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2009年8月1日(土)「しんぶん赤旗」

富裕層増税 世界の流れ

米・英・独でも 格差拡大の是正に有効


 世界中に押し付けられた新自由主義路線によって各国で貧富の格差が拡大しました。その是正を目指す動きとして、富裕層への増税を目指す動きが広がっています。(田中一郎)


 オバマ米大統領は2月に予算教書の概要を発表しました。ブッシュ前政権が進めてきた「金持ち優遇」の大幅減税を見直し、勤労者への減税を実施することを盛り込みました。高額所得者への所得税率の引き上げは大統領選挙からの公約の一つで、その実現を目指すものです。

 ブッシュ政権は2度にわたって実施した「金持ち優遇」減税で、年収25万ドル(約2400万円)以上の高額所得者の所得税率を35%まで引き下げました。これに対しオバマ政権は、既婚世帯で25万ドル、単身で20万ドル以上の高額所得者に対し、税率を39・6%まで引き上げる方針です。

 さらに米下院の民主党は7月14日に医療保険制度改革法案を発表。国民皆保険制度が確立されていない米国で、国民の97%まで保険対象を拡大することを目指すものですが、その財源としても富裕層への個人所得税増税を盛り込みました。ロイター通信が報じた米議会関係者の見通しによると、富裕層への所得税率は45%になります。

 「金持ち減税」見直しと医療保険制度改革に伴う財源として富裕層に求める負担総額は、10年間で100兆円以上に達します。

財産を増やす

 米国だけではありません。

 英国では、富裕層寄りと見なされている保守党のキャメロン党首が「高額所得者は公平な(税金の)負担を支払わなければならない」と主張。年間15万ポンド(約2340万円)以上の高額所得者への所得税率(現行40%)を50%に引き上げるべきだと求めました。(7月26日)

 秋に総選挙を控えたドイツでは、連立与党の社会民主党(SPD)が、労働者の社会保障負担を軽減するために高額所得者への課税を強化する富裕税強化案を発表しています。

 同党は、所得税最低税率を14%から10%に引き下げる一方、高額所得者への税率を45%から47%に引き上げる方針。ナーレス副党首は「投機バブルでこの数年間に財産を大幅に増やした人々は、われわれが経済危機を克服するために大きな負担をするべきだ」と述べています。

能力に応じて

 富裕層への増税が各国で検討されている背景の一つには、この間に富裕層減税が推し進められ、所得格差が大きく拡大したことが挙げられます。

 かつては米国でも所得税の最高税率は70%(1981年まで)、英国では83%(78年まで)、日本でも75%(83年まで)でした。

 その後、米国ではレーガン政権やブッシュ政権、英国ではサッチャー政権が最高税率の引き下げを実施。現在では米国35%、英国40%、日本40%にまで引き下げられたのです。

 この間に高額所得者の収入は激増しました。たとえば米国では、79年から2005年までの推移を見ると、所得最下位の20%の世帯の実質所得が1%減少したのに対し、上位5%は約80%も増加しました(米国勢調査局調べ)。

 その結果、06年には、所得上位のわずか1%の世帯が、全国民の収入の約23%を独占しているという専門家の指摘もあります。

 弱肉強食の新自由主義路線のもとで、国民が痛めつけられる一方で大もうけをした富裕層に能力に応じた負担を求めるのは、当然の流れといえます。

グラフ


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