2009年5月18日(月)「しんぶん赤旗」

国立大“交付金削減もう限界”

人員・研究費減で教員にストレス…党国会議員団調査


 「運営費交付金の削減がつづくのは大変苦しい。人文系学問が切り捨てられている」「これ以上削減がつづけば教育系大学から倒れていく」。石井郁子副委員長・衆院議員など日本共産党国会議員団がおこなっている大学実態調査で、学長との懇談の席上、大学運営に責任をおう立場からだされた切実な訴えです。

 国立大学が法人化されて五年たちました。「法人化前の公費投入額を十分に確保する」とした国会決議(〇三年五月)にもかかわらず、大学の基盤的経費である運営費交付金は毎年1%削減され、五年間で七百二十億円も減っています。

 今回、国会議員団が訪れた東京学芸大、東京外国語大、九州大、福岡教育大でも、教育・研究現場の深刻な実態が明らかになりました。その特徴を紹介します。

 その一つは、人件費削減によって教職員数が減少し、必要な授業を維持することさえ困難になっていることです。東京学芸大では、附属学校を除いて教員の一割にあたる三十人の教員が減り、その穴埋めに他の教員の授業負担を増やすとか、任期制の特任教員や非常勤講師で補っているといいます。教員定数をふやすなどとてもできません。鷲山恭彦学長は、「これだけ人員を減らす一方で成果をあげろというのは矛盾している」とのべ、国への批判を隠しませんでした。いずれの大学でも人員削減は限界にきています。

 もう一つは、教員一人あたりの研究費が減少し、その面でも困難がうまれていることです。東京外国語大では、一人あたり年間三十万円しかなく、その中から世界の雑誌など専門誌を購入すると残るのは半分です。これで授業に必要な経費や研究旅費などをすべて賄わねばなりません。新しいコンピューターも買えないといいます。

自由な研究不可能

 こうしたなかで、必要な研究費を確保するには、国などの審査によって配分される「競争的資金」の獲得に挑戦しなければなりません。大学院の専攻ごとに数億円規模で配分される大型の研究資金(「グローバルCOE」など)や、研究者ごとに配分される科学研究費補助金などがあります。

 しかし、グローバルCOEは国公私立三十数大学に重点配分されるだけであり、科学研究費補助金も申請数に対して採択されるのは二十三%(〇八年度)にしかなりません。教育系大学の場合は、こうした資金をうける機会は少ないのが実態です。

 しかも、競争的資金の申請作業のために教員が多くの時間を割かれ、授業負担の増加などと合わせて、ゆとりをもった自由な研究ができないといいます。東京外国語大の亀山郁夫学長は、「教員に大変なストレスをうんでいる。プロジェクトにおわれるのでなく、じっくりと教育研究にとりくめないといけない」と、強く訴えました。

 いずれの学長の発言からも伝わってくるのは、それぞれの大学が果たしている役割への誇りであり、これを守ろうとする使命感です。教育系大学は地方の教育界にすぐれた人材を送り出す責任をおっています。外国語大学は世界の多様な言語や文化についての教育・研究をつうじて、社会の進歩に寄与しています。国立大学がこうした役割をひきつづきはたすために、予算削減のなかでぎりぎりの努力を強いられているのです。

大本に「構造改革」

 石井議員は、四月八日の衆院文部科学委員会で質問にたち、これまでの調査で明らかになった実態や学長の切実な訴えなどを紹介しながら、政府に運営費交付金の1%削減の中止を求めました。しかし、塩谷立文部科学大臣は「今の状況あるいは御指摘を踏まえて検討していきたい」と答弁するにとどまりました。

 運営費交付金の削減で国立大学が陥っている深刻な実態を社会に告発し、その大本にある「構造改革」路線からの転換を求める世論と運動をさらにひろげることが必要になっています。(改正 充 党学術・文化委員会事務局次長)



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