2009年2月23日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

生かす 山の幸 海の幸

岩手


 「地方切り捨て」政治のもとでも農山漁村の再生に向け地域の資源や技術、魅力を発見し生かす努力が広がっています。気仙(けせん)杉、気仙大工で知られる岩手県の気仙地方(大船渡市、陸前高田市、住田町)では―。


陸前高田市 藤倉泰治市議リポート

地図

 気仙大工や左官を全国に送り出した岩手県気仙地域は、気仙川が流れ森林の資源と海の幸をあわせもつ恵み豊かな地域です。

 その河口部に位置する陸前高田市の最近の活気ある様子を藤倉泰治市議がリポートします。

「間伐で山生き返った」

 陸前高田市は六年前、中里長門市長のもとでリゾート開発優先から切り替え、長年培われた資源を生かした農林水産業中心の産業振興とその全国発信に力を入れています。

 川上の住田町とともに、この流域の森林資源と木材加工団地は全国的にも「西の耳川(宮崎県)、東の気仙川」といわれ、林業先進地域です。製材、木材加工、住宅建築などの木工団地が立ち並び、その筆頭にあるのが気仙木材加工協同組合連合会です。地元の森林組合、製材業協同組合などが共同で設立、建築材、集成材など高次加工品を生産し、販路は首都圏です。二十年間で売上額を伸ばし年間十二億円に達し、従業員も当初の三倍の七十人になりました。

 「気仙杉」という良質な木材加工生産と雇用拡大から一昨年度の全国農林水産祭で「天皇杯」を受賞、文字通り日本一の折り紙がつきました。今年度も、市の補助をうけ、木材表面を平滑にするモルダー施設棟を建設中です。

 景気悪化の影響にもめげず、いまも連日、原木を満載した大型トラックが十五台以上も出入り。工場内はフォークリフトが動き回り、製材加工機械の音が響きます。

 森林では若手の林業担い手が伐採作業に励んでいます。森林組合の作業班には、国の「緑の雇用」対策によって新たに二十代、三十代の若手が入って七人。その一人藤原さん(29)は二年前、よそから転職し、「山の仕事に慣れ、間伐したあと山が生き返るようだ」と働きがいを語ります。

 陸前高田市の森林面積は約一万八千ヘクタール、市全体の80%を占め、東北でも有数の森林資源です。全国的な木価低迷でも、間伐などの欠かせない森林整備の仕事はいくらでもあるといいます。地元森林組合ではさらに担い手確保に努めています。

新養殖貝の技術開発

 養殖漁業、水産資源でも「広田湾」ブランドで全国発信しています。毎年、北洋から回流し沖合の定置網で水揚げされるサケ、マス。気仙川で跳びはね、遡上(そじょう)し産卵する様子は秋から冬の風物詩です。

 品質日本一を誇るカキは築地市場に直送され、三陸のワカメ生産は全国一。そして今注目株は研究熱心な次世代の担い手たちです。

 新養殖貝として「エゾイシカゲガイ」の技術開発に成功、すしネタとして中央発送がはじまっています。珍重されていても養殖研究の歴史が浅かった二枚貝ですが、若い世代の共同の取り組みが進んでいます。

 昨年の市町村合併議論をへて自立の道を選択し、中里市長も、今年は「陸前高田市の魅力がいっそう増す年に」「全国に誇れる特色あるまちづくりを」と強調しています。

 豊かな農林水産業の資源、そこに息づく気仙大工、林業技術や養殖漁業。こうした魅力と可能性を存分に生かした資源活用・循環型の産業振興と、市民が主人公、農林水産業関係者・団体が輝くまちづくり―そこに、自立し持続できる陸前高田市の伸び行く道があると実感しています。

気仙大工の里

郷土史家(大船渡市) 平山憲治氏に聞く

匠の技で民家、歌舞伎座も

 「気仙大工」研究の先駆者平山憲治氏(大船渡市在住)にインタビューしました。平山氏は自らも大工。著書や調査活動を通じて気仙大工の歴史と技術を紹介しています。郷土史家。七十一歳。

 東京オリンピック(一九六四年)の時期、この小さな地域から三千人の大工が東京に出稼ぎに行きました。私もです。関東大震災の復興、大阪城天守閣の復元にも多くの気仙大工が携わりました。

 いま東京の歌舞伎座の建て替えが計画されていますが、和風建築の傑作と称賛された歌舞伎座(一九二四年建築)、その軒唐破風(のきからはふ、軒の一部の伝統的な造形)にも力を発揮しています。大林組のもとでの棟梁(とうりょう)三浦仁助、脇棟梁佐々木房吉は陸前高田市気仙町の大工です。

 この地の大工は「建築界に気仙大工あり」と言われる腕のいい技術をもちます。施主の希望にそってデザイン、アイデアを考え、独自性を追求していく。図面をかくのは設計者ですが、縮小された図を原寸大にし立体化していくのは棟梁、大工です。そこに宮大工の技術、出稼ぎ先で得た技術、独学で学んだ技術を存分に生かす。

 出稼ぎ先から逆輸入した技術は気仙の社寺、民家に結実しています。私も、陸前高田市の「気仙大工左官伝承館」建設委員として、この技術の伝承にかかわりました。中里市長も技術の伝承に力をいれてくれています。

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 気仙地方は九割近くが山で、そこに育つ「気仙杉」は朱身(あかみ)の色、つや、香りがいい。温暖なせいか、苗を植えて五年もたつとしんがきれいな朱になるんです。林業家はその木を育てる。大工は木の育ち、特質を知り尽くして家をつくる。

 杉の製材業は江戸時代から盛んになり、漁業や養蚕とともに、まちの活力源でした。今は山が成長するのに木は安く林業は苦しい。ようやくもちこたえている状態ですが、陸前高田市では気仙木材加工協同組合連合会が賞を受賞するなど頑張っています。

 第一次産業も大工も、取り巻く状況は厳しい。でも価格保障など農業、林業、漁業を大事にする施策に取り組めば再生できます。地震対策というと大手事業所に仕事をとられてしまうが、個人的に直せるものもあります。小規模でもできるシステムがあれば助かる。優れた技術を遊ばせるのはもったいない。

 農業では小さい集落がまとまって自発的に直売に取り組む工夫も始まっています。

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 生まれ育ったこの土地に何があるのか、できるのか。気仙地方は古代からの産金地といわれながら、どこが金山なのか突き止めないできた。そこで産金遺跡を調べていくと、武田信玄の古文書で金は堅い石ではなく赤土からとっていたことがわかりました。シンポジウム開催や関係者の協議会ができるなど関心も広がっています。

 発見の喜び、地域の魅力をもっとみんなのものにしていけば、地域の活力になります。


 気仙大工(けせんだいく) 気仙地方の大工集団。民家、社寺のほか、彫刻もし建具もつくります。江戸時代からの出稼ぎは、農閑期だけでなく通年に近い。明治時代から北海道、東京、大阪まで出稼ぎに行き、各地に建造物があります。(平山)



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