2009年2月16日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

人と環境に優しい稲作


 食料自給率が四割を切り、食べものの安全も心配と「食」をめぐる不安が強まっています。そんな中、山間地で規模は小さくても地域が育てる米作りや、人と環境に優しい米作りをすすめている取り組みがあります。二つの例を紹介します。


コウノトリとの共生

兵庫・豊岡

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 環境にやさしい農業を実践する農業者として二〇〇三年に兵庫県からエコファーマーに認定されたのを契機に、「おいしくて安全な米作り」をと専業農家五人で豊岡(とよおか)エコファーマーズを結成しました。折しも、野生のコウノトリの生息地だった豊岡市では、〇五年九月にコウノトリ野生復帰の取り組みとして放鳥を開始する計画で、えさ場として水田の管理が重要なポイントでした。これを米作りと両立させようとする試みでした。

■38年前に絶滅

 一九五五年代、水田の圃場(ほじょう)整備や河川改修によって湿田は姿を消し、川と水路が分断され生き物は激減しました。農薬でえさになる生き物はいなくなり、コウノトリの体もむしばまれ、七一年に野生のコウノトリは絶滅しました。

 一度絶滅したコウノトリを野生に帰すわけですから、農業を通して多様な生き物を育(はぐく)む農業の方法を模索、実践する必要がありました。農業者は兵庫県、豊岡市をはじめ各機関と連携してコウノトリと共生するために試行錯誤を重ね「コウノトリ育む農法」として環境にやさしい米作りに取り組みはじめました。

 そのため、冬には田んぼに水を張り、七月中旬まで水を残し田んぼのなかの生き物を育みます。殺虫剤を使わなくとも、害虫にはカエルやカマキリ、クモ、トンボといった益虫が活躍し、被害を最小限におさえてくれます。

■微生物も大切

 現在、コウノトリ育む米作りをしている農家は法人も含めて百十農家、百八十ヘクタールです。当地域の平均的な収量は十アール当たり約八俵、コウノトリ米は五―六俵くらいです。

 消費者とのつながりは、量販店や米屋を通して、豊岡エコファーマーでは各々が直接全国の消費者に、また兵庫農民連では遠くは秋田県の米屋にまで及んでいます。消費者のみなさんからは「コウノトリとの共生ができる環境のおかげで、安全で安心できるとともに、大変おいしい」と好評を得ています。

 田んぼの中の目に見える生き物だけでなく、微生物やミジンコ、イトミミズなどの大切さ、それを育む田んぼの大切さや可能性に気づきました。まだまだ収量も少なく、害虫の被害もないわけではありませんが、田んぼの面白さを実感しながら、また人間をはじめ生き物にとって良い自然環境とは何かを考えながら楽しい米づくりをしていきたいと思います。(豊岡エコファーマー・田中定)

地域で守る農村風景

宮城・大崎

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 現在、一般的な米の価格は農業を続けていける価格を大幅に下回っています。このままでは日本の風景だけでなく、暮らしそのものが失われかねません。宮城県大崎(おおさき)市の「鳴子の米プロジェクト」は、県内最北の小さい「鳴子」という地域にこだわり、無理せず鳴子ができることをやろうと地域の力を集めて二〇〇六年に始まりました。

■新品種が誕生

 このプロジェクトをモデルにNHK仙台局がドラマ「お米のなみだ」を制作し、放送されました(二〇〇八年)。全国の若者から食や農を考え直したいという大きな反響がありました。

 プロジェクトの目標は(1)農を地域全体で考え、農家と地域住民が協力し合う(2)市場経済の価格に合わせるのではなく、作り手の再生産可能な価格を食べ手が支える―です。現在、生産者米価は一俵約一万二千円。それを約十年前の価格の一俵約一万八千円を作り手に保障し、プロジェクト事業や若者の受け入れなどの経費六千円をプラスし、一俵二万四千円で販売することです。

 実践行動として、山間地の適地適作の米を探し、「東北181号」に出合いました(新品種登録され「ゆきむすび」と命名)。〇六年に三人三十アールから試験栽培を始め、三年目は三十五人十ヘクタールに広がりました。収穫された六百俵の「ゆきむすび」はプロジェクトが活用する分を除き、地元鳴子をはじめ全国各地の人々にすべて届けられました。地域のお母さん方が五十種類のおむすびを試作したり、くず米の米粉を使って団子屋、パン屋がお菓子やデザートを作り、漆職人やおけ職人が器を作ってくれました。お米から、地域の力で「鳴子ならではの食」になりました。また、暮らしや食文化の聞き取りや「鳴子の米通信」を発行してきました。

 お米を農家だけでなく地域のみんなで育てるという、この取り組みに賛同の輪が広がっています。販売を予約のみにしているのも、お米を食べる支え手の“安心して作ってください”という思いと“おいしいお米を届けます”という作り手との「信頼」がプロジェクトの柱にあるからです。

■関心持つ若者

 これからの大きい目標は、若者と向き合っていくことです。食や農がどうなるのか、どうしたらいいのかと、鳴子に話を聞きに来る大学生などの若者が多くなりました。希望の持てる思いが、若い人たちの中に芽生えているのを感じます。

 そういうきっかけを通して、一人ひとりの気持ちの変化がとても大事なことと思っています。

 三年目を迎え、二〇〇八年十月一日に「特定非営利活動法人 鳴子の米プロジェクト」に発展させ、持続できる取り組みへ新しい挑戦を始めました。この鳴子温泉地域で、NPO法人鳴子の米プロジェクトは農と食、地域を大切に、鳴子の田んぼや米作りをあきらめず、じっくり行動していきたいと思います。(大崎市鳴子総合支所観光農政課 安部祐輝)


 コウノトリ 翼を広げると二メートルにもなり、体は白、風切羽とくちばしは黒、目の周りと足が朱色で肉食の鳥です。野生で生息するには里山や田んぼ、川や水路にバッタ、ドジョウ、フナ、カエル、ミミズなど多様で膨大な生き物が生息する自然環境が必要です。



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