2009年2月2日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

こんなダム 必要?

建設阻止 住民運動


 治水に役立たず、環境も破壊するダム計画が、流域住民の粘り強い運動に押されて見直しを迫られています。熊本県知事が反対した川辺川ダム、近畿四府県知事が計画の白紙撤回を求めた大戸川ダム(滋賀県)は二〇〇九年度政府予算案に本体事業費は盛り込まれませんでした。批判が高い北海道のサンルダムと長野県の浅川ダムについて現地から報告します。


内水災害に 効果はなし

長野・浅川ダム

 長野市北部を流れる浅川は、千曲川と合流する流路延長約十七キロメートル、流域面積六十八平方キロメートルの中小河川です。

 浅川の上流域は、飯綱山に連なる山地地形で、一九八五年に死者二十六人を出した地すべり災害を発生させた地附山をはじめ、多数の地すべり地が存在し、A級の活断層とされる長野盆地西縁断層の存在が指摘されています。一八四七年の善光寺地震の震源も、ダム建設予定地から約一キロメートルの地とされています。一九三九年には、浅川上流域で、農業用ため池である論電ガ谷池の堤防が決壊し死者十一人を出しています。

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 浅川ダムは七六年に計画決定され、九六年、ダムの付け替え道路が、長野オリンピックのボブスレー・リュージュ会場へのオリンピック道路としても利用できることからループ橋形式で建設され、事業採択時には百二十六億円だった浅川ダムの事業費は、この時点で三百三十億円、その後さらに地すべり対策が追加されて四百億円に膨らみました。

 「暴れ天井川」の異名を持ち、古くから洪水被害を繰り返してきた浅川ですが、浅川の水害の主要な原因は、最下流で合流する千曲川の河床が浅川より高く(合流点では堤防が七メートルも高い)、自然流下できなくなることによる内水災害です。しかも、ダム建設予定地より下流は、長野市でも一番の人口密集地で、都市化が急速にすすみ、コンクリートで固めた町からは、雨が降れば、いっせいに雨水が浅川に流れ込む都市型水害への対応が重要であり、危険な地すべり地帯にあえてダムを造っても、水害は防げないのです。

 日本共産党は「無駄で危険なダム建設はやめ、くらし優先の県政を」と主張し、千曲川との合流点付近への遊水池の設置や雨水の各戸貯留などの都市型水害対策を提案してきました。

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 浅川ダムは、住民の世論と運動で四回にわたって本体着工を延期させてきたものの、二〇〇〇年八月、談合がうわさされていた大手ゼネコンに本体工事が発注されました。

 その直後の県知事選挙で田中康夫氏が当選。ダム建設は凍結、「脱ダム宣言」が出され、〇二年七月、県議会が知事不信任決議を可決しました。直後の知事選挙で田中知事が再選され、浅川ダム本体工事契約は解除となり、さまざまな妨害を乗り越えながら、ようやくダムによらない治水対策の検討が始まった矢先、〇六年八月に元自民党衆院議員の村井仁氏が当選、翌年二月に再び穴あきダム計画が発表されました。

 世論の力で模型実験を公開させましたが、質問するたびに穴の位置や大きさが目まぐるしく変わる矛盾に満ちた計画は、〇九年度に本体工事着工の予定ですが、いまだ詳細設計が公表されていません。

 日本共産党は「ダム本体に使う百八十億円を県民のくらしに」とがんばっています。(石坂千穂・長野県議)

サクラマス 激減に危ぐ

北海道・サンルダム

 北海道のサンルダム(北海道下川町)は、治水・利水効果が薄く、環境も破壊することから建設計画に待ったの声が高まっています。とくに貴重な漁業資源のサクラマスの激減が危ぐされています。

 サンル川は、日本海にそそぐ日本第四の長流・天塩川の支流の名寄川の支川です。上流は日本有数のサクラマスの産卵場所です。遡上(そじょう)数は日本一といわれ、河口から二百キロに及ぶ遡上と自然産卵は「奇跡的」と評される清流です。

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 日本近海に分布するサケ科の魚―サクラマスは北海道では河川で一年半を過ごし、オスの一部とメスが降海して大きく成長し、一年後に故郷の川に戻ります。川に残ったオスと稚魚がヤマメと呼ばれます。

 サンルダムは洪水調整、流水機能維持、水道用水、発電に利用するという多目的ダムで総事業費は五百二十八億円。ダム計画を進める道開発局は「サクラマスがダムを通過するための魚道を造って生息環境への影響を最小限にする」としています。

 しかし自然保護団体は「大規模ダム建設でサクラマス資源が保全された例はない」と指摘します。太平洋側の沙流(さる)川に建設された二風谷(にぶたに)ダム(平取町)は魚道を造りましたが、放流魚以外のサクラマスはほぼ絶滅したと推定されています。

 サクラマスだけではなく、クマゲラやヒグマが生息する周辺地域の生態系への影響が懸念されています。

 昨年五月の日本共産党道議団の調査では、ダム建設用の道路整備でエゾサンショウウオがすむ清流がよどみ、ミズバショウの群生が姿を消していました。実験用魚道付近で発見された絶滅危ぐI類のコガタカワシンジュガイの保全も重要課題です。

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 治水・利水効果では、「そもそもなぜダム建設が必要なのか」という根本問題が解決していません。サンル川は流域面積全体の3%。「ダムに洪水調整の効果があるとはとてもいえない」と研究者は指摘します。

 地元住民は「水害を防ぐというなら、未完成の堤防整備こそ急いでほしい」と要望の声を上げています。計画されている水道水量、発電量はわずかです。

 魚類への影響を調査する「天塩川魚類生息環境保全にかんする専門家会議」はダム建設推進の立場です。

 日本共産党の紙智子参院議員の質問主意書への政府答弁で、同会議の委員八人のうち、三人が開発局からの事業受注公益法人と受注企業からの選任であることが判明。辻井達一座長は道開発局と多年にわたり委託・研究をしており、委員の大半が開発局と深い関係にあることが明らかになりました。

 紙議員は「専門家会議の委員が受注企業・法人に所属していては適切な議論ができるとは思えず、人選も議論もやり直すべきです」と厳しく指摘します。

 「ダム建設で取り返しのつかない環境破壊が起きる」との声にもかかわらず、来年度予算の財務省原案では、本体工事の掘削費が計上されました。

 道自然保護協会など環境保護を求める十団体は、疑問に答えるよう道開発局と専門家会議に話し合いの場を持つよう求めています。(北海道・小泉健一郎)



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