2009年3月26日(木)「しんぶん赤旗」

介護認定 新基準

厚労省見直し

根幹変わらず

“実態に合わない”


 厚生労働省は要介護認定の新方式に伴って四月から導入しようとしている新たな調査基準について二十四日、見直し策を公表しました。見直しはごく一部で、「私たちの常識では考えられない」(「認知症の人と家族の会」)と批判されていた根幹は変わりません。「常識外れ」の基準はたくさん残されています。


 問題になっているのは、新基準を記載した『認定調査員テキスト2009』。一部見直したのは、寝たきりの人の「移乗」、認知症にかかわる「買い物」や「金銭の管理」など数項目。そのほか、「自立」「できる」を「介助されていない」に置き換えますが、言葉を変えるだけで、判定結果には影響を与えません。(別項)

 それ以外の多くの項目は見直されていません。たとえば、「えん下(げ)」(食べ物をのみ下すこと)の調査項目では、普通食でむせる人でもトロミをつければ飲み込めている場合は、「できる」と判断されます。従来なら「見守り等」とされたケースです。

 「トロミをつけて飲み込めれば見守りが必要なくなるかのような判断は、乱暴だ」と批判が上がっています。

 「排尿」と「排便」では、ポータブルトイレの後始末を介護者が一括して行う場合も「一部介助」から「自立」に変更されます。

 聞き取り調査で「自立」や「できる」が増えれば、コンピューターによる一次判定で要介護度が急激に下がりかねません。

 調査項目や参考資料がごっそり削減されるため、二次判定を行う審査会での一次判定の是正も、これまで以上に難しくなると批判されています。

 「認知症の人と家族の会」の高見国生代表理事は、「一部見直したといっても、認定結果がその人の実情とかい離したものになる危ぐは依然として残る。介護保険制度そのものへの信頼が失われる恐れがあるのではないか」と話しています。

 日本共産党は、新認定方式に問題が山積みだと指摘し、見切り発車を中止するよう求めています。


厚労省の見直し策

(1)「自立(介助なし)」「できる(介助なし)」を「介助されていない」に表現だけ変える。

(2)重度の寝たきりの人の「移乗」を「自立」とする新基準は変えず、体位変換の介助を受けている場合に「全介助」とする。

(3)「買い物」「金銭の管理」で、むだな買い物をしているかどうかを問わない新基準は変えず、家族が返品や精算をしている場合に「一部介助」とする。

(4)「薬の内服」で、飲む時間や量の理解は問わないとの新基準は変えず、量の指示などを受けている場合に「一部介助」とする。


介護新認定の「非常識」

認知症 ジャガイモ70個購入でも

金銭管理「自立」

 一年前の春の日。

 埼玉県に住む久保宏さんとリウマチの持病をもつ妻の明子さん=いずれも仮名=は、病院へ出かけました。

 腰が痛む明子さんはタクシー。体を鍛えることが好きな宏さんは自転車を使い、病院で落ち合う約束でした。ところが、待てども宏さんが到着しません。

 一時間後にタクシーから降り立った宏さんは、大粒の汗を流して七十個のジャガイモを抱えていました。

 立ち寄った店で「格安だったから」がまとめ買いの理由でした。運び切れず、タクシーに乗ったのです。

 宏さんは、認知症の一つであるピック病です。感情の抑制をつかさどる脳の前頭葉や側頭葉が委縮する病気です。買い物にでかけると、安売りの野菜を買えるだけ買ってしまいます。

 「要介護3」の認定を受け、三年前から介護保険のデイサービスなどを使います。

 「一人で買い物も計算もできるので、家族は大変なんです。買いたい衝動を抑えられないのですから」。買いすぎないよう諭したり、大量の野菜を処理したり。明子さんの苦労は絶えません。

 認定調査の基準は、こうしたケースでも変えられています。(表)

図

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現場から批判が噴出

 要介護認定調査の新基準を事細かに記載した冊子が『認定調査員テキスト2009』です。昨年十二月に厚生労働省が公表し、各自治体が研修会を開いて配布を始めると、認定調査員の間で非難の的になりました。

 「ひとり暮らしや高齢者世帯の利用者を切り捨てるつもりとしか思えない」「非該当者が増える」「研修会の会場はブーイング状態」などのやりとりが交わされています。

 新基準は、介助が必要と判断する範囲を狭めています。

 例えば、必要のないものを多数買ってしまう宏さんのようなケースです。宏さんは「金銭の管理」の調査項目で「一部介助」と判断されてきました。

 しかし『テキスト2009』は、「無駄な買い物をしているか、あるいは適切な財産の管理をしているか等の金銭の使用の適切さについては問わない」と注釈を付け加えています。支出入の管理や計算さえ自分で行っていれば支出が不適切でも「自立(介助なし)」を選択せよ、との指示です。新設される「買い物」の調査項目の基準も、同様です。

 批判を受けて厚労省は、家族が返品や精算をしている場合に限り「一部介助」とする見直し策を講じました。しかし金銭の使用の適切さを問わないという基準自体は残します。品物に執着するために返品が難しい宏さんは「自立」となります。

項目を74に削減

 聞き取り調査の項目は八十二あり、四月から七十四に削減される予定です。その多くに同様の判断基準の後退が盛り込まれています。厚労省の見直し策はこれら新基準の原則そのものを変更しません。

 「認定が軽度になることがないように見直す」(舛添要一厚労相)というのなら、四月実施をストップして根本的に再検討するしかありません。(杉本恒如)



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