は何でしょうか。いうまでもなく世界の平和を願う世論と運動です。

 私は、最近、被爆者団体のみなさんと懇談したさいに、ある被爆者が話されていた言葉が胸に深く残りました。「私たち被爆者が、戦後64年、あまりにつらい健康不安、健康悪化とたたかいながら、訴え続けてきたことが、やっと世界に届きました」。この人類的課題の帰趨(きすう)を決めるのもまた、世界の平和の世論と運動です。とりわけ被爆国・日本国民の世論と運動の持つ意味はきわめて大きいものがあります。

 私は、被爆国・日本で戦後一貫して核兵器廃絶を訴えつづけてきた政党を代表して、日本から「核兵器のない世界を」の声を広げに広げるために、あらゆる力をつくす決意を、ここで申し上げるものです。

 そして、来年5月3日から開催されるNPT再検討会議にむけて、世界的に取り組まれている核兵器廃絶の国際交渉を求める国際署名、再検討会議開会前日の5月2日に計画されている「核兵器のない世界のための国際行動デー」への心からの連帯を表明するものであります。

 友人のみなさん。歴史をつくるのは人民のたたかいです。長年私たちが追い求めてきた核兵器廃絶という目標が、現実のものとなる可能性が目の前に開けてきました。ご一緒に歴史の新しい扉を開きましょう。世界各国の人民のたたかいによって、「核兵器のない世界」を実現するために、ともに力をつくしましょう。

 ご清聴ありがとうございました。



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