2009年5月21日(木)「しんぶん赤旗」

強殺米兵に賠償命令

横須賀女性殺害 国の責任は認めず

横浜地裁


 神奈川県横須賀市で二〇〇六年、米空母キティホーク乗組員に殺害された佐藤好重(よしえ)さん=当時(56)=の夫・山崎正則さん(61)ら遺族が、米兵と国に損害賠償を求めた訴訟の判決が二十日、横浜地裁(水野邦夫裁判長)で言い渡されました。判決は、リース・ジュニア・ウィリアム・オリバー被告に対し、総額約六千五百七十三万円の賠償を命じましたが、国の責任は認めませんでした。


公務外でも責任問う

 国側は、公務時間外の米兵犯罪は個人問題で、米軍と国に責任はないと主張してきました。しかし、公務時間外に職務の執行とは関係なく行われた場合であっても、監督権限の不行使が著しく合理性を欠くときは、国の賠償範囲を定めた「民事特別法一条等の適用上違法となり得る」との解釈を示しました。しかし、今回の事件では著しく合理性を欠くとまでは認められないとして、退けました。

 裁判所は判決の中で、本件のような不幸な出来事が繰り返されないよう「状況に応じた有効な監督措置を講じていくよう」在日米軍に苦言を呈し、判決を言い渡したあとにも裁判長が、「判決に込められたメッセージを関係各位に、十分理解を」と言い添えました。

 判決後の記者会見で、山崎さんは「国と米軍の責任が認められなかったのは悔しいが、たたかってきたことは評価されると思うと妻に報告したい」と語りました。

 弁護団は、控訴を視野に入れて対応を検討するとしています。

 判決を受け、原告団、弁護団らは、防衛省、外務省、防衛省南関東防衛局に米兵犯罪の根絶を要請しました。

 事件は二〇〇六年一月、洋上での長期の演習・訓練を終えて横須賀に戻った被告が、夜通し酒をバーで飲み、強盗目的で通勤途上の好重さんを襲い、殺害。その残虐さは戦場で人を殺すことを教育された兵士特有のものでした。

米軍・国は真剣な対策を

原告団など声明

 横須賀米兵強殺事件国家賠償訴訟原告団・同弁護団・山崎正則さんを支援する会は二十日、米兵による強盗殺人事件に関する賠償請求にたいする横浜地方裁判所の判決について、次の声明を発表しました。

 裁判所は、米兵犯罪の特殊性を考慮した高額賠償を認める勝訴判決を出したが、米軍・国の責任は認めなかった。米兵犯罪は、政府の密室の措置により社会的に知らされずに「やみの中に葬られる」歴史をたどってきた。原告らは、泣き寝入りせずに、本訴を提起し、公開の法廷で事実を明らかにし、この判決を勝ち取ったものであり、米兵犯罪の根絶にとって、大きな前進である。

 判決は、公務時間外の米兵犯罪についても米軍の監督責任が発生しうること自体は認めたものの、本件については具体的な義務違反までは認められないとして、米軍・国の責任は認めなかった。結果的に、米軍・国が米兵犯罪について責任を問われることはないに等しい。これでは、米兵犯罪の続発を防止することは不可能に近い。

 一方で、判決は、米軍によってちゅうちょなく人を殺戮(さつりく)することができるように訓練された米兵による犯罪であることや、本件犯行が執拗(しつよう)かつ残忍なものとなっていること等を指摘し、高額の賠償を認めたもので、被害者が抱き続けている無念さや怒りを適切に評価したものである。

 米軍と国は、その責任の自覚の上に立って、今こそ、米兵犯罪を撲滅するための真剣な対策を行うべきである。

たたかいと連帯

党神奈川県委

 米兵強盗殺人事件の判決について、日本共産党神奈川県委員会の小池潔委員長は二十日、「引き続き被害者のみなさんの勇気あるたたかいと連帯して、日米地位協定の抜本改定と基地撤去、日米安保条約の廃棄を求めて奮闘する」とのコメントを出しました。

 コメントは、公務外で起こした米兵犯罪の第一次裁判権の大部分を日本が放棄する不当な密約のもとで、米兵犯罪が闇から闇に葬り去られる歴史を繰り返してきたと指摘。原告らが泣き寝入りせず、事件を法廷で明らかにし、堂々とたたかった結果、公務時間外の米兵犯罪であっても米軍の監督責任が発生しうることや、高額賠償を認めさせることができたとして、「米軍と国の責任を事実上認めさせたことに匹敵する」としています。



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