2009年4月7日(火)「しんぶん赤旗」
社会リポート
MD11 問題多い
舵反応0.2秒遅れ 機体不安定に
成田の横転・炎上事故 ベテラン機長が告発
米フェデックス貨物機が成田空港で着陸時に横転して炎上、乗員二人が死亡する事故から二週間がたちました。機体があおむけにひっくり返った異常な事故。事故機のマクドネルダグラス社(現ボーイング社)製MD11型機がかかえる問題点が改めて浮かび上がってきました。(宇野龍彦、遠藤寿人)
事故当時、ウインドシア(急激な風速の変化)が発生していました。ウインドシアで向かい風が減少すると、機体を持ち上げる力(揚力)が減り、機体が急に下降します。しかし、この日の他の着陸機でトラブルは起きませんでした。事故前に十機が、ウインドシアを確認し管制に報告しながら無事に着陸しています。
MD11型機の操縦経験もあるベテラン機長(58)は、事故の映像を見ていいます。「ウインドシアで急な降下があっても、着陸時の一回目のはねあがりは異常です。機首が下がった姿勢での二回目のバウンドも奇妙です。着陸態勢時は失速速度を少し上回る速度で進入します。その際、パイロットは操縦桿(かん)操作を慎重に操作します」
小さい尾翼
航空関係者によると、MD11型機は経済性を追及して尾翼などが小さく、上空での航行のさい重心が機体後方に移動するように設計されています。上下の動きが「不安定」で操縦しにくいと指摘されていました。安定性を補うために新鋭コンピューターシステムが導入されたものの、事故が多発しています。
MD11型機は二〇〇一年の製造中止まで十年間で約二百機製造されました。九二年から二〇〇〇年までの九年間で発生した事故は三十九件。大破、全損事故は五件、機体がひっくり返る異常な事故は今回で三件目です。ボーイング社が発表した機種別の全損事故発生率を見ると、MD11型機だけが異常に高いのが特徴です。
一九九七年の日本航空706便(MD11型機)の乱気流事故の裁判で明らかになったことがあります。パイロットが加盟する日本乗員組合連絡会議(日乗連)は、NASA(アメリカ航空宇宙局)の研究員が航空機の操縦性能を研究したリポートに注目しました。パイロットが操縦桿を動かしてから実際に舵(かじ)が動き始めるまでの間に「時間的遅れ」が生じるというのです。リポートは「わずかな効きの遅れは、姿勢の急変からのとっさの回復操作の際に、一時的な操縦不能の状況を引き起こす」と指摘しています。
リポートによると最近の飛行機の「時間的遅れ」は〇・一―〇・一五秒ですが、MD11型機はMD社の資料によると、さらに大きい「〇・二秒」です。
リポートは「十分な操縦性能」を保てるのはせいぜい〇・一秒以内とし、〇・二秒では「操縦特性の低下」をもたらし、〇・二五秒以上だと「パイロットは十分に対応ができない」と危険視しています。
性能調査を
事故機の着陸時の映像について、「操縦が遅れ遅れになっている」というコメントもありました。前出の機長は「〇・二秒の遅れがあると、機敏な操縦が必要とされる着陸という大事な時に、意図に反して昇降舵(だ)の効きが遅れます。パイロットの大きな舵の操作や、操作の効果があとで出てしまうというオーバーコントロールを誘発し、機体が不安定になる危険な欠陥がMD11型機にはある」といいます。
日乗連事故解析委員の一人は「航空の安全性向上のために、予断のない科学的な事故原因の解明を求めたい。悪天候や操縦ミスですまさず、MD11型機の操縦性能にまで踏み込んだ調査をしてほしい」と語っています。
日本航空706便事故 1997年6月、香港発名古屋行き日航706便(MD11型機)が紀伊半島上空で、乱高下する事故に遭遇。ベルトを締めていなかった乗員乗客が負傷。天井に頭をぶつけた客室乗務員1人がのちに死亡し、事故調査報告書をもとに、機長の刑事責任が問われ起訴されました。しかし、2007年、事故調査報告書からは、大揺れの原因は特定できないとして無罪が確定しました。

