2009年7月20日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
世論広げよう 国保料 高すぎる
2年連続引き下げた
20万署名が動かす
国民健康保険は日本の皆保険制度の根幹をなす最大の公的医療保険です。しかし、高すぎる保険料で、滞納世帯は加入世帯の20・9%、453万世帯(08年度)にのぼっています。国保料を2年連続で引き下げた福岡市からの報告と、解説で国保のあり方を考えます。
福岡市
福岡市の国民健康保険料が2年連続で引き下げになったことに、市民から喜びの声があがっています。
昨年は年所得200万円の場合に年間1万円引き下げでした。2009年度は、所得割の料率が前年度と比べ1・85%下がりました(介護分含む)。年所得233万円(所得割算定基礎額200万円)の単身世帯の場合、年額3万7千円引き下がる計算です。
署名運動と日本共産党の共同で市政を動かしたという確信が広がっています。
加入者8割が年収200万以下
福岡市の国保料が高すぎることは以前から問題になっていました。国保加入者の8割が年所得200万円以下の低所得者です。所得の2割を超す保険料で、滞納は国保世帯の4分の1、5万6千件にのぼり、保険証取り上げも1万4千世帯と、いずれも政令市最悪の事態でした。
一昨年の夏、民主商工会や新日本婦人の会、年金者組合など民主団体と日本共産党が共同で、「国保をよくする福岡市の会」を結成し、国保料の引き下げを求める請願署名運動を始めました。
当初は「国保は制度が難しく、署名が集まるだろうか」という不安もありましたが、「他市から引っ越してきて国保料の高さにびっくりした」「払いたくても払えない。何とかしてほしい」と広く共感が寄せられました。商店街ローラー作戦や団地ポスティング(ビラ配り)、イベント会場近くでの行動など、創意あふれるとりくみが広がりました。
署名は1年目、14万5899人分(人口の1割以上)、2年目のとりくみで今年6月までに累計20万人分を突破しました。
「なぜこんなに高いのか」。市民の疑問に押されて、市当局が提出した詳細な資料を分析してみると、国庫負担の削減の影響もさることながら、本来なら市が負担すべき赤字分や独自減免分などを国保会計に入れこみ、保険料に「上乗せ」していることが分かりました。
市は一般会計繰入金を抑制しています。一方で、博多湾を埋め立てる人工島事業には着工以来15年間、毎年100億、200億円もの予算をつけています。
新聞やテレビも、国保料が高すぎて払えず病気になっても医者にかかれない福岡市のひどい事態を繰り返し報道しました。
「会」は高まる世論を背景に、区長交渉、市議・市国保運営協議会委員への資料提供と訪問・要請行動を展開しました。
運営協議会も画期的な変化
それまで国保料引き上げに賛成してきた自民、公明、民主などの市議も請願を不採択にできず「継続審議」に。市長の諮問機関である国保運営協議会でも、被保険者代表が「とにかく高すぎる」「引き下げを」と発言するという画期的な変化が生まれました。
党市議団は国保料1人1万円引き下げの予算組み替え動議を提出するなど、議会論戦を積み重ねました。
「会」の有馬精一事務局長は「福岡市の国保のどこに問題があるか学習し、要求の正当性に確信を深めながら運動に取り組んできたことがよかった」と語ります。抜本的な引き下げを求め、来年秋予定の市長選挙までに累計50万人分をめざしています。(中条正実・党福岡市議団事務局長)
解説
国庫負担 1984年50%→今27%
国負担戻し減免拡大 無保険者の解消こそ
全日本民主医療機関連合会(全日本民医連)が、本年3月に発表した「2008年国保死亡事例調査」では、国保加入世帯のなかで、経済的事由により受診が遅れ、死亡にいたったと考えられる事例が08年の1年間だけで31件あったと報告しています。
3回目の調査ですが、雇用状況の悪化の中で失職し、国保加入手続きもできずに無保険状態となり、病状悪化、手遅れで命を失ったという事例が報告されています。
昨秋以降の急激な経済不況による雇用破壊や所得の低下で、国保料や医療費の一部負担金(窓口負担)の支払いが困難な方が増加することが懸念されています。
毎日新聞が行った国保保険料の調査で、「世帯所得200万円で、40歳代夫婦と未成年の子2人の4人家族。固定資産税5万円」のモデルケースの年間保険料を発表しています(6月8日付)。
これによると、08年度の最高額は大阪府寝屋川市で50万4030円、北海道喜茂別町50万2500円など、所得の25%を超える自治体があることがわかりました。これに加えて国民年金の保険料が夫婦2人で年間およそ34万円。所得税、住民税を支払えば所得の半分近くが徴収されることになります。
残ったお金でどうやって生計が立てられるのか。不思議です。私たちは「高すぎる」と批判し改善を求めてきましたが、すでに国保料を支払えること自体が不思議な高さに達しています。
厚生労働省は、年間の保険料上限を大幅に引き上げることで高額所得者の保険料負担を増やす案を検討しています。しかし、寝屋川市のように、すでに200万円の所得で上限に近い負担をさせられているのですから、上限の引き上げは今でも重い中間所得層の負担をさらに強めるだけです。
高すぎる保険料の原因は、1984年以来の国保財政への国庫負担の削減です。かつて国保総収入の50%近くが国庫負担でまかなわれていましたが、いまは27・1%にとどまっています。国庫負担の削減分が保険料を高騰させました。また、収納率向上のみにきゅうきゅうとし、保険料の取り立てと保険証の取り上げをすすめてきた行政が問題です。
小手先の繕いではなく、抜本的に国庫負担を増やし、保険料の引き下げを図るべきです。同時に、保険料の減免対象を大幅に広げる施策が必要です。資格証明書を交付されている人や保険証がないという無保険者が大量に生み出されています。無保険者の解消は喫緊の課題です。また、窓口負担の軽減が求められます。この点では、国保法44条に基づき窓口一部負担金の免除や軽減、無料低額診療事業の活用が大事になっています。(相野谷安孝・中央社会保障推進協議会事務局長)

