2009年2月4日(水)「しんぶん赤旗」

主張

海自への初勧告

軍事優先ただすことが重要


 海上自衛隊のイージス艦「あたご」が漁船「清徳丸」に衝突・沈没させた事件の海難審判で、横浜地方海難審判所が「あたご」の所属する第三護衛隊(京都府舞鶴市)に再発防止を求める勧告を行った裁決が確定し、先月三十日第三護衛隊に勧告書が送付されました。

 海上自衛隊の組織に勧告した裁決が確定し、執行されたのはこれが初めてです。それだけ海自の責任が重大だったことを示すものです。防衛省・自衛隊は勧告を真剣に受け止め、こんどこそ衝突事故をおこさない抜本的な対策をとる必要があります。

形だけの事故防止策

 勧告書は、「あたご」の「清徳丸」に対する動静監視が「不十分で、その進路を避けなかったことが主たる原因」だと断定しています。

 「あたご」は、衝突二十七分前には「清徳丸」を含む漁船群が「あたご」の右舷前方を航行していたことを知り、その後も「清徳丸」の存在を確認する機会がいくらでもありました。にもかかわらず動静監視を十分に行わず、海上衝突予防法にもとづく右転して衝突を回避する義務も果たさなかったのです。「あたご」に釈明の余地などないのは明らかです。

 勧告書は、「あたご」や海自組織がまとめた再発防止策では「艦全体としての安全運航を阻害する複合的な要因が除去されたものとは認められない」といっています。きわめて重要な指摘です。

 事件後、「あたご」は艦内の情報共有体制の改善や乗組員の再教育などの措置を講じ、第三護衛隊も運航安全総点検など再発防止策をまとめました。しかし、それでは再発防止策にならないと判断したからこそ勧告は執行されました。

 政府・防衛省は、自衛隊教育に問題があったかのようにいっていますが、海自の組織も「あたご」の操船にたずさわった艦長以下の幹部自衛官も、海上自衛隊幹部学校などで十分な時間をかけて、海上法規などを熟知しているはずです。再教育さえ行えば再発防止が可能だというのは、事件の本質を見ない、表面的な見方です。

 自衛隊は、一九八八年に潜水艦「なだしお」が東京湾で遊漁船「第一富士丸」に衝突・沈没させた事件で、見張り体制の改善や海上法規などの再教育などの再発防止策をまとめました。にもかかわらず海自は、再び同じ誤りをくりかえしました。海難審判所がきびしい勧告をだしたのは当然です。

 勧告書にはもりこまれていないものの、見過ごせないのは自衛隊・自衛官のなかにある軍事優先意識です。漁船が大きな軍艦を避けるのは当たり前という考えがある限り、軍艦による衝突事故の危険はなくなりません。「そこのけそこのけ軍艦が通る」といった軍事優先体質とごうまんな態度を根本から改めることが、再発防止策の最大の課題です。

軍事大国化に歯止めを

 最近の自衛隊のおごりは目に余ります。田母神俊雄前航空幕僚長は現職中に政府見解に反し、侵略戦争を正当化する発言をくりかえしました。おごりの背景には、海外派兵を強め、自衛隊の活動の場を広げる政府の政策があります。

 自衛隊の暴走を許さないために、自衛隊への国民的監視を強めるとともに、自衛隊増強に反対し、軍事大国化に歯止めをかけることがいよいよ重要です。



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