2009年6月3日(水)「しんぶん赤旗」

政府が宇宙基本計画決定

軍事衛星の活用盛る

憲法9条踏みにじる


 政府の宇宙開発戦略本部(本部長・麻生太郎首相)は2日、初めての宇宙基本計画を正式に決定しました。防衛省・自衛隊による軍事衛星の活用、民生技術を軍事分野に活用することなどを盛り込みました。これまで「非軍事」を原則にしてきた日本の宇宙政策を百八十度転換し、宇宙空間を軍拡に利用するもので、憲法9条を踏みにじる重大な問題点をはらんでいます。


 基本計画は、宇宙開発利用の力点を、従来の「研究開発」重視から「利用」重視に転換。そのうえで「宇宙を活用した安全保障の強化」「戦略的産業の育成」など、基本的な六つの方向性(別項)を掲げました。

 具体的計画として、安全保障、地球観測、気象など5分野の宇宙利用システムの構築、宇宙科学、有人宇宙活動など4分野の研究開発プログラムの推進を定め(別項)、今後5年間で人工衛星や探査機など34機の打ち上げを見込んでいます。そのために必要な資金は、戦略本部事務局の試算によると、官民合わせて最大約2兆5000億円。

 「安全保障を目的とした衛星システム」では、米軍と自衛隊が一体で進める、ミサイル防衛のための早期警戒衛星導入に向けたセンサー(検出器)の研究を明記しました。

 大規模災害監視などの名目で導入した情報収集衛星(事実上の軍事偵察衛星)の性能について、従来の制約を取り払って「商業衛星を凌駕(りょうが)する解像度」に高めることや、5年内に地球上の特定地点を1日1回以上撮影できる4機体制にするとしました。

「軍拡」へ露骨な転換

吉井議員の話

 昨年、自民・公明・民主の各党によって、宇宙基本法がわずか4時間の国会審議で成立しました。宇宙開発利用の目的に「安全保障」を入れることで、「非軍事」が原則だったこれまでの日本の宇宙開発のあり方を、「軍拡」へ百八十度転換するもので、日本共産党は強く反対しました。基本計画はこの転換を露骨に具体化したものです。

 日米共同で進めるミサイル防衛のための早期警戒衛星の導入は、法案審議では「別途考えるべき課題」としていたのに、早くも今回、搭載機器の研究が明記されました。

 また計画は、宇宙産業の育成を掲げています。宇宙科学の発展や国民生活を豊かにするのは当然です。宇宙開発に名をかりて、国民の税金を使って、軍需利権と結びつくゼネコン型公共事業のような新しい利益の場を宇宙につくることは、許されないことです。

 小惑星探査機や天文衛星の活躍など、日本の平和的な宇宙開発は、国際的に高い評価を受けてきました。しかし今後、研究者が軍事衛星の開発に動員されたり、研究発表で制約をうけることなどが心配されます。また、研究が軍事目的ではないかとの懸念を生み、国際的な信用を失いかねません。科学技術の発展の障害となります。

 密室で策定された基本計画の危険性を国民に知らせ、世論を広げる必要があります。憲法の平和原則に撤した宇宙開発へ、国民多数と結んで国会内外で奮闘したいと思います。


 宇宙基本計画 昨年施行された宇宙基本法にもとづいて策定される、今後10年程度を見通した5年間の宇宙開発利用についての国家戦略。5年後をめどに見直されます。

■基本的な六つの方向性…▽宇宙を活用した安心・安全で豊かな社会の実現▽宇宙を活用した安全保障の強化▽宇宙外交の推進▽先端的な研究開発の推進による活力ある未来の創造▽21世紀の戦略的産業の育成▽環境への配慮

■9分野のシステム・プログラム…▽宇宙利用システム(アジア等に貢献する陸域・海域観測衛星システム、地球環境観測・気象衛星システム、高度情報通信衛星システム、測位衛星システム、安全保障を目的とした衛星システム)▽研究開発プログラム(宇宙科学プログラム、有人宇宙活動プログラム、宇宙太陽光発電研究開発プログラム、小型実証衛星プログラム)

宇宙の軍事利用めぐるおもな動き

1969 宇宙開発事業団が発足。宇宙開発を「平和の目的」に限り「自主・民主・公開・国際協力」の原則を明記した国会決議(宇宙の平和利用決議)。国会も政府も「平和の目的」を「非軍事」だと明確化

1985 自衛隊が通信衛星を利用するさい、政府は「平和の目的」の解釈として、利用が一般化している衛星と同様の機能の衛星に限って認める見解を表明(一般化理論)

1998 事実上の軍事偵察衛星である情報収集衛星の開発に着手

2003 情報収集衛星を打ち上げ。内閣官房が運用し、防衛省(庁)が利用する形態

2004 日本経団連が、平和利用原則の解釈の見直し、産業化の促進を提言

2006 自民党防衛族、防衛省幹部、軍需産業による研究会が、海外活動のインフラ整備など、自衛隊による宇宙活用の必要性を提言
 自民党が「平和の目的」の解釈変更を狙う政策提言。議員立法による新法制定に着手

2007 自民・公明両党が、宇宙開発利用の目的に「安全保障」を盛り込んだ宇宙基本法案を提出

2008 民主党が自・公に加わり一部修正した同法案を共同提出。わずか4時間の国会審議で成立
 宇宙開発戦略本部が発足。宇宙基本計画の策定作業開始

2009 防衛省が宇宙開発利用に関する基本方針をまとめる
 日本経団連が、早期警戒衛星や軍用電波傍受衛星の導入など要望
 初の宇宙基本計画を策定



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